雇用調整助成金のよくある誤解と特例措置など実務対応のポイント

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<目次>

今年もっとも脚光を浴びた助成金と言えば、休業手当を支払って従業員の雇用維持を図る会社に対して支給される「雇用調整助成金」。支給決定件数は、10月25日時点で159万件を超えています。昭和50年代に創設されたこの助成金は、リーマンショックや東日本大震災などで日本経済が不況に見舞われるたびに申請が急増しましたが、今回のコロナ禍における申請件数は過去最大となるとみられます。

雇用調整助成金は通常、経済上の理由で直近3か月の平均売上高(または生産量)が前年同時期と比較して10%以上減少しており、かつ、従業員に平均賃金の6割以上を休業手当として支給していることが申請条件となります。事前にハローワークへ提出した計画届及び労使協定に沿って休業を実施し、従業員へ休業手当を支払い、出勤簿や賃金台帳を添付して支給申請を行うという流れです。本来ならば事前準備にもそれなりの時間がかかる助成金なのですが、今回のコロナ禍においては、急遽休業に踏み切らざるを得ない会社が多数あり、助成金の支給が急務となったため、厚生労働省は相次いで条件緩和や提出書類の削減を実施しました。

もちろん助成金申請のハードルが低くなるのは歓迎すべきことですが、これにより企業の総務人事ら実務担当者が混乱に陥ったというのも事実です。苦労して揃えた添付書類が突然不要になったり、受給予定金額を計算し直すことになったりという事態が多発しました。また、変更された要件について詳細を確認しようにも、労働局やハローワークに電話がまったくつながらないということも。更には手続きの簡素化のため導入されたオンライン申請がシステム障害により運用開始日にいきなり受付を停止するというトラブルも起こりました。

【新型コロナウイルスに関して設けられた雇用調整助成金の特例措置の主な内容】

生産性要件の緩和 売上が前年同月と比較して5%以上低下
助成金の対象 雇用保険未加入者も対象に
助成率 4/5(中小企業)、2/3(大企業)
解雇等を行わない場合は9/10(中小企業)、3/4(大企業)
書類の簡素化 個人の委任状などを廃止
クーリング期間の撤廃 以前に雇用調整助成金を受給していても、期間をおかずに新たな受給が可能に。
休業規模要件の変更 短時間休業の要件を緩和
その他 休業等計画届の提出を不要としたほか、残業相殺を停止した

【企業規模で異なるポイント】

一口に助成金申請といっても、企業規模によって注意すべきポイントが異なります。中小・零細企業においては、多忙な社長が自ら労務管理を行うことも多い為、休業手当が正しい計算方法で支払われていなかったり、タイムカードや賃金台帳そのものが存在しなかったりという事態が起こりがちです。社長や役員が自ら申請に取り組むも、用語の難解さや制度の複雑さにギブアップしてしまい、途方に暮れる…ということも。
一方、大企業は人的リソースこそ豊富なものの、厚生労働省の助成金制度が中小企業をターゲットとしているために、制度そのものになじみがないというケースが大半でした。また、大企業ほどテレワークが進んでいたため、人事担当者が出社できず勤怠データや申請書を直接確認できないという、このご時世ならではの悩み事もありました。

【よくある誤解トップ3】

①「従業員に何も払わなくてももらえる」 助成金は休業手当に対する補填なので、休業手当を支払うことが要件。支払ったことを示す書類(賃金台帳)を添付しなければならない。
②「一人当たりの受給額が8,330円から『一律15,000円』に改正された」 15,000円はあくまで受給額の上限。平均賃金×助成率が受給額となる。
③「解雇を出したら一切申請できない」 解雇(会社都合退職)が出ても、助成率が下がるだけで、申請自体は可能。

上の表は、雇用調整助成金申請におけるよくある誤解トップ3です。

①は雇用調整助成金の趣旨をそもそも理解していないケース。事業活動を縮小せざるを得なくなった会社が、従業員に休業手当を支払って休ませつつ雇用維持を図るのがこの助成金の目的ですので、休業手当の支払いなしには助成金の対象とならないのです。

②の「一律15,000円」は第2次補正予算案の編成時に生まれた誤解です。第2次補正予算によって雇用調整助成金の上限額が日額8,330円から15,000円に引き上げられたのですが、受給できる金額はあくまで「平均賃金×助成率」のままで、15,000円がそのまま支給されるわけではありません。

③は助成金制度を知っているからこその誤りです。厚生労働省系の助成金は、雇用状況を改善させることを目的として支給されるため、会社都合退職者を出してしまうと一定期間支給申請の対象外とするものがほとんど。しかし雇用調整助成金はもともと経済上の理由により事業縮小を余儀なくされた事業主を支援する制度であるため、会社都合退職者が出ても助成率が下がるだけで、支給申請自体は可能なのです。

【労働局ごとのルールもさまざま】

労働局ごとのローカルルールもさまざま。出勤簿や賃金台帳についてデータでの送付を受け付けるところもあれば、紙での提出を義務付けるところもあります。「〇〇労働局は審査が比較的ゆっくり」「△△労働局は書類チェックが細かい」など労働局ごとの温度差もかなりあるように見受けられました。無駄を省き、最短の入金を目指すには、申請書類をそろえる前の確認作業が大切になってきます。

私どもの法人の助成金チームにも、申請当初は「いつ助成金が入金されるんでしょうか?」という問い合わせをたくさん頂きました。なかには「1か月以内に助成金が入らなかったら会社を畳むしかない」という切羽詰まった声もあり、私たち自身も非常にやきもきしましたが、この会社には予定より2週間ほど早く支給され、安堵しました。現在は支給申請から大体3週間~1か月ほどで入金されているようです。

未曽有のコロナ禍において、何度も条件緩和や制度拡充がなされ、情報が錯綜する難しい状況でしたが、日本の企業存続のために雇用調整助成金が役立ったのであれば、助成金に携わる私たちにとっても喜ばしいことです。当初12月末で終了する予定だった特例措置が2月末まで延長されるなど、まだまだ申請の需要は高く、今後の政府の対応に注目です。

<プロフィール>

日本社会保険労務士法人(SATOグループ) 山口友佳

日本社会保険労務士法人(SATOグループ)
社会保険労務士
山口 友佳

2009年、日本社会保険労務士法人設立とともに入所。
2010年社員に就任。労務相談部門責任者として中小企業、大企業に対する労務コンサルを担当。就業規則諸規程のコンサル、判例に基づいた実務的なアドバイスなど経験多数。