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毎年6月といえば、人事総務担当者は労働保険や社会保険などの年次業務で多忙な時期になります。
労災保険もそのひとつ。業務における事故や疾病といった労働災害は、いつ起きてもおかしくありません。企業として迅速に対応できるよう、しっかりと準備をしておきたいものです。
そこで今回は、人事総務担当者が押さえておきたい、労災保険料の計算方法と注意点について解説します。
目次
労災保険料は誰が負担するのか?
「労災保険」は、労働者災害補償保険法に基づく制度です。正式には「労働者災害補償保険」といいますが、 “雇用保険”と合わせて「労働保険」とも呼ばれており、官公署や国の直営事業所、船舶保険被保険者などの例外を除き、従業員を一人でも雇えば労働保険に加入する必要があります。
労災保険に加入すると、就業中や通勤途中などで仕事を原因とする事故や災害、病気や障害、死亡などの労働災害が発生した場合、本人もしくは遺族に保険金が給付されます。
労災保険は「仕事が原因」の場合に給付されるため、保険料は企業が全額負担することが決められています。(従業員は医療費も負担することはありません)
もし企業が労災保険の加入手続きを怠っていると、政府が成立手続きを行い保険料額が決定し、遡って保険料を徴収するほか追徴金も徴収されます。また、未手続き期間中に労働災害が発生した場合は、労災保険給付額の全額もしくは一部を企業が負担することになります。
労災保険の加入対象者は、正社員・パート・アルバイト・派遣労働者、日雇いなど労働や雇用形態に関係なく、すべての労働者が対象となります。加入手続きは、管轄の労働基準監督署に雇用契約成立後10日以内に必要書類を提出することが義務づけられていますので、忘れないように注意しましょう。
※ただし、法人役員は労災保険の対象外となります。(一定の条件を満たした場合は、労災保険の特別加入制度を利用することができます)
労災保険料の計算方法
労災保険料は、4月1日から3月31日までの1年間分で保険料を算出し、申告と納付をします。申告・納付については、雇用保険料と合わせて行うことになっています。(金額によっては年1回もしくは年3回の支払いとなります)この手続きを労働保険の「年度更新」と言い、企業単位ではなく事業所単位で行います。
■ 労災保険料の計算式
労災保険料は、全従業員の前年度1年間の賃金総額に、事業ごとに定められた保険率を掛けて算出します。
「賃金総額」とは、事業主や法人役員など労災保険に加入できない人の分の賃金を除く、全ての従業員に支払った賃金の総額のことを指します。
ただし、従業員に支払った額のうち、退職金や見舞金と行った一時金は賃金総額に含まれません。その他にも、賃金総額に含まれるもの、含まれないものがありますので注意が必要です。
● 賃金総額に含まれるもの
- 基本給
- 賞与
- 通勤手当(非課税分を含む)
- 定期券や回数券等
- 残業手当、休日手当、扶養手当、家族手当、子ども手当、住宅手当、奨励手当、休業手当、単身手当、物価手当、調整手当、特殊作業手当、技能手当、単身赴任手当、教育手当、地域手当、深夜手当など
- 労働者の負担分を事業者が負担する場合の雇用保険料、その他社会保険料
- 前払い退職金(労働者が在職中に退職金相当額の全部や一部を給与や賞与に上乗せして支払われるもの)
など
● 賃金総額に含まれないもの
- 役員報酬
- 結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金、私傷病見舞金、退職金(退職時に支払われるものや、事業主の都合などによって退職前に一時金として支払われるもの)
- 出張・宿泊費
- 休業補償費、傷病手当金
- 会社側が全額負担する生命保険の掛金
など
また、「労災保険率」は事業種別ごとに決まっています。事業内容によって労災の危険性が異なるため、事業種によって保険率は異なり、危険度に応じて2.5/1000〜88/1000まで細分化されています。
■ 保険料の計算例
では実際に、どのように保険料を計算するかみてみましょう。
事例 1
従業員数20人、平均年収445万円(退職金や一時金を除く)の卸売業の場合
労災保険率(保険率表98が該当)= 3/1000
賃金総額 445万円 × 20人 = 8,900万円
したがって、労災保険料は 8,900万円 × 3/1000 = 267,000円 となります。
事例 2
従業員数30人、平均年収532万円(退職金や一時金を除く)の建築業の場合
労災保険率(保険率表35が該当)= 9.5/1000
賃金総額 532万円 × 30人 = 15,960万円
したがって、労災保険料は 15,960万円 × 9.5/1000 = 1,516,200円 となります。
計算の際、小数点以下が発生した場合は、1円未満は切り捨てになります。ただし、労災保険料は雇用保険料と合わせて年度更新を行うため、別々に計算して切り捨てるのではなく、労災保険料と雇用保険料の合計率を賃金総額にかけて出た答えに小数点が生じた際に切り捨てます。
労災保険料の計算で注意しておきたいポイント
