ケーススタディで納得!
【第六回】どう再構築する同一労働同一賃金における キャリア開発とワーク・ライフ・バランス

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株式会社BDO人事総合研究所/BDOアドバイザリー株式会社代表取締役高瀬 武夫

前回『ケーススタディで納得!【第五回】どう再構築する同一労働同一賃金を支える評価制度』において、目標管理制度により戦略業務の達成度を業績・成果として公正に評価し、「仕事・役割等級基準」によりコース別・等級別に期待される仕事・役割(能力・知識)の評価を行い、処遇と育成につなげる評価制度について説明しました。

同一労働同一賃金の考え方を取り入れるためには、働き方の多様性の確保(キャリアコース別の人事管理)が重要であり、多様な働き方に応じた均衡待遇に立脚した人事管理が求められます。多様な働き方が選択できそのパフォーマンスを公正に評価できる評価制度、評価結果を適正に処遇に反映できる賃金制度・賞与制度について「働き方改革推進プロジェクト」において順次再構築してきました。これらの人事制度を狙いどおりに機能させ運用実績をあげるためには、経営層・管理職および社員全員の意識改革が重要となります。ワーク・ライフ・バランスを確保し、働き甲斐があり働きやすい会社として機能するには社員一人ひとりの意識改革が重要となります。


意識改革の必要性について『ワーク・ライフ・バランス憲章』に学び、社員一人ひとりの自律的なキャリア開発の仕組とワーク・ライフ・バランスを確保するための『3軸モデル(企業人・社会人・家庭人)』での議論が展開されます。

C店長
「これまでのプロジェクトにおける制度再構築は的を得たものと理解しています。同一労働同一賃金ガイドラインに則して働き方の多様性を確保し、働き方の違いによる均衡待遇を図るためにキャリアコース別の人事管理を行う。キャリアコース別にそれぞれ期待される仕事・役割を明示し、年度目標のブレイクダウンを目標管理制度により展開する。そして期待される仕事・役割の達成度および年度目標の達成度を公正に評価し、処遇と育成につなげる。という一連の制度は働き方の多様性とそのパフォーマンスに応じた処遇という観点から納得性が高いといえます。

一方で、社員自身がどのキャリアコースを選ぶか(自分のキャリアをどう設計するか)を今まで以上に真剣に考えなければいけないし、自分の成長がなければ処遇も変わらないという厳しさも合わせもっています。多様な働き方ができる制度が用意された中で、どういう働き方を選択し、どうキャリア開発していくかは各社員の「自己責任」という面が強くなると思います。

残念ながら、社員の意識はそこまで追いついていないと思います。社員一人ひとりの意識改革も同時に進めていく必要があると思います。」

人事部長
「C店長の言われるとおり、社員一人ひとりの意識改革は当然に求められると思う。さらに経営層および管理職には、より強く・早くそして深く意識改革してもらう必要があると思う。

生産年齢人口(15~64歳)の減少による人手不足が加速し、長時間労働や育児・介護が社会問題となり、働き手の就業価値観等が多様化・複雑化する中で安倍内閣の働き方改革が推進されている。この働き方改革に則してプロジェクトで人事制度の再構築を進めてきたが、この制度を狙いどおりに活かしきれるかは経営層・管理職の意識に大きく左右される。今回の制度改訂の全体の狙い・目的を正しく・深く理解し意識を変えてリーダーシップを発揮してもらうことが求められる。働き方改革は単なる長時間労働の削減にあるのでなく戦後からの数十年に及ぶ働き方を抜本的に見直す改革であるということを企業人経験の長い人こそ意識してもらうことが肝要と言える。」

人事課長
「今回の制度改訂の直接的なトリガーは、『同一労働同一賃金ガイドライン』といえますが、このガイドラインは「働き方改革」の一つの解決の方向性を示しており、働き方改革の全体を示している訳ではありません。「働き方改革」で何を目指しているかといえばワーク・ライフ・バランスをいかに確保した上で労働生産性をどう向上させるかにあると言っていいと思います。先程、人事部長が「今回の制度改訂の全体の狙い・目的を正しく・深く理解する」ことの重要性をお話し戴きましたが、全体の狙い・目的を正しく・深く理解するためにはこのワーク・ライフ・バランスで何を目指しているかを理解する必要があると考えられます。このワーク・ライフ・バランスで目指している姿を実現するには、経営者・管理職・働く者すべてが意識変革を求められます。」

