

※本内容は、2025年2月19日に開催されたセミナー内容を元に掲載しております。−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

目次
- ERPはコンポーザブルの時代に
- SAPの変遷と日本企業の特徴
- コンポーザブルERPといえば、奉行シリーズ
- 奉行シリーズが標準機能だけで勝負できる理由
- 奉行シリーズのアーキテクチャの特徴
- 開発は内製、コールセンターは正社員、OBC社内体制のこだわり
- これからのERPは、“究極の部分最適”
【登壇者】

イグレック株式会社
創業者・理事八剱 洋一郎 氏
IBM出身、IBMの事業部売却によりAT&Tへ。株式会社ウィルコム、SAPジャパン 代表取締役社長、ワークスアプリケーションズ 副社長などを歴任。イグレック株式会社を創設し、CIO勉強会等を主催する傍ら2015年より内閣サイバーセキュリティセンター就任(NISC-現任)。また、アルフレッサホールディングス、ちゅうぎんフィナンシャルグループの社外取締役や内閣府規制改革推進会議 専門委員、経済産業省 DXに向けた研究会等の委員。2024年よりジオテクノロジーズ株式会社代表取締役社長(現任)。

株式会社オービックビジネスコンサルタント
代表取締役社長和田 成史
1975年 立教大学経済学部経営学科卒業。1976年、公認会計士第2次試験合格。1980年3月公認会計士登録、6月税理士登録。同年12月に株式会社ビック・システム・コンサルタント・グループ(現株式会社オービックビジネスコンサルタント)設立。1999年に株式公開、2004年に東証一部上場を果たす。2014年、公共の利益に貢献した人物に贈られる藍綬褒章を受章。一般社団法人ソフトウェア協会(SAJ)名誉顧問を務める。
※登壇者の役職・肩書、文中の製品情報、数値情報等は、2025年6月掲載時点の情報です。
ERPはコンポーザブルの時代に
八剱洋一郎(イグレック株式会社:以下、八剱) 私はSAP Japanの元代表として、ERPシステムの変遷を間近で見てきました。かつて、グローバル企業はグループを統合管理するために、大規模なERPシステムを導入することが一般的でした。しかし時代は変わり、昨今では部分最適でシステムを導入するコンポーザブルERPの時代に突入しています。

▲ガートナーが提唱する「これからのERPの在り方」
SAPの変遷と日本企業の特徴
八剱 さて、ERPといえば、私がかつて日本法人の代表を務めたSAPが日本では最も有名ではないでしょうか。SAPの変遷を見るとともに、日本のおけるERPの課題も見ていきましょう。
SAPはグローバルスタンダードな機能を備えたERPシステムとして、1972年に誕生しました。ERPシステムを導入すれば、自社のためだけにシステムを開発するよりもコストがかからず、かつ機能アップもベンダー任せにできるため、企業側の労力を開放することができます。そのため、SAPは1990年代に日本の大企業にも一気に導入が進みました。
SAPは業務フローがグローバルで標準化されている業種に有効です。たとえば、製造業・金融業・小売業などです。それらの業種が同業の海外企業を買収する場合に、自社も買収先企業もSAPユーザーであれば、買収後のシステム統合は非常に簡単です。SAP導入によって、業務フローはグローバル標準に整備されていますので、グループ企業の一元管理が容易に実現できるのです。
一方で、国特有や業種特有のルールがある、という場合にはあまり向いていません。特有のルールに対応するためには、ERPシステムをカスタマイズしなければならず、導入費用もバージョンアップ費用も高くなります。実は、日本は特有のルールが非常に多い国です。SAPはカスタマイズありきで運用が非常に難しいという印象をお持ちの方も少なくないかもしれませんが、それは日本企業特有の話で、海外ではシンプルに利用されています。
日本企業だからこそカスタマイズありきでERPシステムが複雑になってしまう、という問題が解決しない中、時代は変わり、ERPの在り方そのものがコンポーザブルに変わりました。コンポーザブル(Composable)とは直訳すると「組み合わせ可能な」という意味です。システムにおいては、複数の要素や部品を組み合わせて構成することを指します。私のイメージでいうと、コンポーザブルとは様々な楽器が奏でるハーモニーで、素晴らしい曲を作り出す「交響曲」のイメージです。そしてコンポーザブルERPの最たる例が、高い標準機能を備えたシステムを部分最適で提供する「奉行シリーズ」であると考えています。

▲SAP Japan元代表、イグレック株式会社 創業者・理事 八剱 洋一郎氏
コンポーザブルERPといえば、奉行シリーズ
和田成史(オービックビジネスコンサルタント:以下、和田) 当社は創業から40年以上、コンポーザブルな考え方でシステムを開発・提供してきました。提供しているシステムは大きく2種類あります。1つ目は、会計や給与などの基幹業務システム「奉行クラウド」。2つ目は、勤怠管理や年末調整申告書などの周辺業務をサポートするWebサービス「奉行クラウドEdge」です。奉行クラウドで合計20製品を提供し、さらに321のAPI連携サービスも提供しています。

