地方企業におけるこれからのIPO準備 ~経営の透明性向上とDXがIPO実現の鍵~

POINT
・地方企業のIPOには「経営の透明性向上」が必要!
・経営の透明性を高めるためには、デジタルの力が不可欠!
持続的な成長・事業承継の実現のため、IPOを目指す地方企業が増えています。しかし、業務の属人化や紙文化など、IPO準備において障壁になる課題を抱えているケースも散見されます。地方企業がIPOを実現するためには「経営の透明性向上」が必要です。本コラムでは、デジタルを活用した経営の透明性向上のポイントを3つの視点から解説します。
更新:2022年6月30日
地方企業では、良い人材がいない、後継者がいない、良い仕組みがない、といった現場をよく目にします。 企業としての成長機会がまだまだあるのに、それらの課題によって足踏みをしているのはもったいないです。
本コラムでは、質的・規模的にも地方企業の持続的成長を促進する究極の企業成長ツール=IPOについて、 実現すべき理由と準備のポイントを解説します。

目次
  • ※本コラムは、2021年6月8日時点の記事です。2022年4月4日より新市場区分(東京証券取引所:プライム・スタンダード・グロース)に再編されています。

1.地方企業がIPOを目指す理由

コロナ禍の影響を受けながらも活況なIPO市場。
地方でもIPOを目指す企業が増えていますが、地方企業がIPOを目指す理由とは何なのでしょうか?
その答えは2つあります。

(1)持続的に成長する企業への転換
昨今、中小企業では持続的に成長する企業と、停滞・衰退してしまう企業とでK字型の二極化が進んでいます。 地方には中小企業が多く、かつ残念ながらK字の下向きに属する企業のほうが多い傾向にあります。
そこで、IPOにおける資金調達や採用力強化によって自社の持続的成長を実現するべく、IPOを考える地方企業が増えています。

(2)事業承継による後継者不足の解消
中小企業庁のデータより、2025年までに60万社が後継者不足によって黒字倒産すると言われています。 事業承継で会社を存続させていくことは、地方の企業にとって必達の課題と言えます。
IPOすることにより優秀な人材が獲得しやすくなりますので、後継者候補を増やすのにIPOは有効な手段と言えます。

上記の理由からIPOを視野に入れる地方企業が増えていますが、2021年3月末までにIPOを実現した企業のうち3分の2以上は大都市圏の企業であり、地方からのIPOは3分の1程度と、IPOを本格的に目指す地方企業は少ないのが現状です。

その背景には、「IPOの条件に自社が見合ってない」、「IPO人材や情報がない」といった「よくある誤解」があります。
しかし、下表のとおり問題は全て解消されています。地方企業がIPOを選択肢に入れない理由は何もありません。
よくある誤解 実際の状況
IPOって急成長しているベンチャー企業が目指すものでしょ?うちは売上規模も小さいから、IPOなんて無理では?」 マザーズ上場時の売上高平均は22億円、利益2億円程度。審査基準が比較的低い地方証券取引所(札証、名証、福証やTOKYO PRO Market)など上場先も拡充
IPOのための人材がなかなか採用できない。これではIPOできない…」 IPO選任の人材は必ずしも社内で抱える必要はない。働き方が多様化する昨今では、社外・遠隔地の専門人材ともオンラインで繋がることができる。
「周りに上場会社がいなくて情報が少ないから、何から始めればいいかわからない…。」 オンラインセミナーや地方取引所の取組により、情報の格差はなくなりつつある。

※横スクロールできます。

2.IPOに必要な「経営の透明性」と3つの視点

それでは、地方企業がIPOするにはどうすればいいのでしょうか。
答えは「デジタルを活用して経営の透明性を高めること」です。

前提として、企業を取り巻く利害関係者には、取引先・株主・顧客・金融機関、 さらには地域社会・働いている従業員の方、そのご家族など、様々な人々が存在します。
それぞれの利害関係者から見て、その企業がどういう企業なのかわかること、それが「経営の透明性」です。

そして、経営の透明性は「経営管理の透明性」「組織の透明性」「ビジネスの透明性」の3つの視点に分類できます。

経営の透明性とは?

これらの透明性向上は、社会的信用や優秀な人材の確保等に繋がるばかりではなく、 IPOの実質審査基準で求められる、収益性・健全性・内部管理・コーポレートガバナンス・開示の適正性を満たすためにも有効です。

経営の透明性と「実質審査基準」の関係性

ここから、3つの透明性の具体的な対応ポイントと、ポイントごとに活用できるデジタルツールを解説していきます。

2-1.経営管理の透明性

経営管理の透明性向上は、経営ビジョンや成長の方向性を見える化するとともに、企業の状況を適時適切に数値で評価できることで実現できます。 対応ポイントとしては5点あります。

