

近年、従業員の多様な働き方に対応する制度として、「フレックスタイム制」の導入を検討する企業が増えています。1987年以来、約40年ぶりの見直しが議論されている労働基準法の改正案では、フレックスタイム制の運用にも一定の影響が及ぶ可能性が指摘されており、今後は企業経営において、より重要な制度のひとつとなるでしょう。
しかしその一方で、フレックスタイム制は従来の固定的な労働時間管理とは異なる仕組みのため、中小企業においては「運用が難しそう」と感じられるケースも少なくありません。
そこで今回は、フレックスタイム制の基本的な仕組みを整理するとともに、中小企業が導入する際に押さえておきたいポイントについて、実務目線で解説します。
目次
- フレックスタイム制とは
- フレックスタイム制のメリット・デメリット
- フレックスタイム制が中小企業に導入されにくい理由
- 労働基準法改正の動向を見据えた中小企業の勤怠管理のポイント
- フレックスタイム制の運用にはクラウド勤怠管理の活用が有効!
- おわりに
- よくある質問
フレックスタイム制とは
フレックスタイム制とは、一定期間における総労働時間をあらかじめ定め、その範囲内で、従業員が日々の始業時刻や終業時刻を自主的に決定して働くことができる制度です。ここでいう一定期間とは、「清算期間」と呼ばれる労働時間の管理単位を指します。フレックスタイム制では、この清算期間内で総労働時間を満たすことが求められます。
通常の労働時間制(固定労働時間制)では、1日ごとに労働時間を管理し、決められた時刻に出勤・退勤する働き方が基本です。一方フレックスタイム制は、日単位ではなく「清算期間」という単位で労働時間を管理します。これにより、ある日は短時間勤務、別の日は長時間勤務といった柔軟な働き方が可能になります。
ただし、あくまで「決められた総労働時間を満たすこと」を前提として、その配分を柔軟にできる制度であり、従業員が自由に労働時間を決められるものではありません。
●「コアタイム」と「フレキシブルタイム」
フレックスタイム制では、業務の円滑な運営と柔軟な働き方を両立させるため、一般的に「コアタイム」と「フレキシブルタイム」を設定します。
- コアタイム:従業員が必ず勤務しなければならない時間帯。会議や打ち合わせなどを行うための共通時間として機能し、業務上必要なコミュニケーションを確保する役割を担います。
- フレキシブルタイム:始業・終業時刻を従業員が自由に調整できる時間帯。通勤事情や家庭の都合など、個々の事情に応じた柔軟な働き方を可能にします。

