IPO審査を乗り切る労務戦略

開催情報
2022年9月30日(金) 13:30~15:00/Web
セミナー概要
IPOでは企業の労務管理も確認されます。労働諸法令を遵守していない場合、IPOが中止になるだけでなく、会社自体にも様々なリスクが生じることに…
本セミナーでは、在宅勤務の労働時間管理や解雇トラブルなど、コロナ禍ならではの論点も取り上げ、IPOにおける労務審査を解説しました。
セミナー総括
1.IPO審査で見られる4つの労務リスク
IPO審査では、上場する企業としてふさわしいかどうかという観点から、労働基準法等の労働諸法令のコンプライアンスが遵守されているかどうかが確認されます。

もしも違反した場合、会社には主に下記のリスクが発生します。

(1)
金銭リスク
未払賃金など、決算書を見ただけでは把握できない簿外債務です。
(2)
信用リスク(風評リスク)
飲食店のバイトテロにより、飲食店経営企業に風評被害が発生し売上がダウンする等のリスクです。
(3)
訴訟リスク
ハラスメント被害にあった従業員に訴えられ、何百万~何千万の賠償請求が発生する等のリスクです。これも簿外債務にあたります。
(4)
行政処分リスク
保健衛生上の問題による営業停止処分等のリスクです。

上記のようなリスクが上場後に発覚した場合は、株主に大きな影響を与えてしまうことになるため、IPO時の労務審査にあたっては、これらのリスクの有無が重要な観点となります。
2.未払残業代問題の確認ポイント
IPO上問題となる主な労務リスクの1つが「未払残業代」です。
「うちの会社は大丈夫」と考えている担当者の方も多いのですが、悪意がなくとも意外なところで未払残業代が発生していることがあります。
未払残業代は、一度計算を間違えると数ヶ月から2~3年を遡って修正を行った上、 労働者に差額を支払わなければならないという金銭リスクがありますので、改めてチェックいただきたい項目の1つです。

未払残業代が発生する原因は大きく3つあります。

①不適正な労働時間管理
タイムカードを備え付けておらず労働時間を記録していない、会社や上司からの明示・黙示の指示により一定時刻になったら強制打刻している、 月30時間を超えた分はカットする、日単位で15分や30分単位未満を切捨てている、などが該当します。

②割増賃金計算の過誤
「残業代は基本給だけで計算し、手当を含めていません」という会社も見受けられますが、割増賃金計算に含める手当は法律で決まっていますので、認められません。



また、残業単価を割り出すために年間所定労働時間を使用しますが、この年間所定労働時間を会社で定めた固定の時間で計算してしまっているようなケースも違法です。 年度が変わったら、その年度の休日数等に応じて年間所定労働時間も算出しなおす必要があります。

このほか、不適正な定額残業制度も問題になることがあります。
ベンチャー企業やIT企業では定額残業制度を導入していることが多いですが、実態を見ると法律上定額残業制度として認められないケースもあり、そういった場合は未払残業代が発生することになります。

定額残業制度は以下の3点を満たしている必要がありますので、自社で定額残業制度を採用している場合は改めて見直すことをお勧めいたします。

(1)
基本給や諸手当と定額残業代が明確な金額で区分されているか
例)「残業代込で30万円」ではなく、基本給25万円+定額残業代5万円
(2)
定額残業代に相当する時間数が明示されているか
例)「定額残業代5万円は20時間分」と明記
(3)
時間外労働時間数は正確に把握しており、それを超えた時間数の時間外労働があった際に追加して残業代を支給しているか
例)30時間残業した場合は、差分の10時間分の残業代を支払う

③名ばかりの管理監督者
労働者の労働時間や休日に関して、企業が遵守すべき内容が労働基準法により決まっていますが、管理監督者には適用されません。
それを「管理監督者にしてしまえば残業代を払う必要がない」と逆解釈した結果発生しているのが、名ばかり管理職問題です。



管理監督者は経営者と一体的な立場にあるもので、名称にとらわれず実態に即して判断されます。
実際に裁判になった場合は5割~7割は企業が敗訴するくらい、管理監督者と認められるハードルは高く、 IPO時のショートレビューでも「管理監督者は自社内でどういった定義づけがされているか」 「組織図で管理監督者の位置づけがどうなっているか」などはよく聞かれます。
回答が適正でなかった場合、「残業代逃れの名ばかり管理監督者」と受け取られることもありますので、自社の管理監督者が要件を満たしているかは十分に確認しておきましょう。

未払残業代請求の消滅時効について、今は激変緩和措置として3年になっていますが、今後は5年に延長されます。 5年というと対象者が退職している可能性も十分に出てきますが、 もし未払残業代があったということになれば、退職者分の清算も必要になります。



退職者の連絡先を辿り支払いを行っていくのは非常に大変な作業です。IPO審査でも退職者に対する未払残業代の有無は問われますので、 本当に自社に未払残業代がないか見直し、仮に発生していた場合はすばやく対応していくことが重要です。

【関連コラム】未払い残業問題でIPO準備が止まる?! IPO準備段階では労務問題の早期解決が鍵!
3.コロナ禍における労務管理
コロナ禍で注目される労務管理の論点として「在宅勤務時の労働時間管理」および「解雇トラブル」があります。