対応ポイント IPO必須度 デジタル相性 代表的なツール
(1)経営ビジョン must
(2)中期経営計画 must
(3)予算管理・予算統制 must 予算管理システム
(4)月次決算 must 会計システム、経費精算システム
(5)経営コックピット better RPA、BIツール

(1)経営ビジョン
経営ビジョンとは、企業が将来のありたい姿を示すものであり、経営者の思いを具体化したものです。
経営ビジョンがしっかりしていれば社内でも共通の価値観が醸成され、組織を一体化できます。
IPOにあたっては必須の項目ですが、経営者が自ら考え策定すべきもののため、デジタルツールで自動作成というわけにはいきません。
まずは自社を取り巻く環境を整理し経営理念を策定するとともに、ヒト・モノ・カネ等の経営資源が将来どうなっていればいいのか、 具体的に数値化してまとめましょう。

経営ビジョン

(2)中期経営計画
中期経営計画とは、(1)の経営ビジョンと現在地とのギャップを埋めるための道筋として策定したものです。
こちらもデジタルツールで賄うことはできませんが、IPOを目指すかどうかに関わらず、全ての企業にとって重要な項目と言えます。

中期経営計画の3つの機能・効果

(3)予算管理
予算管理は、業績見通しなどの将来予測情報の発表と修正のためにも非常に重要な項目です。
(2)の中期経営計画の初年度の数字を落とし込んだものが年度予算の数字となります。
管理サイクルは月次とし、毎月、単月の予算と実績を比較・差異分析を行い、取締役会や経営会議で報告・対応策の検討を行っていきましょう。

エクセルやスプレッドシートを用いて予算管理している企業も多いですが、 情報量が多くなると効率化が難しく属人化しやすい、エクセルのバージョン管理が難しいといった課題が出てきます。
予実管理機能を搭載した会計システムや、会計システムと連動できる予算管理システムを導入するなど、 予算編成プロセスの効率化・自動化を目指すのがおすすめです。

【関連コラム】Excelでの予実管理はもはや限界!?スムーズに予算管理を運用するための方法とは

(4)月次決算
月次決算は、毎月の営業成績・財政状態を把握し、利益管理に有効な情報を提供するために行われる月ごとの決算です。
その月の取引を締めてから、遅くとも翌月10日以内ぐらいには作成する必要がありますが、 スピード重視というわけではなく、減価償却費や引当金などの見積もりの会計処理を一定の精度で入れていくことが重要です。

月次決算とデジタルの相性は非常に良いため、もともと会計システムなどを導入している企業も多いと思われます。
より生産性を高めたい場合は、追加で経費精算システムや請求管理システムを入れても良いでしょう。

【関連コラム】月次決算とは?業務の流れ・手順とやり方のコツ

(5)経営コックピット
経営コックピットとは、経営判断の指標になる数値を見える化する仕組みのことです。
(3)の予算管理では予実差異分析の結果が得られますが、 重要なのはその分析結果に応じて改善策を実行し、計画の実現可能性を高めていくことです。
しかし、改善策の効果が出たとしても、「どの程度達成できたか」を具体的な数値で可視化しなければ、感覚的にしか把握することはできません。

そこで、改善策の効果をはかる指標として、KPI(重要業績評価指標)を設定する必要が出てきます。
KPIには、売上・利益など財務指標を分解した細かい数字の指標のほか、 定性的な非財務指標も設定することで、より効果的な分析・アクションに繋げられます。
企業が持つ様々なデータを分析・見える化するBI(ビジネスインテリジェンス)ツールもありますので、導入を検討してもよいでしょう。

2-2.組織の透明性

互いの価値観を認め、意見交換が活発な自律型組織を作ることが組織の透明性に繋がります。
対応ポイントとしては3点あります。

対応ポイント IPO必須度 デジタル相性 代表的なツール
(1)意思決定プロセスと業務の見える化 must ワークフロー、文書管理
(2)人材評価の見える化 must 勤怠管理システム、給与計算システム、日報管理システム、タレントマネジメントシステム、人事評価システム
(3)自律型組織 better タレントマネジメントシステム、ビジネスチャット、ピアボーナス

(1)意思決定プロセスと業務の見える化
意思決定プロセスや業務が属人化している場合は、個人的経営から組織経営へのステップアップとして、業務分掌と職務権限の適切な設定が必要になります。

業務分掌と職務権限の適切な設定

業務分掌によって属人化していた仕事を組織に紐づけることで、特定の個人に偏っていた業務の負荷を平準化・効率化できます。 また、職務権限の適切な設定によって、経営層に集中していた権限を部下に委譲し意思決定プロセスを見える化できます。
デジタルツールとしてはワークフローや文書管理システムがあります。

【関連システム】会計処理の職務分掌を始め、IPO準備・内部統制・会計監査に対応した「奉行V ERP」

(2)人材評価の見える化
働き方・職務にあった人事評価制度の構築・運用は、経営からの期待値と、 従業員が認識している役割を一致させ、安心して働くことができる環境を整えるためにも重要です。
評価には労働の内容・労働時間の把握が前提にあります。
勤怠管理システムや人事評価システムを利用して、従業員の労働状況を正確に把握しましょう。

