

本来、労働時間は1分単位で管理するのが原則とされています。しかし、実務の現場ではどこまで厳密に管理するべきか、判断に迷う場面も少なくありません。
特に近年は、“申請された残業時間”と“実際に行われた労働”が一致していないことが問題となるケースも増えています。「事前申請のない残業は禁止」とルール化していても、実態として業務が行われており、企業側もその状況を把握できる状態だった場合には、未払い残業と判断される可能性があります。
そこで今回は、労働時間を1分単位で管理する考え方や端数処理などの基本ルールを整理しながら、実務上の注意点と適切な運用方法について解説します。
目次
- 労働時間はなぜ「1分単位」が原則とされるのか
- 実務で起こりやすい労働時間管理の落とし穴
- 適切な労働時間管理のために企業が押さえるべきポイント
- 労働時間管理は“正しく記録し続けられる運用”で!
- おわりに
- よくある質問
労働時間はなぜ「1分単位」が原則とされるのか
よく、「労働時間は1分単位で管理しなければならない」と言われることがあります。しかし実際には、労働基準法に「1分単位で管理しなければならない」という条文そのものは存在していません。
では、なぜこのような内容が伝えられているのでしょうか。
労働基準法第24条では、賃金は労働者に対して“全額”支払わなければならない(賃金全額払いの原則)と定められています。実は、これが実際に働いた時間に基づいて労働時間を把握・計算すべき根拠になっており、行政解釈においても、労働時間は実際に労働した時間に基づいて計算することが原則とされています。
ただし、厚生労働省の通達では、1ヵ月単位で集計した時間外労働について、事務簡便化を目的とした運用として30分未満を切り捨て・30分以上を1時間へ切り上げる処理を認めています。
もっとも、こうした端数処理が認められるのは、あくまで労働者に不利益とならない範囲での例外的な取り扱いです。そのため、次のような日常的に労働時間を過少計算するような運用や、実際の労働時間と乖離した処理が常態化している場合には、未払い賃金と判断される可能性があります。
<未払い残業と判断される可能性がある運用例>
- 10分、15分、30分単位で一律に切り捨てる
- 残業申請を30分単位に制限し、端数を切り捨てる
- 日々の労働時間について恒常的に端数処理(丸め)を行う
- 打刻時刻ではなく自己申告時間だけで残業計算する
労働時間管理で重要なのは、「1分」ではなく、社内で「どの単位で」「どのように」労働時間を把握しているかという点です。
近年は、未払い残業代請求や労基署調査への対応を背景に、企業側に客観的な労働時間管理が求められています。そのため、「なんとなくの慣習」で運用するのではなく、どのような基準で労働時間を把握・計算しているのかを、説明できる状態にしておくことが重要です。
実務で起こりやすい労働時間管理の落とし穴
行政解釈上、労働時間は「実際に労働した時間」に基づいて把握することが原則とされています。また、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、使用者は労働日ごとの始業・終業時刻を確認・記録する必要があり、原則として客観的な記録などに基づいて適正に把握することが求められています。
労働時間は“実態”で判断されるため、実際の働き方と勤怠記録に乖離がある場合には、未払い残業や労基署からの是正指導につながる可能性があります。
ここでは、実務上特にトラブルにつながりやすいケースを整理しておきます。
●打刻時間と実際の労働時間がずれているケース
近年は、ICカードやPCログ、クラウド勤怠などの活用により、出退勤時刻そのものは以前より正確に取得しやすくなっています。しかし中には、次のように「打刻=労働終了」になっていないケースが見受けられます。
- 退勤打刻後にメール返信をしている
- 持ち帰りで資料作成を行っている
- テレワーク終了後もチャット対応をしている
- 上司の指示で待機している
- 始業前に業務準備を行っている
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。そのため、企業側から明示的な残業命令を出していなかったとしても、業務上必要な作業であると認識している場合には、労働時間と判断される可能性があります。特に近年は、テレワークの普及によって勤務実態が見えづらくなったことで、「隠れ残業」や「サービス残業」のリスクも顕在化しています。
企業側には、単に打刻時刻を記録するだけではなく、「実際にいつまで業務を行っていたのか」「業務指示との整合性が取れているか」「長時間ログイン状態が発生していないか」といった点まで含めて確認する姿勢が求められます。
●「15分単位切り捨て」などの端数処理を行っているケース
労働時間管理で特にトラブルにつながりやすいのが、独自ルールによる端数処理です。「15分未満は切り捨て」「5分単位で丸める」「日ごとに端数切り捨て」といった独自ルールを敷いている企業はよくありますが、労働時間は実際に働いた時間に基づいて把握する必要があるため、恒常的な切り捨て運用は、未払い賃金と判断されるリスクがあります。
行政通達では「30分未満切り捨て・30分以上切り上げ」の処理が例外的に認められているとはいえ、あくまで条件付きの特例であり、日次単位や打刻単位で機械的に切り捨てを行うことまで認めているわけではありません。
特に、毎日の端数処理が積み重なることで、月単位では大きな未払い残業につながるケースもあるため注意が必要です。
●「残業申請なし=残業なし」というルールで運用しているケース
残業の抑制や管理の観点から、近年は事前申請制を採用している企業が多くなっています。もちろん、長時間労働の抑制や業務管理の観点から、残業申請制度そのものに問題があるわけではありません。
しかし、「申請していない残業は認めない」「上司が承認していない」「勝手に残っていただけ」といった理由だけで、労働時間性を否定することはできません。
たとえ残業申請が行われていなかったとしても、企業側が実態として残業を把握していた、あるいは容易に把握できる状況であったにもかかわらず放置していた場合には、「黙示の指揮命令」があったと判断される可能性があります。
このようなルールを敷いている場合、残業代の支払い義務が発生するリスクもあります。企業としては、「申請された時間」だけを管理するのではなく、「実際に働いていた時間」を把握できる運用体制を整備しておくことが重要です。
適切な労働時間管理のために企業が押さえるべきポイント
企業には、単に勤怠データを記録するだけではなく、実態に即した労働時間管理を行うことが求められます。特に近年は、テレワークや直行直帰、スマートフォンによる業務対応などによって、労働時間の境界が以前より曖昧になっています。そのため、労働時間の把握も、より客観的かつ実態ベースで行う姿勢が求められるようになっています。
適切な労働時間管理のためには、少なくとも次の3つのポイントを押さえておく必要があります。
1. 労働時間を「種類ごと」に区別して管理しているか
労働時間には、次のように法的な扱いが異なる複数の区分があります。それぞれに必要な手続きや割増賃金率が異なるため、単純に“勤務時間”としてまとめて扱うのではなく、各労働時間の性質を区別して把握しなければなりません。
| 法定労働時間 | 労働基準法で定められた労働時間。原則として1日8時間・週40時間。 |
| 所定労働時間 | 就業規則などで定めた、通常勤務する時間。 |
| 所定時間外労働 (法定内残業) |
会社が定めた所定労働時間を超えているものの、法定労働時間の範囲内に収まる労働。 |
| 時間外労働 (法定外残業) |
法定労働時間を超えて行う労働。36協定の締結が必要となる。割増賃金(25%以上)の対象となる。 |
| 深夜労働 | 22時〜翌5時までの労働。深夜割増賃金の対象となる。 |
| 休日労働 | 法定休日に行った労働。休日割増賃金の対象になる。所定休日労働とは扱いが異なる。 |
一般に「残業」と呼ばれるものの中には、所定時間外労働、時間外労働、深夜労働などが含まれます。しかし、同じ「残業」であっても、法定内なのか法定外なのかによって、必要な対応や割増賃金の計算方法は異なります。また、深夜労働や休日労働が重なれば、計算はより複雑になります。
例えば、所定労働時間が7時間の企業で、9:00〜20:00まで勤務した場合でも、すべてが同じ「残業」として扱われるわけではありません。