C店長
「人事課長、ワーク・ライフ・バランスという言葉は聞いたことがあります。マスコミ等の報道で何となくイメージできますが、正確にはどういう意味・どういったことを目指しているのですか?」

人事課長
「広く認知されているとは思いませんが、約10年前に内閣府から「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」および「仕事と生活の調和推進のための行動指針」(憲章および行動指針とも平成19年12月)が策定されています。ちょっと長くなりますが、ワーク・ライフ・バランスで何を目指していくのかの理解を深めるために有効ですので引用します。

まず、ワーク・ライフ・バランス憲章の前文です。」


ワーク・ライフ・バランス憲章

<前文>

我が国の社会は、人々の働き方に関する意識や環境が社会経済構造の変化に必ずしも適応しきれず、仕事と生活が両立しにくい現実に直面している。

誰もがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たす一方で子育て・介護の時間や家庭、地域、自己啓発等にかかる個人の時間を持てる健康で豊かな生活ができるよう、今こそ社会全体で仕事と生活の双方の調和を希求していかなければならない。

仕事と生活の調和と経済成長は車の両輪であり、若者が経済的に自立し性や年齢などに関わらず誰もが意欲と能力を発揮して労働市場に参加することは、我が国の活力と成長力を高め、ひいては少子化の流れを変え、持続可能な社会の実現にも資することとなる。

そのような社会の実現に向けて、国民一人ひとりが積極的に取り組めるよう、ここに仕事と生活の調和の必要性、目指すべき社会の姿を示し、新たな決意の下、官民一体となって取り組んでいくため政労使の合意により本憲章を制定する。

<多様な選択肢を可能とする仕事と生活の調和の必要性>

働き方や生き方に関するこれまでの考え方や制度の改革に挑戦し、個々人の働き方や子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な働き方の選択を可能とする仕事と生活の調和を実現しなければならない。

<明日への投資>

仕事と生活の調和の実現に向けた取組は、人口減少時代において、企業の活力や競争力の源泉である有能な人材確保・育成・定着の可能性を高めるものである。とりわけ、現状でも人材確保が困難な中小企業においてその取組の利点は大きく、これを契機とした業務の見直し等により生産性向上につなげることも可能である。こうした取組は企業にとって「コスト」ではなく、「明日への投資」として積極的にとらえるべきである。

<仕事と生活の調和が実現した社会の姿>

1. 就労における経済的自立が可能な社会
経済的自立を必要とする者、とりわけ若者がいきいきと働くことができ、かつ、経済的に自立可能な働き方ができ、結婚や子育てに関する希望の実現などに向けて暮らしの経済的基盤が確保できる。

2. 健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
働く人々の健康が確保され、家族・友人などとの充実した時間、自己啓発や地域活動への参加のための時間などを持てる豊かな生活ができる。

3. 多様な働き方・生き方が選択できる社会
性や年齢などにかかわらず、誰もが自らの意欲と能力を持って様々な働き方や生き方に挑戦できる機会が提供されており、子育てや親の介護が必要な時期など個人の置かれた状況に応じて多様な働き方が選択でき、しかも公正な処遇が確保されている。


人事課長
「次に示す「仕事と生活の調和推進のための行動指針」はワーク・ライフ・バランス憲章で示す「仕事と生活の調和が実現した社会」をつくりあげていくために、企業や働く者、国や地方公共団体の施策の方針を定めたものであり、以下がポイントとなります。」


仕事と生活の調和推進のための行動指針

<仕事と生活の調和が実現した社会に必要とされる諸条件>

1.就労による経済的自立が可能な社会
・若者が学校から職業に円滑に移行できること
・若者や母子家庭の母等が就業を通じて経済的自立を図ることができること
・意欲と能力に応じ、非正規雇用から正規雇用へ移行できること
・就業形態に関わらず、公正な処遇や能力開発機会が確保されること