▲奉行クラウド システム全体鳥瞰図(2025年3月期 決算説明会資料より)
奉行シリーズはすべてノンカスタマイズで、必要なシステムのみを導入できます。かつてはコンポーザブルERPという呼び方はありませんでしたが、創業当初から部分最適は意識していました。八剱さんが「コンポーザブルERPといえば、奉行シリーズ」と評してくださったことは、これまで貫いてきた信念が間違っていなかったことの証明であり、非常に嬉しく思います。
八剱 コンポーザブルなシステムを提供するためには、多くの企業で共通して利用できる標準機能を備えていなければなりません。私はSAP Japanの代表だった頃から、奉行シリーズの標準機能の完成度が素晴らしいと感じていました。実際、特殊な業務フローの企業以外は、奉行シリーズで十分だと思います。
それでも長年にわたり日本の大企業がSAPを選んだ理由は、自社の業務フローに合わせてシステムをカスタマイズしたかったからです。実際、SAPは十分な標準機能を提供していますので、SAPがカスタマイズを推奨していたわけではありません。
そして今、コンポーザブルERPの時代が到来し、奉行シリーズがますます適切だと考えています。しかし、奉行シリーズは中小企業向けのイメージが強く、大企業での利用が少ないように感じます。なぜでしょうか。
和田 おっしゃる通りです。その理由は、2つあります。1つ目は、大企業ではカスタマイズが一般的であり標準機能のみで勝負することが難しいと考えていたからです。さらにSAPがすでにシェアを持っているマーケットだったこともあります。2つ目は、中堅中小企業は高額な費用をかけてカスタマイズをするよりも、システムの標準機能に併せて業務フローを変えることに柔軟だったからです。これら2つの理由から、中堅中小企業をメインマーケットとしプロモーションしてきました。ただ実際には、奉行シリーズで提供している会計・給与などのコアな業務領域は、企業規模に関わらず、どの企業でも処理が共通です。そのため本来は企業規模に関係なく利用でき、カスタマイズをせずに標準機能で導入することが十分に可能です。
八剱 カスタマイズしないことは、営業現場を考えると大変ではないでしょうか?「この機能さえあれば買うのに」と言われてしまうことは、現場では少なくありません。
和田 自社独自の業務に対応してほしいというニーズがある場合は、当社のパートナー企業のソリューション製品と組み合わせることで対応が可能です。ただ、当社のポリシーとしては、カスタマイズはせず、すべての企業に共通する業務に特化し、標準機能で提供することにこだわっています。
このポリシーを貫きながらお客様のニーズにもお応えするために大切にしていることがあります。それは、奉行シリーズのお客様に、「業務の生産性が向上し、やりたいことが実現できた」と感じていただくことです。そのためにも日々お客様の声を聞き、製品をブラッシュアップし続けています。
奉行シリーズが標準機能だけで勝負できる理由
八剱 先ほども申し上げました通り、奉行シリーズの標準機能の完成度は非常に高いのですが、その完成度はどのようにして実現しているのでしょうか。
和田 当社ではナレッジ(知識)とテクノロジー(技術)という2つの考え方を持っています。業務に精通したナレッジを持つ部隊と、テクノロジーに長けた部隊の双方が、日々議論を重ねながら企画・設計・開発をしています。また先ほど申しました通り、当社のシステムは、すべての企業における共通の業務に特化して開発しています。このように、注力する業務を限定し、その業務の標準としてあるべき姿を見出し、機能・操作性・使い勝手を追求して開発するスタイルを貫いています。つまり、役割分担と協力、そして選択と集中ですね。

▲オービックビジネスコンサルタント代表取締役社長 和田
八剱 シンプルに聞こえますが、実はとても難しいことですよね。日本における業務パッケージソフトウェアの開発方法は、受託開発で特定の会社のためにシステムを開発し、そのノウハウがたまってきたら一つのアプリケーションとして販売するというものです。しかし、その方法だと、複数社の独自の業務フローの掛け合わせになってしまい、システムの真ん中に流れる哲学のようなものがないと思っています。一方で、奉行シリーズは真ん中に流れる哲学を感じます。だからこそ標準機能だけで十分なのではないでしょうか。
さらに標準機能に限定したシンプルな作りだからこそ、バージョンアップもワンクリックで非常に簡単です。SAPの大規模プロジェクトの場合、導入に数十億かかり、さらにバージョンアップでも数億がかかるケースが少なくありません。以前和田さんから、バージョンアップがワンクリックで出来ると聞いたときは、大変なショックを受けたことを覚えています。
奉行シリーズのアーキテクチャの特徴
八剱 奉行シリーズのアーキテクチャ(構造)は非常によく考えられていますよね。自社の得意分野はアプリケーション開発であり、それ以外の基盤部分や開発のためのテクノロジー、セキュリティはMicrosoftに任せるスタンスが特徴的です。

