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その目標管理制度、形骸化していませんか?目標管理制度を社員の働きがい向上に繋げるには

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社会保険労務士杉原事務所所長特定社会保険労務士 杉原 浩志

目次

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1 目標管理における企業の現状

目標管理(Management By Objectives through Self Control:略してMBO)は、組織のマネジメント手法のひとつで、目標達成に向けたプロセスを上司、部下の双方が進捗を管理することにより、組織目標を効率的に達成する手法のことです。目標管理を適切に実施すると、社員は、会社や部門の目標の達成のために、役割を踏まえた目標を上司の助言の下で設定して目標に対して強くコミットするようになります。上司は、目標の達成に向けて部下を適切に助言・指導できるようになることが期待できます。

しかし、目標管理制度は、形骸化するなどその運用が上手くいかず、問題を抱えている企業が殆どであるといっても過言ではありません。労務行政研究所「目標管理制度の運用に関する実態調査(2013年度)」の調査では、次のような問題点が浮き彫りになっています。

▲労務行政研究所「目標管理制度の運用に関する実態調査(2013年度)」
▲労務行政研究所「目標管理制度の運用に関する実態調査(2013年度)」

問題点をクローズアップすると、目標管理制度は効果が無く、制度の維持継続は無駄であるように思えます。しかしながら、実は普及率は88.5%と依然高く、問題だらけの目標管理制度であるものの、何かしらの効果や廃止しがたい魅力があるように思われます。もちろん、組織目標の浸透、組織目標達成のための手段、成果測定の手段などのマネジメント手法としての意義から制度が指示されていることは否定しませんが、アンケート結果を見る限り、それだけでは制度を存続させる理由は見当たりません。制度が指示されている理由、つまり目標管理制度が持つ何かしらの効果や廃止しがたい魅力をあらためて整理し、再認識する必要があります。

2 目標管理の役割

目標管理制度導入後数年経過したクライアント企業で、部下との面談や部下への指導・支援が熱心で制度に肯定的な上司にヒアリングすると、「あらためて部下と膝を突き合わせて話す機会があってよかった」、「こういった機会でもないと、部下の良い点を褒めたり、改善してほしい点を指導したりすることがない」「お陰さまで○○くんが育ってきた」「一体感が高まった」といった回答が返ってきます。また、そういった上司は、部下に対し、目標をSMARTの原則(具体的か、測定可能か、達成可能か、成果重視か、期限は明確か)に則って適切に設定するよう助言し、日頃の指導・支援を適切に行う傾向があり、部下の育成に熱心です。青山学院大学の陸上競技部が目標管理制度を活用していることは有名ですが、目標管理制度を記録向上の手段のみとして捉えるのではなく、一体感を醸成する手段としても捉えると、青山学院大学の強さの秘訣を垣間見ることができます。

このように、目標管理制度は、コミュニケーションを通して、一体感の醸成、部下の育成、上司の信頼向上を可能にする他、離職率低減、メンタル不全の防止にも効果をもたらすことが期待できます。離職率低減やメンタル不全防止へと結び付けるのは、飛躍的な印象を受けるかもしれませんが、上司と部下とのコミュニケーションの充実、上司の信頼度の向上や一体感の醸成がこれらに効果をもたらすことは、紙面の都合で詳細は省きますが、多くの調査機関のアンケートや統計結果からもいえることです。

目標管理制度がもたらす一体感の醸成、部下の育成、上司の信頼向上、離職率低減及びメンタル不全の防止とは、つまり働きがい向上に繋がる要素ではないでしょうか。調査機関Great Place to Workの定義によると、働きがいのある会社とは、「従業員が会社や経営者、管理者を信頼し、自分の仕事に誇りを持ち、一緒に働いている人たちと連帯感を持てる会社」です。目標管理制度の適切な運用は、この実現に少なからず寄与することは容易に想像できます。

私たちは、目標管理制度を単にマネジメント手法として捉えるのではなく、同制度が持つ本質的な効果や魅力にもっと目を向けるべきです。マネジメント手法として捉えるだけならば、それは人を「管理」する無味乾燥な制度にしか過ぎません。しかし、適切な運用によって働きがいの向上に繋がる制度であることを意識すると、目標管理制度は、人が働くことの意味に関係する本質的な効果や魅力を持つ制度に変わります。

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3 目標管理の役割を最大限に活かすために

良い点ばかり述べていますが、目標管理制度に対して否定的な上司が多いことも現実です。否定的な上司が実施する目標管理が上手くいくはずが無く、上司自身がやらされ感を抱いているので、部下の目標は曖昧で、目標の文言中に「頑張る」「努力する」「意識する」といった成果を測定できない文言が入っていても、平気でそれを目標として確定してしまいます。そもそも正しく評価しようとすらしていないのですから、日頃の指導・育成をおざなりにすることは言うまでもありません。

