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「働き方改革」が進む中、業務効率化の有効な手段として、手作業からソフトウェアの活用へ切り替える企業が増えています。市場には、インストールして使用するパッケージ型からインターネットを活用するクラウド型まで、様々な業務に適したソフトウェアが出回わるようになりました。
しかし、その使い道や入手方法によって会計処理の仕方が変わるため、会計時に悩んだ経験をお持ちの担当者も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、自社利用のソフトウェアを導入した際に、どのように会計処理を行うかについて整理してみましょう。
目次
ソフトウェアの購入費は、減価償却できる
企業が事業活動を行うにあたり、一定額以上で1年以上継続して使用するものは「固定資産」として計上することとなっています。そのため、10万円以上するパソコンやサーバ、デスクといった事務機器・什器などは「固定資産」に当たり、会計上では償却資産として減価償却します。
しかし、ソフトウェアは具体的な形がありません。法律でも明確に定義されているわけでなく、企業会計審議会が公表している「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」に記載されているソフトウェアの定義、つまり「コンピューターに一定の仕事を行わせるためのプログラム」かつ「システム仕様書、フローチャート等の関連文書」が一般的に使用されているに留まっています。
そのため、ソフトウェアにかかる費用をどのように会計処理するべきか、戸惑う声が多く聞かれるのです。
業務の効率化を図る目的のソフトウェアは、導入効果が一定期間以上現れることが期待できるので、「無形固定資産」として計上できます。
「収益を獲得するために長期間にわたって使用される資産」であれば、減価償却を適用することができます。つまり、ソフトウェアも、サーバやデスクのように減価償却することが可能なのです。
減価償却費の計算方法には、経年とともに償却費が減少していく「定率法」と、毎年同額の償却費を計上する「定額法」の2つの方法があります。
ソフトウェアの減価償却費の計算について、「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」では、「その利用実態に応じてもっとも合理的と考えられる方法を採用すべき」とされていますが、一般的には「定額法」がもっとも合理的とされています。
<定額法の計算式>
1年分の減価償却費 = 取得価額 × 定額法の償却率(1÷耐用年数)
減価償却費の計算に用いる「取得価額」には、実際に支払ったソフトウェアの購入代価だけでなく、以下のような費用も含まれます。
<取得価額に含まれるもの>
- 購入代価
- 購入に際して必要となった費用
- 事業の用に供するために直接に要した費用
例)ソフトウェア導入に必要な設定作業費、自社の仕様に合わせるために行った付随的な修正作業(カスタマイズ)等の費用など
取得価額に消費税額を含めるかどうかは、企業が採用している経理方式に準じて判断します。税込経理方式を採用している企業であれば消費税を含んだ金額で計算し、税抜経理方式を採用している場合は消費税を含まない金額で計算します。ただし、免税事業者は原則、税込経理方式になりますので注意しましょう。
また「耐用年数」は、その資産を導入後どのくらいの期間使用するかを見積り、算出します。
ソフトウェアの場合、アップデート等によって内容が随時更新されるため、耐用年数を計算することは一般的に難しいとされています。そのため、利用目的と連動して耐用年数が以下のように定められています。
業務改善のための自社利用ソフトウェアは、「③その他」に該当します。
<ソフトウェアの耐用年数>
- ①「複写して販売するための原本」…3年
- ②「研究開発用のもの」…3年
- ③「その他のもの」…5年
定額法での償却率は「1÷耐用年数」で算出されますので、①および②の償却率は0.33、③の償却率は0.20となります。仮に、取得価額100万円のソフトウェアを自社利用目的で購入した場合、定額法の計算式に当てはめると以下のようになります。
1年分の減価償却費 = 1,000,000円 × 0.20 = 200,000円
つまりこの場合、年間20万円の減価償却費を5年で計上し続けることになります。
取得価額が少額で済む場合のソフトウェアは、以下のように会計処理をします。
<取得価額が少額の場合の会計処理>
-
① 取得価額が10万円未満のソフトウェア
「少額減価償却資産」として扱われます。そのため、経理上は「消耗品費」の勘定科目を用い、年内に費用として経費計上します。
-
② 取得価額が10万円以上20万円未満のソフトウェア