▲奉行クラウドのシステムアーキテクチャ(株式会社オービックビジネスコンサルタント 2024年7月25日 投資家向け会社概要資料より)
和田 奉行クラウド及び奉行クラウドEdgeはすべてMicrosoft Azure(Azure SQL Database)の基盤上で、開発しています。会計・給与などの基幹業務システムは、操作性や機能性を重視したWindowsアプリケーション(WPF)で開発しています。SaaS型クラウドシステムといえばWebアプリケーションというイメージもありますが、基幹業務に関してはやはりWindowsアプリケーションの機能や操作性でないとお客様のニーズにお応えできないと考えています。
一方で、勤怠管理や年末調整申告書などの周辺業務は、全従業員がいつでもどこからでも利用できるように、アクセスの利便性や端末の多様性(マルチデバイス)を重視したWebアプリケーションで開発しています。
また日経コンピュータ顧客満足度調査のERP部門で、当社は6年連続、通算で17回、1位を獲得しています。その評価項目の一つに「信頼性」があります。この項目を大変重視しており、システムの安定性や、データの正確性、セキュリティなどの面で高い評価を受け、平均64.1のところを当社は80.7という圧倒的なポイントを獲得しています。

▲日経コンピュータ調査2024年9月5日号 顧客満足度調査2024-2025 ERP部門(2025年3月期 決算説明会資料より)
奉行シリーズの基盤は世界でも高水準の信頼性を誇るAzure SQL Databaseです。Microsoftの強固な基盤・テクノロジーを活用し、その上で我々が素晴らしいアプリケーションを開発する、これもMicrosoftとの役割分担と協力、選択と集中です。この構造があってこそ、お客様に最高のシステムを提供することができると考えています。
開発は内製、コールセンターは正社員、OBC社内体制のこだわり
八剱 開発と保守に関して、OBCは独特な体制を取っていますよね。開発はすべて内製と伺っています。システム開発は人材を揃えることに多大なコストがかかりますので、通常外注のイメージですが、なぜ内製化にこだわっているのでしょうか。
和田 先ほど奉行シリーズは真ん中に哲学があると評していただきましたが、それを実現するためです。OBCは新卒一括採用にこだわり、一から社員教育を施し、チームOBCとして一丸となって製品開発・販売・保守にあたるという体制です。開発も例外ではなく、入社から約半年以上かけて学び、製品開発ができるレベルまで育て上げます。確かに一からの教育は大変ですが、この体制だからこそ、お客様の声を製品にすぐに反映することが出来ます。お客様満足を追求した結果、この体制になった、ということです。

▲OBC西新宿本社 開発本部 約400名が開発業務にあたる
八剱 保守については、コールセンタースタッフの多くが正社員で構成されていると伺っています。設計・開発・保守と全部縦割り組織になっていて、保守でメンテナンス対応しようにも、開発に問い合わせることが出来ない会社もあると聞きますが、OBCさんはなぜコールセンタースタッフに正社員を登用しているのでしょうか。
和田 当社は保守を大変重視しています。東京本社にあるコールセンター(OBCサポートセンター)では常時250名が対応しており、そのメンバーには開発部、営業部などの正社員が多く含まれています。お客様の声を直接聞くことで、自ら開発・販売したシステムが実際にどのように利用されているのかを理解し、ブラッシュアップできる体制を整えています。

▲OBCサポートセンター(東京本社)では常時250人が対応
これからのERPは、“究極の部分最適”
八剱 先ほども申し上げました通り、奉行シリーズは中堅中小企業で利用するイメージが強いと感じます。標準機能にこだわって開発されたシステムは、実際には企業規模関係なく利用できるのに、非常にもったいない。この状況は今後解消されていくのでしょうか。
和田 おっしゃる通り、イメージが固定されていることは否めません。イメージを刷新するために、奉行クラウドのリリース時に「勘定奉行」という名称を変更することを考えました。変える覚悟をして広告代理店さんに相談したのですが、先方から断られてしまいました。ここまで築き上げてきた奉行というブランドを変えることにリスクが大きいと。そのようなわけで、変えるよりも、これまで通り素晴らしい製品を作り続けて、お客様に奉行の良さを伝えて続けていくことを選びました。
実際、上場企業にも活用いただけるシステムラインアップが数多くあります。「勘定奉行クラウドGlobal Edition」では海外子会社の会計管理ができますし、「奉行V ERPクラウドGroup Management Model」ではグループ子会社を統合管理できます。コンポーザブルな強みを活かして部分最適の実現に貢献できるのです。
まだまだPRはこれからだと思っていますが、お客様にとって最高のシステムを作り続け、パートナー様と役割分担と協力でお客様をご支援していく、創業以来変わらないこの方法を続けていけば、必ず伝わる。私たちはそう信じています。
八剱 これからの時代のERPは「究極の部分最適」が鍵であると思っています。組み合わせることで美しいハーモニーを奏でる、まさに交響曲のように。そしてその究極の部分最適は、まさに奉行シリーズ。今後の奉行シリーズのさらなる飛躍に期待しています。

▲2025年2月19日、対談イベント会場にて(左:OBC和田、右:イグレック八剱氏)
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