出典:厚生労働省 PDF「フレックスタイム制 のわかりやすい解説 & 導入の手引き」
これらを組み合わせることで、従業員の裁量による柔軟な働き方を認めつつ、業務に必要な連携やコミュニケーションの時間を確保することができます。
一方、従業員ごとに日々の勤務時間が異なることから、労働時間の把握や管理は従来よりも複雑になります。また、労働時間は清算期間単位で管理する必要があるため、過不足の管理や残業時間の把握なども含め、従来とは異なる視点での勤怠管理が求められます。
なお、フレックスタイム制の導入にあたっては、就業規則の整備や労使協定の締結が前提となります。制度の仕組みを理解するだけでなく、運用を見据えた準備が必要である点にも留意が必要です。
フレックスタイム制のメリット・デメリット
フレックスタイム制は、企業・従業員の双方にメリットがありますが、制度設計や運用方法によっては、その効果を十分に発揮できない場合もあります。導入を検討する際には、メリットだけでなく、実務上の課題も踏まえて判断することが重要です。
ここでは、主なメリットとデメリットを整理します。
●フレックスタイム制のメリット
① 柔軟な働き方の実現とワークライフバランスの向上
フレックスタイム制では、従業員が始業・終業時刻を調整できるため、通勤時間の混雑を避けたり、家庭の事情に合わせて勤務時間を設定したりと、個々の事情に応じた働き方が可能になります。特に、育児や介護と仕事を両立する必要がある従業員にとっては、大きなメリットといえるでしょう。
また、勤務時間に一定の裁量があることで、生活リズムに合わせた働き方がしやすくなり、心身の負担軽減にもつながります。結果として、従業員満足度の向上や離職防止といった効果も期待できます。
② 生産性の向上
従業員自身が業務の状況やコンディションに応じて働く時間を選択できるため、集中しやすい時間帯に業務を行うことが可能になります。例えば、朝型・夜型といった個人差に応じて最適な時間帯に働くことで、業務効率の向上が期待できます。
また、通勤ラッシュを避けることで移動に伴うストレスを軽減できる点も、生産性向上に寄与します。こうした積み重ねにより、限られた労働時間の中でより高い成果を生み出す働き方につながります。
③ 人材確保・定着への効果
柔軟な働き方を提供できることは、企業にとって採用面での強みとなります。近年は、給与や待遇だけでなく「働き方」を重視する求職者も増えており、フレックスタイム制の導入は企業の魅力向上につながる要素のひとつです。
また、従業員にとって働きやすい環境を整備することは、長期的な定着にも寄与します。特に中小企業においては、人材の流出が経営に与える影響が大きいため、こうした制度の整備は重要な施策といえるでしょう。
●フレックスタイム制のデメリット
① 労働時間管理の複雑化
フレックスタイム制では、清算期間内の総労働時間を把握する必要があります。そのため、従来の日々の勤務時間に加えて、期間全体での労働時間を管理する手間や負担が大きくなる傾向があります。
また、従業員ごとに勤務時間が異なるため、勤怠の把握や確認作業も煩雑になりがちです。手作業やExcelで管理している場合には、集計ミスや確認漏れが発生するリスクも高まります。
② 残業時間の把握や計算の難しさ
清算期間を単位とする労働時間管理では、時間外労働の判定方法が従来とは異なります。日単位ではなく、期間全体の労働時間をもとに残業時間を算出する必要があり、計算が複雑になります。
また、深夜労働や休日労働については別途管理が求められ、制度を正しく理解したうえで運用しなければなりません。
こうした複雑さは、担当者の負担増加や、場合によっては法令違反のリスクにつながる可能性があります。
③ 業務管理・コミュニケーションへの影響
従業員ごとに勤務時間が異なることで、業務の進捗管理や社内コミュニケーションに影響が生じる場合があります。チームでの連携が必要な業務では、メンバーが同時に勤務している時間帯をどのように確保するかも課題となるでしょう。
また、情報共有のタイミングがずれることで、意思決定の遅れや業務の非効率化につながる可能性もあります。
こうした課題に対応するためには、コアタイムの設定や運用ルールの整備など、制度設計段階での工夫が欠かせません。
フレックスタイム制が中小企業に導入されにくい理由