実務上の労災保険料の計算には、いくつか注意しておきたいポイントがあります。
● 保険料は3年に1度は改定されます
労災保険率は、業種全体としての労働災害発生状況やその重篤度によって定められ、3年ごとに見直しがなされます。また、保険率の改定とともに一部の事業の種類にかかる労務費率がついても改正されることがあります。
直近では2018年4月1日に改定されており、次回は2021年に改定される予想です。したがって、2021年の申告においては計算時に注意が必要になります。
● 複数事業を展開している場合は、事業ごとの保険率で計算します
労災保険率は、原則として1つの事業に対し1つの労災保険率が適用されます。複数の事業を展開している場合であっても、その事業所の主たる業態を判断することで労災保険上の「事業の種類」が決定します。ただし、労災保険法では、労働基準法や労働安全衛生法と業種のとらえ方が違うため、業種区分と混在しないように注意しましょう。
また、すでに複数の労災保険番号を持つ場合は、それぞれの業種ごとに事業の種類を確認し、該当する労災保険率で計算することになります。
● 賃金総額を適正に集計できているか確認しましょう
労災保険料の算出には、給与項目を正しく把握して賃金総額を出すことが大切です。基本給・賞与・各種手当など一般的な給与項目であっても、労災保険料で示す賃金総額に該当しないものもあるので、「労災保険料を算出するための賃金」に該当する項目で正しく集計できているか確認し、従業員の賃金総額を算出する必要があります。
また、労災保険はアルバイトやパートも対象となるため、賃金総額に彼らの給与が漏れるケースもあります。賃金総額を算出する際には、労災保険対象者の洗い出しにも注意しましょう。
● 出向社員、派遣社員の取り扱いに注意しましょう
子会社など他社に出向している従業員の労災保険は、出向先で加入することになるため、保険料は出向先の企業が担保しないといけません。出向者となる従業員の給与を出向元が支払い、出向元には「出向料」を支払っている場合、出向料には賃金以外に諸経費が含まれているため、実際の賃金よりも高くなっていることがあります。したがって、出向先の企業は正確な賃金額を出向元に伝えてもらう必要がありますので、忘れずに確認しておきましょう。
また、派遣社員については派遣元となる企業が労災保険に加入するため、保険料の納付は派遣元企業が行うことになります。ただし、保険率については、派遣先における「主たる作業の態様、種類、内容等に基づき」事業の種類が決定されます。また、派遣社員が複数の派遣先や事業に携わる場合は、主たる作業実態に基づいて事業の種類を決定しますので、適用する保険率に注意しましょう。
● 保険料は、前年度の概算保険料と確定保険料の差額を精算して納付します
保険料の納付は、前年度の確定保険料と当年度の概算保険料を併せて行います。まだ当年度の賃金が確定していない場合は、見込で賃金総額を算出します。前年度に前もって納付した概算保険料と確定保険料には、少なからず差額が生じるので、その精算を行った上で当年度の概算保険料を納付することになります。
例えば、前年度の概算保険料が確定保険料よりも多かった場合、当年度の概算保険料から差額分を差し引いた額で納付します。前年度の概算保険料が確定保険料よりも少ない場合は、不足分を当年度の概算保険料に加算して納付します。
ただし、納付する保険料は、雇用保険料と足した額になるので注意しましょう。
おわりに
最近では、労災保険を含む労働保険の年度更新申告も、電子申請ができるようになっています。電子申請を利用すれば、記入漏れやミスもなくなり、窓口提出にかかる人件コストも抑えられます。また、納付方法も口座振替納付にすれば手間もかからず便利です。
※詳しくは都道府県労働局「電子申請を利用した年度更新手続について」を参照ください。
労災保険は、従業員の健康や生活を守るためにあります。労災は起こらないことに越したことはありませんが、企業は万が一起こってしまった場合に備えなければなりません。そのためにも、正しく労災保険料を納付できるよう、年度更新の際にはしっかり確認しておきましょう。
労災保険料に関するよくあるご質問
- 労災保険料は誰が負担するのか?
- 労災保険は「仕事が原因」の場合に給付されるため、保険料は企業が全額負担することが決められています。(従業員は医療費も負担することはありません)
もし企業が労災保険の加入手続きを怠っていると、政府が成立手続きを行い保険料額が決定し、遡って保険料を徴収するほか追徴金も徴収されます。また、未手続き期間中に労働災害が発生した場合は、労災保険給付額の全額もしくは一部を企業が負担することになります。
- 労災保険料の計算方法は?
- 労災保険料は、4月1日から3月31日までの1年間分で保険料を算出し、申告と納付をします。申告・納付については、雇用保険料と合わせて行うことになっています。(金額によっては年1回もしくは年3回の支払いとなります)この手続きを労働保険の「年度更新」と言い、企業単位ではなく事業所単位で行います。
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