

法人税とは、「法人が得た所得に対してかかる国に納める税金」・・・簡単にいえば、個人が支払っている所得税の法人版になります。他にも、法人が所得から納めるべき税金には「法人住民税」と「法人事業税」があり、これら3つの税金を合わせて「法人税等」と表現されます。
今回は、この「複雑で分かりにくい」と言われがちな法人税について、税率や計算方法といった基礎知識を分かりやすく解説します。
目次
法人税を納める「法人」と法人税の種類
法人税を納める「法人」について、国税庁は、「法人格を有するものを法人としつつ、法人格を有しないものであっても、営利事業を行う事業体については、これを法人とみなす」と定義しています。
つまり、納税義務があるかどうかは、基本的に「利益」の有無で判断され、「普通法人や協同組合などに法人税の納付義務があり、公共法人や収益事業を行わず人格のない社団等には納付義務がない」ということになります。ただし、公益法人や人格のない社団等であっても、収益事業で得た所得には課税されます。
法人税は、一事業年度において法人が得た所得に対して課税されます。(各事業年度の所得に対する法人税)他にも、以下のような所得も課税対象になります。
各連結事業年度の連結所得
企業グループの場合、企業グループを1つの納税単位として「連結納税制度」を用いて所得を計算します。このときの各事業年度の所得に対しても、法人税が課されます。適用するかどうかは各法人の判断に任されていますが、適用する場合は全ての子会社が対象になるため注意が必要です。
適用する場合、親会社は申告と納税を行い、子会社は連結所得の個別帰属額等を記した書類を提出します。
特定信託の各計算期間の所得
特定信託には、受益権(投資信託により発生する運用収益等の利益を受け取る権利)の証券化が認められた信託や法人が委託者となる信託のことで、以下のようなものが該当します。
- 事業の重要部分の信託で委託者の株主等を受益者とするもの
- 委託者である法人又はその特殊関係者が受託者である信託(自己信託等)で存続期間が20年を超えるもの
- 自己信託等で収益の分配割合が変更可能であるもの
ただし、法人が委託者となる信託であっても、信託財産に属する資産のみを信託するものは除かれます。
退職年金等積立金
退職年金業務等を実施する信託会社や生命保険会社にだけ課税されるものです。退職年金として法人が支払った掛金は払込みされた年度に計上されますが、実際の課税は従業員が退職し、年金を受け取った時点となります。この、払込みから支払いまでの期間のズレに対して課税されます。
ただし、2020年3月31日までの間に開始される事業年度については、時効措置として課税が停止されています。
法人の要件と納税義務についてまとめると、以下のようになります。
各事業年度の所得に対する法人税 | 各連結事業年度の連結所得 | 特定信託の各計算期間の所得 | 退職年金等積立金 | ||
---|---|---|---|---|---|
普通法人 | 株式会社 合名会社 合資会社 合同会社 医療法人 など |
納税義務あり | 納税義務あり | 特定の信託を運用している場合は、納税義務あり | 退職年金業務等を行う法人(信託会社や生命保険会社など)は、納税義務あり |
協同組合等 組合員の相互扶助を目的とする法人 |
農業協同組合 漁業協同組合 消費生活協同組合 信用金庫 など |
納税義務あり | 納税義務あり | ||
公共法人 公共の性格をもつ法人 |
地方公共団体 株式会社日本制作君有効子 日本放送協会 など |
納税義務なし | |||
公益法人等 公益を目的とする法人 |
宗教法人 学校法人 社会福祉法人 公益社団法人 公益財団法人 など |
収益事業で得た所得には納税義務あり(それ以外は納税義務なし) | ー | ー | 退職年金業務等を行う法人(信託会社や生命保険会社など)は、納税義務あり |
人格のない社団等 法人でない社団または財団で、代表者または管理人の定めがあるもの |
PTA 同窓会 同業者団体 など |
法人税の税率と計算の方法
法人税の計算には、以下の計算式を使用します。
法人税 = 所得金額(課税標準) × 法人税率
ここでは、計算に用いられる「所得金額」と「法人税率」について解説します。