「一括償却資産」として扱われるため、3年間で計上することが可能です。計算方法は「定額法」を用い、耐用年数を3年で計算します。ただし、償却期間中にソフトウェアを処分しても除却損の計上は認められません。
また、ソフトウェアの減価償却開始日は、基本的にソフトウェアを入手した日付となります。そのため、購入したのが年度の途中の場合、1年目は使用月分のみの処理となり、取得価額100万円のソフトウェアの減価償却は以下のようになります。
<事業年度が1月スタートの企業が7月に購入した場合>
1年目の減価償却費 = 1,000,000円 × 0.20 × 6/12 = 100,000円
2〜5年目の減価償却費 = 1,000,000円 × 0.20 = 200,000円
6年目の減価償却費 = 1,000,000円 – (これまでに処理した合計:900,000円) =100,000円
通常の減価償却では「備忘価額」として1円を残す処理を行いますが、これは有形固定資産に必要とされるもので、無形固定資産であるソフトウェアには備忘価額を残す必要はありません。
<中小企業向け>ソフトウェア購入費に関する税制上の特例
資本金1億円以下、あるいは従業員数1,000人以下の中小企業が、ソフトウェアを購入する際に適用できる税制上の特例が設けられています。
この特例に関しては、頻繁に改正が行われますので国税庁サイトで最新の情報を確認してください。
(1)「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」
取得価額が30万円未満のソフトウェア購入費について、2020年までに購入して利用している場合、一定要件のもと、その全額を経費として計上できます。(ただし、年間合計額300万円までの少額減価償却資産に限ります)
この特例を受けるためには、少額減価償却資産の取得価額を損金として経理処理し、かつ確定申告等で少額減価償却資産の取得価額に関する明細書を添えて申告することが条件となります。
参照:国税庁「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」
(2)「中小企業投資促進税制」
(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)
単体または合計額での取得価額が70万円以上のソフトウェアを購入した際、一定の要件を満たすことで「購入金額の30%を当年度経費として処理」もしくは「年度の法人税額の20%を上限として購入金額の7%を法人税額から控除」のいずれかを選ぶことができます。
(ただし、摘要となる指定事業が定められています)
これは、税制上の優遇措置となりますので、資金繰りを考慮して有効に活用しましょう。ただし、現行の優遇税制は2009年6月1日〜2019年3月31日までに購入したソフトウェアに限られるので、自社の今年度にこの期間が含まれるかどうかチェックしておきましょう。
参照:国税庁「中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」
<4つの入手方法別>ソフトウェアの会計処理のしかた
自社利用を目的としたソフトウェアの入手方法には、大まかに以下のような方法が考あります。
<自社利用ソフトウェアの入手方法>
- ①CD-ROM等を購入してインストール、またはウェブからダウンロード購入する(パッケージ型)
- ②クラウドサービスでソフトウェアを利用する
- ③自社で開発から行い、利用する
- ④スマートフォンなどのアプリを自主開発し、利用する
いずれの場合も、将来の収益獲得あるいはコストの削減が確実視できる場合は「無形固定資産」として扱いますが、一部会計処理上に異なる部分があります。
それぞれのケースにおいて、具体的にどう会計処理方を行うか、確認してみましょう。
①CD-ROM等を購入してインストール、またはウェブからダウンロード購入する(パッケージ型)
ライセンスを購入する形で使用するパッケージ型は、業務改善目的の場合は耐用年数を5年、研究・開発用の場合は耐用年数を3年で、「定額法」による減価償却費の計算を行います。
ただし、取得価額が少額の場合は、「少額減価償却資産」「一括償却資産」として計算します。
パッケージ型の場合、一定期間を過ぎるとアップグレード版などでバージョンアップを求められることがあります。
バージョンアップ用のパッケージ購入費については、単体で機能する場合や新たな機能追加、全体の生産性向上を目的とする場合は、新規購入と同様に「資本的支出」(資産)として計上します。しかし、プログラム上の障害除去など、機能維持に直結するものは、バージョンアップをしてもしなくても使用可能である状態とみなされるため、「修繕費」(経費)として計上します。
ただし、機能自体の追加や向上で使用期間を延長する場合、または資産価値を増やす場合であっても、購入額が20万円以下であれば「修繕費」として計上しても構いません。