このように、所定労働時間を超えた時間のうち、法定労働時間(1日8時間)までは所定時間外労働(法定内残業)、それを超えた部分は時間外労働(法定外残業)として区別されます。そのため、法定内残業の1時間分については通常賃金を残業代として支給し、法定外残業の2時間分については割増賃金(25%以上、月60時間超の部分は50%以上)が発生することになります。
単純な手計算やExcel管理の場合、労働時間の種類が増えるほど、集計ミスや計算漏れが発生しやすくなります。月をまたぐ勤務や複数シフト、変形労働時間制などを採用している企業では、実務担当者の負担も大きくなりやすいでしょう。
2. 労働時間を「実態ベース」で把握できているか
制度上のルールを整備していても、実際の勤務実態と記録が乖離していれば、適切な労働時間管理とは言えません。
例えば、退勤後のメール返信や自宅での資料作成、チャット対応、移動中の業務連絡などについても、使用者の指揮命令下にあると判断されれば、労働時間に該当する可能性があります。特に近年は、テレワークやスマートフォン対応の普及によって、“見えない残業”も発生しやすくなっています。
労働時間管理で重要なのは、“申告された時間”ではなく、“実際に働いていた時間”を把握することです。パソコンのログオン・ログオフ履歴や入退館記録、チャットツールの利用履歴、メール送信時間、業務システムの操作履歴など、実際の労働実態が確認できる仕組みを整えることが重要になります。
「会社として把握していなかった」という理由だけでは、未払い残業のリスクを回避できない点には注意が必要です。
3. 「説明できる運用」が整備されているか
現在の労働時間管理では、“正しく管理していること”だけでなく、“その運用を合理的に説明できること”も重要になっています。
現実には、打刻漏れや直行直帰、突発的な対応、持ち帰り業務、管理職の長時間労働など、さまざまなイレギュラーが日々発生します。そのため、企業には「厳密に労働時間を管理できているか」だけではなく、「合理的に説明できる運用になっているか」も求められています。
近年は、労基署調査でも「制度やルールが存在しているか」「実際に運用されているか」が重視される傾向があります。その際、「実態と運用が乖離している」「部署ごとに対応方法が異なる」「管理者判断によって処理が変わる」といった状態では、労務トラブル発生時に企業側の説明が難しくなる可能性があります。
労働時間管理は、属人的な管理に依存するのではなく、「なぜその処理ルールにしているのか」「なぜその申請フローを採用しているのか」「なぜその修正処理を行ったのか」など、就業規則や運用ルールとして整理し、実態に即して記録・集計・確認できる仕組みを整えていくことが重要です。
労働時間管理は“正しく記録し続けられる運用”で!
ここまで見てきたように、労働時間を正確かつ適切に管理していくには、担当者の注意や現場任せの運用だけでは限界があります。ましてやExcelによる管理では、転記ミスや確認工数が増えやすく、集計ミスにもつながりやすくなります。また、現在はテレワークや直行直帰など働き方も多様化しており、打刻記録だけで勤務実態を把握することも難しくなっています。
また近年は、時間外労働の上限規制をはじめ、働き方に関する法改正が続いています。労働基準法そのものも、約40年ぶりの大改正が検討されているほどで、今後はさらに「正しい労働時間管理」が求められることが予想されます。
だからこそ、今のうちに「誰が・いつ・どのように働いていたか」を客観的に記録し、継続的に運用できる仕組みを整備しておくことが、企業にとって何より重要なのです。
すでに、多くの企業が勤怠管理システムを活用し、打刻・申請・承認・集計までを一元管理できる体制を整えています。その中でもクラウド型の勤怠管理システムは、法改正にも継続的に対応しやすく、最新の制度にあわせた運用がしやすいと、導入を進める企業が増えています。
一般的なクラウド勤怠管理システムなら、打刻漏れのアラートはもちろん、残業申請との突合や労働時間の自動集計といった機能が標準搭載されており、実態との乖離を防ぎやすくなっています。また、多くの場合、監査ログや変更履歴、操作履歴なども保持できるため、「誰が・いつ・どのように修正したか」を後から確認できる状態を維持しやすくなっています。
奉行Edge 勤怠管理クラウドの場合、さまざまな打刻方法が活用でき、工場勤務やテレワーク、直行直帰など勤務場所に応じて実態を把握しやすい環境を整えられます。労働時間や休憩時間、残業時間などの基本勤務体系をあらかじめ登録することで、打刻時刻に応じて労働時間や残業時間を自動集計できます。