【関連システム】正確な勤怠管理・人材育成・人事考課の仕組み構築は「奉行クラウドEdge」

よくある不透明な組織

(3)自律型組織
自律型組織とは、各メンバーが当事者意識を持って自ら目標を設定し、チームとして成果を出す行動を継続的に実行できる組織です。
IPOという新しいステージに進むにあたっては、心理的安全性が高く風通しの良い組織を実現し、 新しいことへのチャレンジや意欲を生み出せる環境にしておくことが重要です。

意見・気持ちを共有できる場を作る、社内データにいつでも誰でもアクセスできるような仕組みは、 ビジネスチャットなどデジタルを通じて作ることができます。
日々のコミュニケーションに関わるものですので、デジタルを導入するきっかけとしては比較的利用しやすいのではないでしょうか。

よく心理的安全性が高く風通しの良い組織

2-3.ビジネスの透明性

企業から情報発信をし、企業行動とその結果について説明をしていくことと、営業の見える化がビジネスの透明性向上に繋がります。
対応ポイントとしては2点あります

対応ポイント IPO必須度 デジタル相性 代表的なツール
(1)情報発信 better オウンドメディア、ビジネスチャット
(2)営業の見える化 better SFA、CRM、MA

(1)情報発信
自社のモノやサービスだけではなく、文化や方針・取り組みを発信していくことも重要です。
数字に表れない、それらの無形の資産が、中長期で見たときに企業イメージを形成し、企業価値に大きな影響を与えるためです。
また、これからは他社とも提携しながら経営を行う、オープンイノベーションの時代になってきます。
そうした中では、企業の情報発信が必要不可欠と言えます。
オウンドメディアやビジネスチャットを活用し、広く情報発信をしていきましょう。

(2)営業の見える化
上場を考えた場合、売上の予測可能性を高めるために、再現性・予測可能性が高いビジネスを構築する必要があります。
企業が持続的に成長するためには、属人的営業から組織的営業へ転換をしなくてはなりません。

そのためには、営業支援デジタルツールの活用も有効です。SFA(営業支援システム)を使えば、引合や商談といった各段階の案件数の把握や、売上予測や失注の原因分析・注力案件の特定・打ち手の検討にも活用可能です。
IPOにあたって必須ではありませんが、上場企業として数字を公開する際に売上予測を立てる必要が出てきますので、 今から整えていくことがベターです。

3.IPOにはデジタルの活用が必要不可欠

以上のとおり、経営の透明性を意識して整備することがIPOへの近道であり、企業の持続的な成長にも繋がります。

そして経営の透明性を高めるためには、デジタル活用による変革が不可欠です。
デジタルは企業規模や資本力に関わらず全ての企業が利用できるツールであり、地方企業のIPOにも大いに活用できます。

デジタル化に関しては、以下のようにIPO・DXの専門知識を持つ人材がいないことによるお悩みも少なくありません。
▼よくあるお悩み
・IPOに向けて必要最低限のシステム導入を行っておきたいが、どこまでやればいいのかわからない。
・紙・FAX・Excelだらけの業務から脱却したいが、社長がITを敬遠しており説得できる人材もいない。
・IT機器の管理はITに明るい社員に任せていたところ、IPOにあたり管理方法を改善すべきと指摘を受けたが、募集しても専門人材が来ない。
上記のような課題も、必要な業務ごとに細かく役割を分けて社内の人材に担当してもらう、もしくは外部の専門人材を入れることで対応が可能です。

地方創生の主役は誰か?それは地方企業の皆さまです。
いままで地方創生の主体となっていたのは、行政やNPO、第三セクター、 一定期間委託を受けた外部資本の会社や人などでした。もちろん成功例もありますが、 往々にして当事者意識が欠如した取り組みとなり一時的なもので終わってしまいがちです。
これからの地方創生は、地方企業がデジタルの力を活用し、IPOという究極の成長ツールを使って実現する必要があります。

DX推進が注目される今、自社に合う方法でDXへの一歩を踏み出し、IPO準備を進めていきましょう。

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執筆
みらいコンサルティンググループ<br>カンパニーリーダー<br>みらい創生監査法人 代表社員<br>中谷 仁氏
みらいコンサルティンググループ
カンパニーリーダー
みらい創生監査法人 代表社員
中谷 仁氏
1977年大阪生まれ。2003年に中央青山PwCコンサルティング株式会社(現:みらいコンサルティング株式会社)入社。2009年公認会計士登録。 会計監査をはじめ、管理会計構築、IPO支援、内部統制(J-SOX)構築支援など会計を中心とした業務に従事。 会計分野のみならず経営目線で、再生企業から成長企業まで会社のステージに合わせた支援を行っている。2016年から現職。
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