②クラウドサービスでソフトウェアを利用する
クラウドサービスについては、2019年現在、明確な基準はまだ確立されていませんが、一般的な会計処理の考え方は 「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」が基準となっています。
自社利用を目的としたクラウドサービスには、以下のようなものがあります。
(A)一般的なASPサービス(SaaS利用)
ベンダーがサーバもアプリケーションも所有しており、利用者がインターネットを通じて使用料や期間に応じてソフトウェアの利用料を支払う形態です。この場合、導入費やカスタマイズ費が発生することはなく、月額で「クラウドソフト使用料」を支払うだけとなるため、全て経費計上されます。
(B)一般的なASPサービスと通常のパッケージ販売の混合型
一般的なASPサービスとライセンスを購入することで、永続的に利用できる形態です。ライセンス購入費やカスタマイズ費などの初期費用が発生するため、初期費用については①のパッケージ型と同様の会計処理で減価償却します。
ただし、クラウドサービスの月額利用料は、経費として計上とします。
(C)社内システムのクラウド化(PaaSまたはIaaS利用)
自社サーバをネット上に持つという形態です。自社利用としてクラウド上に特定のアプリケーションを構築した場合は「無形固定資産」としてみなされ、①のパッケージ型と同様に減価償却します。ただし、クラウド環境の利用料は経費として計上します。
上記(A)〜(C)のいずれの場合でも、クラウドサービス利用料は会計上で経費扱いになります。
ただし、(B)(C)においてクラウドサービスの導入費用が多額になる場合、税務上では「繰延資産」として中長期に渡って損金算入するのが一般的です。そのため、毎年損金を把握し、繰越償却超過額として次期に繰り越すことになります。
③自社で開発から行い、利用する
自社制作のソフトウェアでも、将来の収益獲得あるいはコストの削減が確実視できる場合は「無形固定資産」として資産計上できます。しかし、将来の収益を見込めない、費用を削減できない、または見通しが不明な場合は資産として扱えないため、経費として計上します。
「無形固定資産」として資産計上できる場合、原材料費、人件費、運用開始までにかかる設置費などの費用の合計額を「取得価額」とし、見込まれる利用期間を耐用年数として、定額法を用いて減価償却費を計算します。
見込まれる利用期間の設定は、業務改善用の場合5年が一般的ですが毎年見直しが必要となります。研究・開発用に使用する場合は3年で計算します。
また、資産計上の開始時点は、「無形固定資産」と認められる状態になった時点とし、そのことを実証できる証憑(制作原価管理台帳や制作予算が承認された社内稟議書、作業完了報告書や最終テスト報告書など)が必要になります。
④スマートフォンなどのアプリを自主開発し、利用する
自社開発のソフトウェアといっても、使い方によってはアプリのほうがよいケースもあるでしょう。アプリを自社で開発する場合も、自社制作ソフトウェアと同じ会計処理を行います。
column
こんなものも「自社利用ソフトウェア」として減価償却できます!
「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」によると、自社利用のソフトウェアには、自社の管理業務等の内部業務に使用されるものだけでなく、得意先等の外部にサービスを提供するために利用するソフトウェアも含まれます。
そのため、ソーシャルアプリを開発し無料提供しているケースなども、「販売による利益を得ていない」のであれば自社利用のソフトウェアと見なされ、減価償却が可能となります。この場合、減価償却の見込み期間は5年となります。
また、最近は、消費者とのコミュニケーションツールとして、プログラムを組み込むなど力の入ったホームページを制作する企業も増えています。この「ホームページに組み込むプログラム」もまた、これ自体を販売しない限りは「自社利用のソフトウェア」として資産計上が可能になります。
ただし、「ソフトウェア」として資産計上できるのは、ホームページ制作費のうちプログラム作成にかかる費用のみですので、その他の制作費は「広告宣伝費」として分けて計上する必要があります。
おわりに
働き方改革が施行され、業務効率化への取り組みは重要かつ緊急のものとなりました。「生産性向上」という目的のもと、新たにソフトウェアを購入したり、使用中のソフトウェアをアップデートしたりする機会は、これからますます増えていくことでしょう。
ソフトウェアにおける会計処理の基礎を把握しておけば、購入の都度、会計処理で迷うことはなくなります。
この記事を参考に、日々の会計処理の業務効率向上に役立てていただければと思います。
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