■ 所得金額
企業会計では通常、収益から費用を引いた額を「利益」としますが、法人税における課税は「所得金額」を対象とします。
所得金額は、企業会計上の売上高や販売高等の収益の額に相当する「益金」から、売上原価、販売費、一般管理費等の費用及び損失の額に相当する「損金」を差し引いた額になります。
益金に算入すべき金額は、法人税法やその他の法令で「益金の額に算入」するかどうかが細かく定められていますが、代表的なものとして以下のような収益が含まれます。
- 商品、製品等の資産の販売による収益の額
- 固定資産、有価証券等の資産の譲渡による収益の額
- 請負等の役務の提供による収益の額
- 無償による資産の譲渡や役務の提供による収益の額
- 無償による資産の譲受けによる収益の額
- その他取引による収益の額
また、損金に算入すべき金額には、次の原価、期間費用および損失の3種類に区分して規定されています。
- 収益に対応する売上原価、完成工事原価等の原価の額
- 販売費、一般管理費等の費用(償却費を含む)の額
- 災害等による損失の額(資本等取引を除く)

「益金」は、収益と基本的に同じものと考えて構いませんが、「損金」には費用のほかに損失額が含まれることに留意しておきましょう。
また、企業会計上の「利益」と税法上の「所得金額」は、金額に差異があります。税法上は、課税の公平を図る目的や租税政策、産業政策上の目的で、適正な税負担のための調整を行うことになっています。これが、法人税法において「別段の定め」として規定されている「益金の算入・不算入」「損金の算入・不算入」になります。
■ 法人税率
法人税が個人の所得税と大きく異なる点は、計算に用いる税率です。法人税の場合、比例税率(固定税率)を適用し、個人では累進課税制度を使用します。
法人税率は、資本金規模やその所得総額によって変わります。
資本金規模1億円超の企業に対しては、2015年度までは25.5%と先進諸国に比べ高い数値が設定されていたため、海外に拠点を移す企業も少なくありませんでした。そこで、日本企業の流出を防ぐため法人税率を段階的に引き下げ、2018年度以降23.2%になっています。その他の法人税率は以下の通りです。
対象 | 所得金額 | 法人税率 |
---|---|---|
資本金規模1億円超の普通法人 | ー | 23.2% |
資本金規模1億円以下もしくは 出資金等のない中小法人 |
年800万円超 | 23.2% |
年800万円以下 | 19%(15%) | |
協同組合等、特定の医療法人 | 年800万円超 | 19% *20% |
年800万円以下 | 19%(15%) *20%(16%) |
( )内は、優遇措置として2019年3月31日までの間に開始する事業年度に適用
企業グループの親法人に当たる協同組合等や特定の医療法人は、上記表中の*の税率が適用されます。
また、所得金額が年800万円以下の場合、2021年3月31日までに開始する事業年度までは15%(企業グループの親法人となる協同組合等・特定の医療法人は16%)の優遇措置が適用されることになります。
本来納税義務のない公益法人等で課税対象となる所得が発生した場合は、所得金額に関わらず19%(800万円以下の場合は15%の優遇措置適用)になります。人格のない社団等で課税所得が発生した場合は、中小法人の税率に準じます。
地方法人税とは?税率と計算方法について
法人税には、地方法人税もあります。「地方」という名称ですが、実は国税の一種です。国が各地方自治体に交付する地方交付税の財源になるもので、2014年の税制改正以降、加えられることとなりました。
納税事業者となる法人には、地方法人税の納付義務も発生します。法人税の申告と同時に行いますが、現在は法人税の申告書と様式が一体化していますので、同時に確定申告を行うようになります。
地方法人税の税率は、2019年9月30日までは4.4%ですが、2019年10月1日以後の開始事業年度からは2倍以上となる10.3%に引き上げられます。
なお、地方法人税の計算には、以下の計算式を使用します。
地方法人税 = 課税標準法人税額 × 地方法人税率4.4%または10.3%
申告・納税の方法は?
