基幹システム入れ替えの際に「やってはいけない」3つのこと【超上流IT構想書・前編】

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企業における業務の根幹を支える基幹システムは、今や企業にとって欠かすことができないインフラとなっています。だからこそ、常に変化していく社会環境やビジネス情勢に適応していくためのアップデートは大変重要。基幹システムの入れ替えには絶対に失敗したくない!と、プロジェクト担当者なら誰もが考えているはずです。
しかし、いざ着手する段階になった際に半ば思いつきに任せて進めてしまい、結果として、決裁権を持った経営者を説得できずに失敗してしまうという事例をよく耳にします。

では、何から着手し、どのように進めれば、基幹システムの入れ替えを成功へとつなげることができるのでしょうか?この記事【超上流IT構想書】では、システム設計などの上流プロセスよりも前にやっておくべき「超上流」にあたる「システム化の方向性や計画」の進め方について、ポイントを2つに分けて簡単にご説明します。前編となるこの記事では、着手時点で「やってはいけない」3つのケースをご紹介しましょう。

(1) プロジェクト開始時に「現場の要望」を聞いてはいけない

企業の中枢を担う基幹システムの入れ替えともなれば、そのプロジェクトは全社規模となり、予算も相当なもの。基幹システムは会社の経営を左右するため、一度導入すると、そう頻繁に変更することもできません。プロジェクトの重要度は非常に高く、担当者には「必ず成功させなければ」という大きなプレッシャーがかかるでしょう。「一体、何から手をつければいいだろう?」と、お悩みの声はよく聞かれます。

システム入れ替えに際してよく行われるのが、従業員に対するアンケート。現行システムへの不満や要望など、システムを利用している立場からの声を集めて経営者に提出する方法は、多くのプロジェクト担当者によって実施されています。
――「よく使うあの処理の使い勝手が悪い」「PCを新しくしたら動きが不安定だ」「出力できる資料のレイアウトを少し変えてもらいたい」「あのイレギュラー対応がどうしてもうまくできないから手作業をする羽目になった」。このような、実際にシステムを利用している担当者の生の声を参考にすれば、具体的な改善案を見出すことができそうです。――

しかし……こうして集められた声をもとにまとめ上げられた「システム企画書」では、経営者を納得させられないことは間違いありません。それは一体、どうしてなのでしょうか?

(2) 「現行システムの改善」を目指してはいけない

次によく行われる行動は「ベンダーへの提案依頼」。基幹システムを構築するにあたってプロフェッショナルであるはずのベンダーの力を借りることは確かに有効です。
――現行システムの構築に携わったベンダーから改善提案を受けたいけれど、他のベンダーからの意見も聞いてみたいし、最新システムの動向にも興味がある。それなら数社に声をかけて比較してみて、良さそうな提案を選択することにしよう。提案された内容を見ると、最新の技術とインフラを使った大規模なシステム提案を得ることができたようだ。――

しかし……こうして作成された「システム企画書」もまた、おそらく経営者には見向きもされないでしょう。なぜ、こうなってしまったのでしょうか?

(3) 「現在の業務の効率化」をゴールとしてはいけない

最後に、自社の業務をより効率化するためのシステム企画書をまとめ上げようとするケースをご紹介します。――現場の状況を踏まえつつも、それに流されないように、「今の業務を効率化するにはどうしたらいいのか」に焦点をあてて、プロジェクトメンバーでじっくりと議論を重ねました。その上で、自社の業務システムをもっと良くするために、どのような機能アップが必要かを見出し、企画書の形にまとめ上げたのです。この企画書に沿ってプロジェクトを着実に進めることができれば、今行っている業務に、もっと早く、かつ少人数で対応することができるようになりそうです。――

しかし……経営者は、それでも渋い表情を崩すことはないでしょう。一体、何が足りなかったのでしょうか?

何を間違ってしまったのか?そして、本当にやるべきだったこととは?

ここまでで、「やってはいけない」3つのケースをご紹介しました。いずれもプロジェクト開始時点でありそうな姿ですが、共通する決定的な問題があります。それは、「これから先の自社のビジョンを見据えることができていない」という点です。

アンケートから出てきた意見やプロジェクトチーム内での議論を経た実態に基づく改善提案であったとしても、それが現在の状況に対する改善にしかならず、これから5年、10年先の会社の成長につながらないのであれば、意味がありません。今の業務が効率化できたとしても、数年後にその業務自体を行う必要がなくなってしまったとしたら、それはもう使えるシステムではなくなってしまうのです。このような意味で、基幹システムの入れ替えに際して、経営者が納得できる形でプロジェクトを進めていくためには、経営者がこれから自社をどのように動かしていこうとしているのか、という経営方針に寄り添って、企画を進めていく必要があります。

例えば、卸売業を中心事業とする企業が、激しい競争を勝ち抜くために、既存顧客にばかり頼るのをやめて顧客の拡大に全力を傾けるという経営方針を掲げたとしましょう。そうすると何が起きるかといえば、営業部門が顧客の新規開拓に注力すればするほど、小口の注文が増えていくことになります。そして、これまでよりも出荷量が増えていくことになり、倉庫部門がボトルネックになってしまうのです。もし、これが予見できていれば、システム投資すべきポイントは、物流ということになるでしょう。このことに気づかずに見当違いの業務に投資してしまったとすると、いくら業務を効率化したところで、企業にとって望ましい効果につながることはありません。

これはほんの一例であり、経営課題の内容や背景、経営者自身の構想によって千差万別でしょう。しかし、経営者の構想に寄り添い、これから解決してくべき課題に対応していくことができなければ、大きくコストのかかるシステム入れ替えに対して、経営者がゴーサインを出すことはないのではないでしょうか。

基幹システムの入れ替えにあたって、プロジェクト担当者がまず「やるべきこと」は次のようなものです。まず、経営者のビジョンを知り、目指すべき姿を明確にした上で、これから自社が進もうとする道を見据えた、今後の変化に耐えられる基幹システムを構想してください。ここまで見据えた結果、これまでのシステムの更新が最善策であるならば、もちろんそれに越したことはありません。また、それではダメでまったく新しいシステムや新しい技術が必要なのであれば、力強く踏み出す覚悟が必要になるでしょう。

いずれにしても、重要なのは、システム設計などのいわゆる上流工程といわれるステップに進む前の時点で、ここまででご紹介したようなことを検討し、経営者や各部門の責任者と意識を共有しておくことです。ぜひ、プロジェクトを開始する際の参考にしてみてください。

【超上流IT構想書・後編】では、このような基幹システムを構想するための「超上流構想書」と、これを具体化していくステップとしての「6つの構成要素」をご紹介します。ご期待ください。

【監修】

宮下 淳(みやした あつし)
株式会社NTTデータセキスイシステムズ サービス&ソリューション事業部 主席コンサルタント、副事業部長
1988年、積水化学工業株式会社入社。以来、多数の大型プロジェクトに参画。現在は卸売業を中心としたコンサルティングおよびプロジェクトマネージャーとして従事。株式会社NTTデータセキスイシステムズが主催する人気セミナー『「超上流 IT構想書作成」作成ノウハウセミナー』の講師として活躍中。