東証スタンダード市場とは?コンセプト、上場基準、他市場との違いを解説

東証スタンダード市場は、2022年4月の東京証券取引所(東証)市場再編により、ジャスダックスタンダード市場と東証本則二部市場を引き継ぐ市場、という位置づけで誕生しました。2024年3月末時点で1,609社が上場しており、グロース市場に次いでIPO企業に選ばれる市場です。他市場や旧市場との違い、スタンダード市場上場のメリット・デメリットを解説。
2024年4月23日

1.東証スタンダード市場とは

東証スタンダード市場(以下、スタンダード)は2022年4月の東京証券取引所(東証)市場再編により、ジャスダックスタンダード市場(以下、ジャスダックスタンダード)と東証本則二部市場(以下、東証二部)を引き継ぐ市場という位置づけで誕生しました。コンセプトは「公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場」であり、2024年3月末時点において、1,609社が上場しています。

2.市場再編の背景

2022年4月の市場再編前、東証は以下の3つの課題を抱えていました。
  • ①各市場区分のコンセプトが曖昧であり、多くの投資家にとって利便性が低い
  • ②上場企業の持続的な企業価値向上の動機付けの点で、期待される役割を十分に果たせていない
  • ③投資対象としての機能性と市場代表性を備えた指数が存在しない
出典:株式会社日本取引所グループ「現在の市場構造を巡る課題」

これらの課題を解消すべく市場再編が行われた結果、以下が変更されています。
変更点)
  • ・各市場のコンセプトが明確になり、コンセプトに即した上場基準を設定
  • ・新規上場基準と上場維持基準は原則として共通化
  • ・各市場は独立し、市場区分間の移行に関する緩和された基準は廃止 等

市場再編前は「実績のある企業向けの市場」が東証二部とジャスダックスタンダード、「新興企業向けの市場」が東証マザーズ市場(以下、マザーズ)とジャスダックグロース市場(以下、ジャスダックグロース)という位置づけであり、コンセプトが重複していました。しかし市場再編によりコンセプトの重複は解消されました。

東証本則一部 流通性が高い企業向けの市場
東証本則二部 実績ある企業向けの市場
マザーズ 新興企業向けの市場
ジャスダック 実績ある企業・新興企業など多様な企業向けの市場

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▲市場再編前の各市場区分のコンセプト

市場再編の結果、再編前(2022年4月3日時点)は、東証一部が2,177社、東証二部とジャスダックスタンダードが1,127社、マザーズとジャスダックグロースが466社でしたが、再編後の2022年4月4日には東証プライム市場(以下、プライム)が1,839社、スタンダードが1,466社、東証グロース市場(以下、グロース)が466社(うち1社は4月4日付で新規上場)となりました。そして2024年3月末では、プライムが1,651社、スタンダードが1,609社、グロースが576社となり、プライムの上場企業数は再編時と比べて減少し、一方でスタンダードは増加しています。市場再編でコンセプトが明確化され、最上位市場の本則一部企業数が多すぎる問題、東証二部・ジャスダック・マザーズが整理されたことでスタンダードの価値に対する理解が進んだといえます。

再編前後、その後の各市場上場社数の推移
▲再編前後、その後の各市場上場社数の推移

3.東証スタンダード市場の概要

3-1.コンセプト

スタンダードのコンセプトは以下です。
公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場 出典:株式会社東京証券取引所「新市場区分の概要等について」

3-2.上場基準

コンセプトに即した流動性やコーポレート・ガバナンスなどにかかる定量的・定性的な基準が設けられています。

3-2-1.流動性

一般投資家が円滑に売買を行うことができる適切な流動性の基礎を備えた銘柄を選定することを目的に設定されています。
項目 新規上場基準 上場維持基準
株主数 400人以上 400人以上
流通株式数 2,000単位以上 2,000単位以上
流通株式時価総額 10億円以上 10億円以上
売買高 月平均10単位以上

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3-2-2.ガバナンス

持続的な成長と中長期的な企業価値向上の実現のための基本的なガバナンス水準にある銘柄を選定することを目的に設定されており、「上場企業として最低限の公開性(海外主要取引所と同程度の基準を採用)」が求められています。
項目 新規上場基準 上場維持基準
流通株式比率 25%以上 25%以上

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3-2-3.経営成績、財政状態

安定的な収益基盤・財政状態を有する銘柄を選定することを目的に設定されています。
項目 新規上場基準 上場維持基準
収益基盤 最近1年間の利益が1億円以上
財政状態 純資産額が正であること 純資産額が正であること

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出典:株式会社日本取引所グループ「市場構造の見直し」

3-3.スタンダード市場上場企業一覧

スタンダード上場企業の時価総額上位10位企業は以下のとおりです(2024年4月12日15:51時点)。
順位 企業名 銘柄コード 時価総額(百万円)
1 日本オラクル(株) 4716 1,449,680百万円
2 日本マクドナルドホールディングス(株) 2702 924,072百万円
3 アコム(株) 8572 651,868百万円
4 東映アニメーション(株) 4816 580,020百万円
5 (株)ハーモニック・ドライブ・システムズ 6324 389,595百万円
6 住信SBIネット銀行(株) 7163 374,119百万円
7 (株)ワークマン 7564 326,159百万円
8 三菱食品(株) 7451 241,196百万円
9 フクダ電子(株) 6960 239,695百万円
10 (株)セリア 2782 213,641百万円

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参考:日本経済新聞 時価総額上位 市場別・スタンダード(時価総額上位)