では、なぜ否定的な上司が多いのでしょうか。否定的な上司にヒアリングすると「仕事が忙しくて余裕が無い」「面談に時間がかかるので面倒」「やっても意味が無い」などの回答が返ってきます。業務が細分化専門化しつつある昨今では、管理職といえどもプレイングマネージャーとならざるを得ないことは理解しているつもりですが、否定的な上司は、目標管理制度に真剣に向き合ったことが無いため、その効果や魅力に気づくことができないのが理由だと考えています。そして同時に、気づくことさえできれば、肯定的な上司に劇的に変化すると考えています。筆者のコンサルティングの経験上、制度導入当初は否定的だった上司でも、目標管理制度の効果や魅力に気づき、それまでの思い込みを棄却することによって劇的な変化を遂げる事例は多々みられます。

目標管理制度の効果と魅力を上司に気づかせるためには、以下のことが必要です。

① 現場への介入
② 上司教育

①現場への介入とは、企業の制度担当者や制度に肯定的な直属以外の上司が面談等への現場に立ち会い、目標設定方法や部下とのコミュニケーション方法について助言することです。第三者の支援によって目標管理制度に真剣に向き合わせることができれば、成功への第一段階は完了です。

②上司教育とは、目標管理制度を表面的なマネジメント手法の視点だけではなく、働きがい向上の視点で教育することです。マネジメント手法を全面的に出すと、たとえロジカルな理屈でも味気なくて心に響きません。それよりも、目標管理制度は、コミュニケーションを通じて、一体感の醸成、部下の育成、上司の信頼向上に繋げることができる手段であり、適切な運用により働きがいを向上させることができるという効果や魅力を前面に出すべきと考えています。

4 具体的な運用方法とは

目標管理制度の運用方法や人事評価とのリンクは企業毎にマチマチです。サイクル(達成率の評価期間)は、短い会社で1ヶ月、長い会社で1年程度としています。どの程度のサイクルが適切かという質問に答えは無く、組織目標の設定サイクル、業種、風土、人事評価とのリンク、恒常的な業務の繁閑の程度などにより左右されます。筆者は、一般的な企業であれば3ヶ月~6ヶ月程度が適切ではないかと考えています。目標管理制度は、面談を実施することが必須(面談をしない目標管理制度は全く意味がありません)であり、面談は回数よりも内容が重要だからです。それに、真剣に向き合えば向き合うほど上司に相当の負担を強いることも配慮しなくてはいけません。

通常、面談は、上司と部下とマンツーマンまたは複数の上司と部下で行いますが、面談だけでは、各メンバーの目標をチーム内で共有化することができません。ITの活用やメンバー全員参加による会合形式で実施することも大切です。目標設定を面談でなく会合で行うこともできますし、面談による目標設定後に会合で目標の発表をすることもできます。期中であれば、会合で進捗報告をしても有効です。ただし、進捗状況の報告は、達成率が人事評価と強くリンクしている場合は、参加者に報告者の評価を想像させてしまうため、実施困難です。

人事評価とのリンクは、一般社員は弱くして、役職レベルが高くなれば高くなるほど強めていくイメージが適切です。筆者は、一般社員は評価全体の20~30%程度、中間管理職で30%~40%、部門責任者で40~50%程度を勧めていますが、これも企業の実情に応じて決定すべきことです。希に一般社員にもかかわらず人事評価と100%リンクさせている企業がありますが、制度に否定的な上司の下で働く部下は浮かばれませんし、メンバーの進捗状況を共有することは事実上不可能で、場合によっては、目標すら共有できないことになりかねません。制度を表面的なマネジメント手法としてだけではなく、社員の働きがいを向上させる手段であることを意識すれば、100%リンクさせることに疑問を感じるのではないでしょうか。

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5 最後に 〜働きがい向上に向けて〜

目標管理制度の見直しや導入を検討している企業は、マネジメント手法の視点のみで制度設計するのではなく、社員の働きがい向上のための手段であることにも視点を向けて制度設計してはいかがでしょうか。サイクルの長さ、面談方法、会合方法、ITの活用方法、教育の内容、人事評価とのリンクの強さなど運用の枠組みは、どの視点に立って制度設計するかによって自ずと決まってきます。そして、どのような視点に立って制度設計するかによって、制度がもたらす効果が違ってきます。 

杉原 浩志

杉原 浩志 社会保険労務士杉原事務所所長特定社会保険労務士

平成6年に社会保険労務士業を開業。社労士として中小企業の指導に携わるうちに、法令に基づく人事労務管理だけではなく組織論に基づいた人事労務管理の必要性を痛感し、平成20年に人事労務コンサルティング業に進出し、組織の活性化をテーマに、人事・賃金・評価制度等のコンサルティング業務を開始。現在、顧問先270社の指導に携わる傍ら、岐阜県大垣市内の社会福祉法人(特養その他施設)の理事長を兼務し、社労士業・コンサル業で培ったノウハウを実践している。

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