未打刻が発生した場合には、本人や上長へ通知する設定も可能で、システム上で残業申請や休日出勤申請、有休申請などを行うこともできます。
残業申請時には、36協定の範囲を超えていないかを従業員自身が確認しながら申請できるほか、一定時間を超えた場合にはダッシュボードやメール、ビジネスチャットで自動通知を行うことも可能です。

さらに、さまざまな給与システムとの連携によって、勤怠締めから給与計算までを効率化しやすくなります。給与奉行iクラウドとは、自動連携で勤怠データを給与計算に必要な日数・時間・回数として反映できるため、転記の負担やミスの軽減にもつながり、属人的になりやすい労働時間管理の効率化にも役立つでしょう。

おわりに
労働時間管理で本当に重要なのは、“1分単位で管理していること”そのものではなく、実際の勤務実態に即した労働時間管理を、継続的かつ適切に運用できていることです。
働き方が多様化し、かつ、労働時間管理に関する法令対応も厳格化している現代において、紙やExcelを中心とした管理体制では、記録漏れや集計ミス、運用の属人化が発生しやすく、適切に労働時間を把握することは難しくなっています。
奉行Edge 勤怠管理クラウドのようなクラウド勤怠管理システムなら、法令に準拠した勤怠管理や残業時間管理をしやすく、勤務実態も客観的に記録・保存できるようになります。給与システムとスムーズに連携することで、給与計算時の転記ミスをなくし、未払い残業や労務トラブルの防止にもつなげやすくなるでしょう。
ぜひこれを機に、自社の勤怠管理の運用そのものを見直してみてはいかがでしょうか。
よくある質問
- 労働時間は本当に1分単位で管理しなければならないの?
-
「1分単位で管理しなければならない」という法令があるわけではありません。賃金全額払いの原則に基づき、実際に働いた時間に応じて労働時間を把握・計算することが求められているため、実務上は「1分単位」が原則とされています。ただし、1ヵ月単位で集計した時間外労働については、事務簡便化の目的で「30分未満切り捨て・30分以上切り上げ」といった例外的な端数処理が認められているケースもあります。
- 15分単位での切り捨ては違法?
-
「15分未満は切り捨てる」といったルールを日常的に運用し、実際の労働時間より少なく計算している場合には、未払い賃金と判断される可能性があります。特に、日次単位や打刻単位で機械的な切り捨てを行っている場合は、労使トラブルや労基署調査につながるリスクもあるため注意が必要です。
- 残業申請がなければ残業時間にしなくても違法にならない?
-
事前申請制そのものに問題はありませんが、「申請がない=労働時間ではない」とは限りません。実際に業務が行われており、企業側もその状況を把握できる状態だった場合には、黙示の指揮命令があったと判断され、残業代の支払い義務が発生する可能性があります。
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