・在宅勤務時の労働時間管理
コロナ禍になったことで、テレワークをどう労働時間管理するか考えずに導入してしまった企業が多いのが実情です。 在宅であっても、労働である以上は適正な労働時間管理が必要となりますので、まだ制度が設計されていない場合は、どういう方法で労働時間管理するのかを早急に決定・整備し、規程に落とし込んでいくことが重要です。

エクセルに時間を入力してもらう、手書きで書いてもらうなど自己申告で管理する方法もありますが、 それらでは上司の命令・会社の暗黙的なルールなど担当者の意思が介在しますので、客観的な記録という意味では、タイムカードやクラウド上の勤怠管理が求められます。
監督署から必ず質問されるのは、「実労働時間」と「自己申告した労働時間」に乖離が発生していないかどうかの実態調査は何を以て行っているのか、という点です。
これはIPO審査でも質問されることがありますので、例えばパソコンのログといった客観的な記録を用いて調査を行いましょう。



・解雇トラブル
日本は世界的に見ても労働者保護性が高く、解雇のハードルは高い傾向があります。
もしも合理的な理由なく解雇を行い、それが「権利の濫用」と見なされた場合、損害賠償やバックペイ(解雇言い渡し以降の賃金支払)などの訴訟リスクに繋がる可能性があります。
コロナ禍による不況で解雇を検討する企業が増えていますが、この状況下でも安易な解雇はNGです。



解雇が権利の濫用と見なされないようにするためには、どういう場合に解雇になるかを就業規則に明記しておくことが必要ですが、 解雇が会社側の一方的な意思によるものである以上、いざ実行した時にトラブルになるリスクは大きくなります。
トラブルを避けるには、解雇はあくまでも最終手段として、退職勧奨による合意退職を行う必要があります。
合意退職であれば、本人が合意している以上後々問題になる可能性が低くなりますので、不況だといってすぐに解雇を実行するのではなく、合意退職で解決できないか考えることが重要です。
4.労務監査の2回の実施がIPO実現をスムーズにする
上記で紹介したのは一部ですが、これらの労務コンプライアンスをチェックするのが労務監査です。
法令上の義務になっている会計監査と異なり、労務監査は法令上の義務ではないため、必ずしも監査報告は必要ではありません。
しかし、IPO審査では労務分野の重要性は年々増してきており、証券会社から「社労士や専門家に労務監査をしてもらってください」と言われるケースもあります。

いざ上場、というタイミングで課題が多い労務監査報告書があがってきてしまうと上場が先延ばしになる可能性もありますので、 労務監査は上場前に2回実施することをおすすめしています。
まず1回目で課題を表面化させ運用を改善し、改善後に2回目の労務監査を行い、最終的な労務監査報告書を以て、上場に臨むのがベストな流れです。

自社のIPOスケジュールに労務監査も組み込み、スムーズなIPOを実現していきましょう。

▼セミナーでは以下の内容も取り上げました。
・36協定、就業規則等の整備・運用
・社会保険加入の不適正
・過重労働問題
・ハラスメント、メンタルヘルス対策
・労働安全管理体制の未整備
・労務監査の概要と流れ、必要な書面

【関連コラム】過重労働問題、メンタルヘルス…多岐にわたる労務問題、IPO準備段階での対策は? 【関連コラム】働き方改革法案成立。IPO審査における労務関連分野のトレンドは?

IPOに必須のテーマを学ぶ場所|IPO塾 by IPO Forumネットワーク IPOに必須のテーマを学ぶ場所|IPO塾 by IPO Forumネットワーク
講師紹介
アイ社会保険労務士法人<br>代表社員/社会保険労務士<br>土屋 信彦氏
アイ社会保険労務士法人
代表社員/社会保険労務士
土屋 信彦氏
得意分野はIPOやM&A及びリスク対応にかかわる労務監査や就業規則整備。
証券会社、税理士会、宅建業協会、異業種交流会等でのセミナー多数。
埼玉県社会保険労務士会理事、社会保険労務士会川口支部副支部長等を歴任。名南経営LCG会員。上場実務研究士業会会員。
人事担当者向け情報が充実!詳しくはホームページをご覧ください。
アイ社会保険労務士法人 ホームページ

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IPOを目指す経営者や企業をワンストップでサポートする、IPOの専門家によるネットワーク組織。
2014年発足。 事業計画書作成支援、内部統制構築支援などの実務サポートのほか、 IPOの審査トレンドを解説する「IPO Forum」を半期に1度開催し、 資本政策、労務管理など、IPOに必須の論点を解説する「IPO塾」を年間を通して開催している。 メンバーによるコラムも定評がある。


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IPO Forumネットワーク紹介資料

著書「この1冊ですべてがわかる 経営者のためのIPOバイブル 第2版」(中央経済社)

監査法人内研修でも活用される、プロが認めたIPO指南書。
株式公開を行うために必要となる前提知識・資本政策・人員体制・ IPO準備で絶対にやってはいけないことまで、Q&Aで優しく解説。
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