2. 健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
・企業や社会において健康で豊かな生活ができるための時間を確保することの重要性が認識されていること
・労働時間関係法令が遵守されていること
・健康を害するような長時間労働がなく、希望する労働者が年次有給休暇を取得できるよう取組みが促進されていること
・メリハリのきいた業務の進め方などにより時間当たり生産性も向上していること
・取引先との契約や消費など職場以外のあらゆる場面で仕事と生活の調和が考慮されていること

3. 多様な働き方・生き方が選択できる社会
・子育て中の親、働く意欲のある女性や高年齢者などが子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様で柔軟な働き方が可能となる制度があり、実際に利用できること
・多様な働き方に対応した育児・介護・地域活動・職業能力の形成等を支える社会的基盤が整備されていること
・就業形態に関わらず、公正な処遇や能力開発機会が確保されていること

<企業、働く者の取組>

1. 総論
・経営トップがリーダーシップを発揮し職場風土改革のための意識改革、柔軟な働き方の実現等に取り組む
・労使で仕事と生活の調和の実現に向けた目標を定めて、これに計画的に取り組み、点検する仕組をつくり着実に実行する
・労使で働き方を見直し、業務の進め方・内容の見直しや個人の能力向上等によって時間当たり生産性の向上に努める
・企業は雇用管理制度や人事評価制度の改革に努める
・働く者も職場の一員として、自らの働き方を見直し時間的制約の中でメリハリのある働き方に努める
・管理職は率先して職場風土改革に取り組み、働く者も職場の一員としてこれに努める
・経営者、管理職、働く者は自らの企業のみならず、関連企業や取引先の仕事と生活の調和にも配慮する
・働く者は将来を見据えた自己啓発、能力開発に取り組み、企業はその取組みを支援する
・労使団体等は連携して、民間主導の仕事と生活の調和に向けた気運の醸成などを行う
・労使は就業実態に応じて、均衡を考慮しつつ労働契約を締結し、又は変更すべきものとする

2. 就労による経済的自立
・就職困難者等を一定期間試行雇用するトライアル雇用などを活用しつつ、人物本位による正当な評価に基づく採用を行う
・パート労働者等については、正規雇用へ移行しうる制度づくり等を行う
・就業形態に関わらず、公正な処遇や積極的な能力開発を行う

3. 健康で豊かな生活のための時間の確保
・時間外労働の限度に関する基準を含め、労働時間関連法令の遵守を徹底する
・労使で長時間労働の抑制、年次有給休暇の取得促進など、労働時間等の設定改善のための業務の見直しや要員確保に取り組む

4. 多様な働き方の選択
・育児・介護休業、短時間勤務、短時間正社員制度、テレワーク、在宅就業など個人の置かれた状況に応じた柔軟な働き方を支える制度の整備、それらを利用しやすい職場風土づくりを進める
・男性の子育てへの係わりを支援・促進するため男性の育児休業等の取得促進に向けた環境整備等に努める
・女性や高齢者等が再就職や継続就業できる機会を提供する
・就業形態に関わらず、公正な処遇や積極的な能力開発を行う


C店長
「憲章および行動指針において仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を確保するために、企業側に経営トップがリーダーシップを発揮して、働く者のライフステージに応じた多様な働き方を具現化するための仕組づくり、職場風土づくり、そして運用実績づくりを求めていますよね。

と同時に、

・労使で働き方を見直し、業務の進め方・内容の見直しや個人の能力向上等によって時間当たり生産性の向上に努める。企業は、雇用管理制度や人事評価制度の改革に努める。働く者も職場風土の一員として自らの働き方を見直し、時間制約の中でメリハリのある働き方に努める。

・働く者は将来を見据えた自己啓発・能力開発に取り組み、企業はその取組を支援する。

と述べ、働く者の意識改革と自らの働き方を見直す必要性を求めています。ワーク・ライフ・バランスを確保するために単純に長時間労働はやめましょうという話ではないことがよく分かりました。このことを全社員に分かりやすく説明し理解を深めてもらうことは重要ではないでしょうか?」