フレックスタイム制は、柔軟な働き方を実現できる制度として知られていますが、実際にはすべての企業で広く導入されているわけではありません。
厚生労働省の調査によると、2024年時点ではフレックスタイム制を採用している企業は全体の約11%にとどまっています。特に、従業員100人未満の企業では、導入していない企業が80〜90%と、中小企業ほど導入率が低い傾向が見られます。

出典:厚生労働省 PDF「第196回 労働条件分科会 資料」
●中小企業の導入を阻む要因
では、なぜ中小企業ではフレックスタイム制の導入が進まないのでしょうか。
その背景には、制度そのものというよりも、運用を支える「労働時間管理の難しさ」があると考えられます。
① 清算期間ごとの労働時間管理が難しい
フレックスタイム制では、始業・終業時刻の決定を従業員に委ねる一方で、使用者には労働時間の適切な把握・管理が求められます。
日々の勤務時間だけでなく、期間全体でどの程度働いているかを継続的に把握する必要があり、月の途中段階では最終的な労働時間が確定しないため、進捗を都度確認しなければなりません。
② 労働時間の可視化が難しくなる
従業員ごとに勤務時間が異なることで、「誰がいつ働いているのか」を把握しづらくなります。
紙やExcelによる管理では、リアルタイムでの状況把握が難しく、管理が後追いになりがちです。その結果、長時間労働の見落としや、勤怠管理の属人化といったリスクにつながる可能性があります。
③ 残業時間の計算が複雑になる
フレックスタイム制の時間外労働は、清算期間全体の労働時間をもとに判定します。また、深夜労働や休日労働については別途管理が必要となるため、制度理解を前提とした運用が求められます。
従来とは異なる管理方法となるため、慣れていないと計算ミスや確認漏れが発生しやすい点にも注意が必要です。
④ 手作業による勤怠管理では対応が難しい
中小企業では、Excelなどを用いた手作業での勤怠管理が行われているケースも少なくありません。しかし、フレックスタイム制は複雑な管理が求められるため、手作業による対応には限界があります。
集計ミスや入力漏れといったヒューマンエラーのリスクも高まり、正確な労働時間管理が難しくなる可能性があります。
●今後は法改正を見据えた労働時間管理が重要に
このように、中小企業でフレックスタイム制の導入が進まない背景には、「労働時間管理の複雑さ」が大きく影響していることが分かります。柔軟な働き方を実現できる制度であることは理解していても、自社の運用負担を考えると導入に慎重にならざるを得ないのが実情といえるでしょう。
一方で、長時間労働の是正や労働時間の適正把握といった観点から、現在、労働基準法の見直しに向けた議論が進められています。企業に求められる労働時間管理の水準は、今後さらに高まる可能性があり、どのような働き方であっても「正確に労働時間を把握し、適切に管理すること」が重要になっていきます。
仮に法改正が行われた場合には、中小企業においても原則として対応が求められることが想定されるため、制度の導入有無にかかわらず、将来的な法改正を見据えて、勤怠管理体制の整備が急務といえます。
労働基準法改正の動向を見据えた中小企業の勤怠管理のポイント
フレックスタイム制を適切に運用するためには、制度の仕組みを理解するだけでなく、日々の労働時間をどのように把握し、管理していくかが鍵となります。
ここでは、フレックスタイム制の運用の難易度を左右する「管理設計」の観点から、勤怠管理のポイントを整理します。
●清算期間を踏まえた労働時間管理を行う
フレックスタイム制は、あらかじめ定められた総労働時間に対して、日々の勤務時間がどのように積み上がっているかを把握し、清算期間内に収まるよう調整していく必要があります。実務では、単に打刻を確認するだけではなく、「現時点でどの程度の労働時間になっているのか」「このままの勤務状況で問題ないか」といった進捗の管理が求められます。
また、月の前半で労働時間が過剰になっている場合には後半で調整が必要となり、逆に不足している場合には業務配分の見直しが必要になることもあります。そのため、実務では月の途中段階での確認が肝心になります。
なお、清算期間は原則1か月以内とされていますが、労使協定の届出義務など一定の要件を満たすことで、最長3か月まで設定することも可能です。また、総労働時間を超過した場合には、その超過分について賃金の支払いが必要となります。