法人税および地方法人税は、原則として確定申告時に所轄の税務署長宛に申告します。
事業年度が終了した後、決算に基づいて法人税の申告書を作成して提出しますが、前事業年度の納税額が20万円を超えている場合は、これに先駆けて中間申告を行う必要があります。中間申告については、前期の法人税額の1/2で予定申告をする方法と、半年分を仮決算する方法とを選ぶことができます。
申告書類
法人税の申告書は、「別表一」から「別表十八」まで17パターン用意されています。
そのうち、別表一「各事業年度の所得にかかる申告書」が、法人税と地方法人税を合わせた事実上の確定申告書になります。

「別表四」~「別表十八」は、損金や減価償却などの計算で必要となる内容の明細書です。
例えば、グループ企業の場合、同族会社と特定同族会社どちらに属するかの判定に「別表二」を、後者の特定同族会社に該当する場合で「特定同族会社の特別税率」を適用するときは「別表三(一)(二)」を提出する必要があります。
それぞれの申告書・明細書についての詳細、記入方法に関しては、国税庁ホームページで パンフレット「法人税申告書・地方法人税申告書の記載の手引き」が紹介されていますので参考にしてください。
納付期限・納付方法
法人税の納付期限は、「課税事業年度終了の日の翌日から2カ月以内(申告期限・納付期限が土・日・祝日の場合はその翌日)」と明確に定められており、その納付方法には3つの選択肢があります。
①現金納付
現金での納付には、「税務署窓口で直接納付」、「金融機関の口座から振替納付」そして「コンビニから納付」の3つの方法があります。コンビニでの納付は「税額30万円以下」という条件があるので注意しましょう。
②クレジットカードで納付
インターネット上で専用のweb画面を開き、そこでクレジットカード決済を行います。決済には手数料がかかりますが、納税額の一部をポイント化できるというメリットがあります。
③e-Taxによる電子納付
e-Tax(国税電子申告・納税システム)では、全ての税目をダイレクト納付、もしくはインターネットバンキングから納付できます。金融機関まで出向く必要も、受付時間といった時間の制約も受けることなく納付できるので便利です。ただし、e-Taxを利用するにあたっては開始届出書の提出など事前手続きを行わなければなりません。
おわりに
国は、その時代の財政事情や経済状況に応じて国庫の安定を確保するため、国税に対して年度ごとに税率の見直しを図っています。直近では2019年度の税制改正大綱で「中小企業への租税特別措置の2年延長」が示されたように、法人税・地方法人税も例外ではありません。改正が行われるたびに詳細を確認・理解しなければならない点も、法人税に係る業務の複雑さを助長していると言えるでしょう。
昨今では、このような担当者の負担を軽減できるクラウドサービスも登場しています。例えば、今秋リリースされる「申告奉行クラウド[法人税・地方税編]」であれば、税理士とクラウド上でデータを共有し、一緒に申告業務を行うことができるので、ちょっとした疑問もすぐに解決します。また、会計システムと連携することで転記作業を極力省くことができ、別表もミスなくスピーディーに作成できます。電子申告や電子納税もシステムから行えるので、一連の申告業務の生産性を大幅に向上できます。
こうしたシステムをうまく活用しながら、業務効率の向上を図ってはいかがでしょうか。
法人税に関するよくあるご質問
- 法人税を納める必要がある「法人」とは?
- 法人税を納める「法人」について、国税庁は、「法人格を有するものを法人としつつ、法人格を有しないものであっても、営利事業を行う事業体については、これを法人とみなす」と定義しています。
つまり、納税義務があるかどうかは、基本的に「利益」の有無で判断され、「普通法人や協同組合などに法人税の納付義務があり、公共法人や収益事業を行わず人格のない社団等には納付義務がない」ということになります。ただし、公益法人や人格のない社団等であっても、収益事業で得た所得には課税されます。
- 法人税の税率と計算の方法とは?
- 法人税の計算には、以下の計算式を使用します。
法人税 = 所得金額(課税標準) × 法人税率
- 地方法人税とは?
- 法人税には、地方法人税もあります。「地方」という名称ですが、実は国税の一種です。国が各地方自治体に交付する地方交付税の財源になるもので、2014年の税制改正以降、加えられることとなりました。
納税事業者となる法人には、地方法人税の納付義務も発生します。法人税の申告と同時に行いますが、現在は法人税の申告書と様式が一体化していますので、同時に確定申告を行うようになります。
- 申告・納税の方法は?
- 法人税および地方法人税は、原則として確定申告時に所轄の税務署長宛に申告します。
事業年度が終了した後、決算に基づいて法人税の申告書を作成して提出しますが、前事業年度の納税額が20万円を超えている場合は、これに先駆けて中間申告を行う必要があります。中間申告については、前期の法人税額の1/2で予定申告をする方法と、半年分を仮決算する方法とを選ぶことができます。