人事課長
「C店長の仰るとおり、社員の皆さんに理解を深めてもらうことは重要となります。ワーク・ライフ・バランスや働き方改革は、会社が制度や仕組みを整えてくれるからそれに乗れば良いという受け身では、制度や仕組みが機能しないだけでなく、働く社員のHappyにつながらないと言えます。働き方、キャリア、処遇は自ら創りあげていくという能動的な関わり方が求められます。

脱年功・脱時間給という生産性基準を基軸とした働き方の多様性が進めば進むほど、働き手の自己選択と自己責任が増すと言えます。自分で働き方を選択し、キャリア、処遇を自ら創りあげていく覚悟が今まで以上に求められます。

何故働くのかを含めた働くことに関する就業価値観の確認、どういうキャリア形成をしたいのかの再設計、ライフステージに応じた働き方の具体像など、こうした働き方をしたいという姿を働き手がしっかり描くことが重要となります。多様な選択肢が増せば増すほど、自分はどう考えるのかの基準を持たなければ的確な選択はできません。」

C店長
「人事課長のお話を聞いて反省ですね。入社以来、与えられた仕事を精一杯こなすだけで自分のキャリアをどう開発し、処遇をどう高めていくかなど考えることは本当に少なかったといえます。逆に言えば、単一的なキャリア開発が成立する前提・環境等が揃っていたともいえるのかなと思います。

こうした前提・環境等が変容し、働き方の多様性が求められ、働く者の自己責任が一層求められるということをよく理解しないといけないということですね。

まずは最低限ライフステージに応じたキャリアプランをラフにでも考えないといけないでは!?

例えば、次のように・・・」

ライフプラン

人事課長
「まったくそのとおりと思います。「ライフステージに応じた働き方」をどうしたいのかを社員の皆さんに真剣に考えてもらうことから始まるといえます。人事において、社員の皆さんに具体的なキャリアプランを設計して戴くための『キャリア設計シート』を検討中です。C店長の説明にあるように定期的に見直しを行いキャリア開発の検証と将来設計を常に意識しやすい仕組づくりを考えています。

社員一人ひとりは生活の局面において①企業人 ②社会人 ③家庭人として生活しています。人生時間軸におけるライフイベント等の節目をきっかけに、企業人・社会人・家庭人としてどうありたいのか?どうバランスをとるのか?それを具現化する働き方はどんな働き方なのかなどについて真剣に考えてもらうことが重要と考えられます。この企業人・社会人・家庭人の3軸の適正バランスは、社員個々人ごとに、そして個々人においても人生時間軸の時期において異なると考えられます。

この3軸のバランスをとることがワーク・ライフ・バランスそのものと言えます。会社は社員の皆さんがこの3軸のバランスを取りやすい環境・制度・仕組を継続的に提供していくことが求められていると思います。

自己選択と自己責任を前提に、社員一人ひとりが働きやすく・キャリア開発でき・処遇確保も合理的にでき・働きがいを得られる職場環境を継続的に整えることが重要となります。こうした環境整備により優秀な社員が定着・活躍し、生産性の向上が確保され、さらに優秀な方の採用が促進される。こうした善循環により企業が持続的成長できることを目指していくことが働き方改革の目指すところです。」

3軸モデル

<完>


『ケーススタディで納得!』 シリーズで6回にわたり働き方改革コラムを連載しました。お読みいただきありがとうございました。読者の皆様に少しでも参考になることを意識しながら執筆致しましたが、筆力不足により分かりにくい点や疑問点等があろうかと存じます。ご不明点などがある場合は、こちらまでお気軽にお問合せ下さい。

高瀬 武夫

高瀬 武夫 株式会社BDO人事総合研究所 /BDOアドバイザリー株式会社 代表取締役

上場・中堅企業を中心に、企業の成長を裏付ける「人と組織」を活性化させるマネジメントシステム構築に従事。経営目標達成のための「仕事」を基軸に据えた評価制度、賃金制度、人材育成制度の再構築により労働生産性向上支援を行う。

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