スタンダードの上位には、日本オラクルや日本マクドナルドホールディングスなど、世界で活躍する企業がランクインしています。

4.プライム市場・グロース市場、旧市場との違い

4-1.上場基準

コンセプトの異なるプライム及びグロースとは、流動性やコーポレート・ガバナンスなどにかかる定量的・定性的な基準が異なります。
たとえばプライムは、株主数800人以上、流通株式数20,000単位以上、流通株式時価総額100億円以上、流通株式比率35%以上などの新規上場基準が設けられています。
またグロースは、株主数150人以上、流通株式数1,000単位以上、流通株式時価総額5億円以上、流通株式比率25%以上などの新規上場基準が設けられています。

各市場のコンセプトおよび詳細な基準は以下をご覧ください。

4-2.コーポレートガバナンス・コード適用範囲

スタンダードのコンセプトには「基本的なガバナンス水準」という文言があります。そのため、ガバナンス・コードはプライムと同様に全原則の適用が求められています(プライム市場で求められている「より高い水準」までは求められていません)。
プライム市場 スタンダード市場 グロース市場
基本原則
原則 〇(より高い水準)
補充原則 〇(より高い水準)

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スタンダードは全原則適用ではありますが、他市場と同様に「コンプライ・オア・エクスプレイン」が採用されているため、すべてにコンプライする必要はありません。実施することが適切ではないと考える原則があれば、それを「実施しない理由」を十分に説明することにより、一部の原則を実施しないことも可能です。

4-3.資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応への開示

東証は2023年3月31日、プライム及びスタンダードの全上場企業を対象として、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請しました。要請が出た時点で、プライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割の上場企業がPBR(株価純資産倍率)1倍割れの状況であり、資本収益性や成長性といった観点で改善の必要があったためです。
さらに東証はその対応状況を2024年1月から開示しています。以下の円グラフは2023年12月末時点でのスタンダード企業の開示状況です。

スタンダードの「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示状況(2023年12月末時点)
▲スタンダードの「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示状況(2023年12月末時点)

出典:株式会社東京証券取引所 上場部『「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示状況(2023年12月末時点)』

開示状況は毎月更新されるため、対応状況を開示せずにそのままにしておくことが実質難しく、早急な対応が求められています。

出典:株式会社日本取引所グループ「市場区分の見直しに関するフォローアップ」

4-4.旧市場(ジャスダックスタンダード市場)との違い

スタンダードの形式基準は、東証二部より求められる水準が低く、ジャスダックスタンダードより求められる水準が高く設定されています。またコーポレートガバナンス・コードに関しては東証二部と同様に全原則適用であり、基本原則のみ適用だったジャスダックスタンダードとは大きな違いがあります。
これらの違いから、市場再編前にジャスダックスタンダードを目指していた企業はスタンダードには上場できず、行き場がなくなってしまうのではないかという懸念がありました。
確かに当時は対応に苦慮した企業もあったでしょう。しかし、2023年IPOをみてみると、スタンダード上場企業は96社中23社/24%と2022年(91社中14社/15%)に比べて約10%も増加しています。さらに地方取引所やTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)へのIPOも増えています。市場再編をきっかけに、コンセプトや基準をもとに自社に適した市場を選択できるようになった結果、市場選択は多様化したといえます。

5.スタンダード市場上場のメリット・デメリット

5-1.メリット

上場のメリットは一般的に以下の5つが挙げられます。
  • (1) 資金調達方法の多様化と資金調達力の向上
  • (2) 知名度・信用力の向上
  • (3) 人材確保の優位性、従業員の士気向上
  • (4) 管理体制の強化・充実
  • (5) 創業者利潤の実現

これらのメリットはすべての上場企業に共通したメリットであり、スタンダードへの上場でも同様のメリットが得られるでしょう。

5-2.デメリット

上場のデメリットは以下の4つが挙げられます。
  • (1) 会社情報の開示義務とその体制の確立
  • (2) 敵対的(同意なき)TOB等、株式買占めへの対応
  • (3) 株主対策(コミュニケーション)
  • (4) 上場維持コストの発生

これらのデメリットは上場企業に共通したデメリットです。
プライムと異なり、海外投資家比率が低いスタンダードにおいて、株主対策に注力してきた企業は多くはないでしょう。しかし昨今アクティビストと呼ばれる投資家の動きは活発であり、上場市場に関係なく、企業価値を継続して向上させていると認められない場合、経営陣交代などの厳しい株主提案をされてしまうケースも増えています。
実際に、PRR1倍割れにも関わらず買収防衛策を導入している企業、自己資本比率が非常に高いキャッシュリッチな企業など、スタンダード企業への株主提案が増えています。株主対策をはじめ、上記のデメリットは上場企業として当然に対応すべき事項として投資と捉え、対応することが肝要です。

6.スタンダード市場へのIPO

IPOにおけるスタンダードへの上場社数は2022年14社(15%)に比べ、2023年は23社(24%)とシェアが拡大しました。同様に、名古屋証券取引所(名証)メイン市場は2社増加し、札幌証券取引所(札証)のおいては約23年ぶりの新規本則単独上場が話題となりました。一方で2022年に比べてグロースは4社減となりました。スタンダードをはじめグロース以外の市場へのIPOが盛り上がってきており、これまでグロース一択と言っても過言ではなかったIPO市場に変化の兆しが見えてきています。

2023年と2022年の各市場IPO企業数推移
▲2023年と2022年の各市場IPO企業数推移

7.最後に

スタンダードは2022年4月の東証市場再編を機に誕生しました。「公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場」であり、以前の東証二部・ジャスダックスタンダードの後継という位置づけです。新規上場基準も維持基準も決して簡単にクリアできる水準ではありませんが、2023年でいうとIPO企業の約1/4がスタンダード市場を選択しており、グロース市場に次いでIPO企業に選ばれる市場です。市場コンセプトが自社の目指すべき方向性と合致する場合、その選択肢としてスタンダード市場を視野に入れてみるのはいかがでしょうか。
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執筆
IPO Compass編集部
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