出典:厚生労働省 PDF「フレックスタイム制 のわかりやすい解説 & 導入の手引き」
フレックスタイム制では、清算期間全体を見据えた労働時間のコントロールを行うことが、適切な運用の前提となります。「どれだけ働いたか」だけでなく、「その結果をどのように処理するか」まで含めて管理することが大切です。
●フレックスタイム制での残業時間を清算期間ベースで正確に把握する
フレックスタイム制の場合、ある日に長時間勤務があっても、清算期間全体で見れば所定労働時間内に収まる場合もあれば、日々の勤務時間が短く見えていても、期間全体では超過しているケースもあり得ます。そのため、期間全体で判断する視点を持つ必要があります。

出典:厚生労働省 PDF「フレックスタイム制 のわかりやすい解説 & 導入の手引き」
フレックスタイム制の時間外労働は、清算期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間をカウントします。「清算期間における法定労働時間の総枠」は、1週間あたりの法定労働時間(40時間)を基準に、清算期間の日数に応じて算出されます。
※ 常時10人未満の労働者を使用する特例措置対象事業場(小売・サービス・映画演劇・保健衛生業等)では、週44時間の特例があります。
法定労働時間の総枠
(40時間)
清算期間の暦日数
7日
なお、深夜労働や休日労働については、清算期間とは別に管理する必要があります。これらは発生した時点で割増賃金の対象となるため、日々の勤怠管理の中で確実に把握しておくことが求められます。
また、フレックスタイム制でも、時間外労働を行う場合は、あらかじめ36協定の締結が必要となる点にも注意が必要です。
●就業規則・労使協定を含めた勤怠管理体制を整備する
フレックスタイム制を安定的に運用するためには、それを支える勤怠管理体制の整備も必要です。
例えば、就業規則や労使協定において、清算期間や対象となる労働者の範囲、清算期間における総労働時間など、制度運用に関わる基本事項を明確に定めます。コアタイムやフレキシブルタイムを設定する場合には、時間帯や運用ルールについても整理しておくことで、制度運用の前提が明確になり、現場での混乱や認識のズレを防ぐことにつながります。
また、日々の勤怠管理においては、労働時間を正確に把握できる仕組みを整えることが不可欠です。フレックスタイム制は管理が複雑になるため、手作業での対応には限界があり、担当者の負担やミスのリスクも高まりやすくなります。これらの項目が曖昧なまま運用を開始すると、労働時間の管理や賃金計算に支障が生じる可能性があります。
さらに近年は、長時間労働の防止や法令遵守の観点からも、労働時間の状況を継続的に確認し、必要に応じて是正できる体制を整えておくことが求められます。
こうした体制整備が、フレックスタイム制を適切に運用するための基盤となります。
フレックスタイム制の運用にはクラウド勤怠管理の活用が有効!
ここまで見てきたように、フレックスタイム制では、従来の勤務形態とは異なる視点での勤怠管理が求められます。しかし、こうした管理を手作業で行う場合、担当者の負担が大きくなるだけでなく、集計ミスや確認漏れといったヒューマンエラーのリスクも避けられません。
例えば、清算期間全体での労働時間の把握や、過不足の調整、深夜・休日労働の管理などが重なると、Excelでの対応には限界が生じやすくなります。また、日々変動する労働時間を正確に把握し、法令に沿って適切に処理するためには、リアルタイムでの状況把握や自動的な集計が求められる場面も多くなります。
こうした点を踏まえると、フレックスタイム制を運用するには、勤怠管理の仕組みそのものを見直す必要があるといえるでしょう。
そこで有効な選択肢となるのが、勤怠管理システムの活用です。
フレックスタイム制に対応した勤怠管理システムであれば、清算期間内の労働時間を自動で集計し、総労働時間の進捗を把握することが可能です。時間外労働の判定や深夜・休日労働の管理も自動化されるため、担当者の負担軽減と正確性の向上を同時に実現できます。
特にクラウド勤怠管理システムであれば、場所や時間を問わず勤務状況を確認でき、勤務時間が個々に異なるフレックスタイム制においても、リアルタイムで労働時間の把握が可能となります。
制度変更や法改正への対応についても、自動アップデートにより随時反映されるため、自社での対応負担も軽減できます。
中小企業においては、専門的な知識や対応リソースが限られる中で、こうした仕組みを活用する意義は大きいといえるでしょう。
奉行Edge 勤怠管理クラウドの場合、フレックスタイム制など複雑な労働時間管理にも対応しており、清算期間ごとの労働時間管理や残業時間の自動集計、勤務状況の可視化などを一元的に行うことができます。ナビゲーションに従って、自社の就業規則に沿った勤務体系を設定できるため、設定作業の負担も軽減されます。

また、打刻方法も多様に用意されており、オフィス勤務だけでなく、直行直帰や在宅勤務など、さまざまな働き方に対応可能です。
勤怠集計や検算作業は自動化され、フレックスタイム制でも常に最新の勤務状況を把握できるようになり、集計結果をもとに不足労働時間の確認や、時間外労働の自動判定・清算も行うことができます。

このように、クラウド勤怠管理システムを活用することで、フレックスタイム制における勤怠管理の負担を軽減しながら、法令対応と業務効率化の両立を図ることが可能となります。
おわりに
フレックスタイム制は、従業員の多様な働き方に対応し、生産性向上や人材確保にもつながる有効な制度です。一方で、清算期間を踏まえた労働時間管理や残業時間の把握など、従来とは異なる視点での勤怠管理が求められます。中小企業では、限られた人員の中でこれらに対応する必要があるため、制度の導入にハードルを感じるケースも少なくないでしょう。
しかし、こうした課題は管理の仕組みを適切に整えることで対応できます。奉行Edge 勤怠管理クラウドのようなクラウド勤怠管理システムを活用すれば、フレックスタイム制の複雑な労働時間管理も効率化することができるでしょう。
フレックスタイム制の導入を検討する際には、「どのように管理するか」という視点も含めて、自社に合った運用方法を検討してみてはいかがでしょうか。
よくある質問
- フレックスタイム制とは何?
-
フレックスタイム制とは、一定期間の中で働く時間の合計を決めておき、その範囲内で日々の始業・終業時刻を調整できる制度です。日ごとではなく「清算期間」という単位で労働時間を管理する点が特徴です。自由に見えますが、あくまで総労働時間を満たすことが前提となります。
- フレックスタイム制の残業時間はどのように判断する?
-
残業時間は、日単位ではなく清算期間全体で判断します。期間内の総労働時間が法定労働時間の総枠を超えた分が、時間外労働として扱われます。そのため、一日ごとの勤務時間だけでは判断できない点に注意が必要です。ただし、深夜労働や法定休日労働については、清算期間とは別に、発生した時点で割増賃金の対象となるため、日単位での管理が必要です。
- フレックスタイム制の勤怠管理にはどのような方法が有効?
-
フレックスタイム制では、清算期間単位での労働時間の把握や進捗管理が必要になるため、従来の手作業では対応が難しくなります。リアルタイムでの把握や自動集計ができる勤怠管理システムを活用することで、管理負担とミスを大きく減らすことができます。特にクラウド型であれば、制度変更への対応もしやすくなります。
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