株式上場のメリットとデメリット

株式上場とは何か?上場する市場にはどのような種類があるのか?これから上場を検討する企業が知っておきたいメリット・デメリットと昨今のトレンドを解説します。
2019年6月17日
更新:2022年5月31日

1.はじめに

上場することにより、企業成長を加速させるなどの多くのメリットを享受することができます。一方で、上場会社となることによる責任や負荷などのデメリットもあります。
上場を目指すかどうかを検討する際には、上場が経営者の夢や目標、ビジョンを実現させるための重要な経営戦略であることを踏まえたうえで、メリットとデメリットを正しく理解し、検討することが大切です。

2.株式上場(新規株式公開・IPO)とは何か?

株式上場、つまり新規株式公開(IPO:Initial Public Offering)とは、株主が同族あるいは特定の少数者のみに限られている状態から、株式を証券市場に流通させることによって、広く一般の投資家に資本参加を求めることをいいます(所有と経営の分離の明確化)。上場により会社の株式は多数の投資家に保有・取引され、また金融商品取引法の規制のもとに、株式の投資判断のための情報開示が行われることとなります。

3.上場する市場の種類は?

上場市場は、東京・名古屋・福岡・札幌の全国4か所にあります。各証券取引所には、それぞれに会社の規模やステージに応じた市場区分があります。
東京証券取引所には、日本の上場企業(3,861社、東京プロマーケット含まず、2022年3月時点)のうち約98%が上場しています。次に規模の大きい名古屋証券取引所には約7%(他市場との重複上場含む)が上場しています。2つの取引所にある各市場を確認しましょう。
(1)

東京証券取引所

東証には、本則(一部、二部)、マザーズ、JASDAQ(スタンダード、グロース)と、いくつかの市場が存在していましたが、2022年4月から新しい市場区分になりました。新市場区分には、それぞれのコンセプトに応じ、時価総額(流動性)やコーポレートガバナンスなどに係る定量的・定性的な基準が設けられています。
市場区分 コンセプト
プライム市場 多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備える企業向けの市場
スタンダード市場 公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備える企業向けの市場
グロース市場 高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる企業向けの市場
東証の市場とは(東京証券取引所ホームページ)

グロース市場に上場できるほど「高い」成長性は説明できず、一方でスタンダード市場に上場できるほどの企業規模がない場合は、これら東証の一般市場ではなく、名証、福証、札証への上場を目指すか、もしくはプロ投資家向け市場(TOKYO PRO Market)を検討することになります。

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)
より自由度の高い上場基準・開示制度で上場を実現できるプロ投資家向け市場です。2022年5月時点での上場企業数は55社で、ここ数年の間に上場社数を伸ばしています。一般の投資家が売買できないため、資金調達よりも知名度や信用力の向上を目的とした上場がほとんどです。

(2)

名古屋証券取引所

市場第一部・市場第二部(本則市場)とセントレックス(新興市場) がありましたが、2022年4月より新市場区分に変更されました。本社所在地は名古屋ですが、東海地方以外の企業も数多く上場しています。
市場区分 コンセプト
プレミア市場 優れた収益基盤・財務状態に基づく高い市場評価を有し、個人投資家をはじめとする多くの投資家の継続的な保有対象となりうる企業向けの市場
メイン市場 安定した経営基盤が確立され、一定の事業業績に基づく市場評価を有し、個人投資家をはじめとする多くの投資家の継続的な保有対象となりうる企業向けの市場
ネクスト市場 将来のステップアップを見据えた事業計画及び進捗の適時・適切な開示が行われ、一定の市場評価を得ながら成長を目指す企業向けの市場
上場制度(名古屋証券取引所ホームページ)

その他、福岡証券取引所には「本則市場」と「Q-Board」(新興市場)が、札幌証券取引所には「本則市場」と「アンビシャス」(新興市場)があります。

4.上場のメリット

上場のメリットを会社と株主の観点で確認しましょう。
◇ 会社にとってのメリット
(1)

資金調達方法の多様化と資金調達力の向上

証券市場から様々な形での資金調達(時価発行増資・新株予約権付社債の発行等)が可能となり、直接金融の恩恵を受けることができます。その結果、自己資本が充実し財務体質の強化が図られ、成長を加速させるためのベースとなります。
(2)

知名度・信用力の向上

実質的に約380万社と言われている日本企業の中の上場企業約3,800社の1社に選ばれることで会社の知名度は高まります。金融機関の信頼性も向上し、資金調達と同等の潜在的なメリットも享受できます。
(3)

人材確保の優位性、従業員の士気向上

知名度の向上は営業上のメリットや優秀な人材の確保、従業員の士気向上などにもつながり、企業成長を大きく加速させます。
(4)

ガバナンスや管理体制の強化・充実

上場準備の過程では、上場会社としてふさわしい内部管理体制を構築することが求められます。その結果、組織が属人的経営から組織的運営に転換され、企業規模拡大にも耐えうる組織基盤が構築されます。

◇ 株主(創業者)にとってのメリット
(5)

創業者利潤の実現

経営者は、上場時の株式の売り出しによって投下資本の一部を回収し、創業者利潤を実現することができます。
また、株式が証券市場で流通し、公正な株価が形成されることによって、株式の換金性が増大し、株主の財産形成が図られます。

5.上場のデメリット

(1)

会社情報の開示義務とその体制の確立

有価証券報告書や四半期報告書の発行義務を負うとともに、決算短信を発表するなど、投資家に対して情報を適時かつ適切に公表する、いわゆる適時開示が必要となります。また、適時開示を行うためには、その体制を確立する必要があります。
(2)

敵対的買収等、株式買占めへの対応

株式市場では、市場で不特定多数の株主が自由に売買できることから、常に買収のリスクにさらされます。経営のっとりを目的とした敵対的買収への対策をどのようにしていくか、という点に関しても、上場準備の段階から念頭に入れておく必要があります。
(3)

株主対策(コミュニケーション)

上場することによって、不特定多数の株主が存在するようになります。一般株主の多くが興味を持っている配当、株式売却などの経済的利益をどのように維持していくか、必ずしも友好的な株主ばかりとは限らない中で、円滑な株主総会運営などの対策が必要となります。昨今ではアクティビスト(もの言う株主)により、コーポレートガバナンスへの対応が厳しく追及されるケースも増えています。取締役会の機能発揮、ダイバーシティの確保、サステナビリティへの対応等、数年前より格段に検討事項が増えています。
(4)

上場維持コストの発生

取引所に支払う年間上場料、監査法人への監査報酬、株主名簿管理人である信託銀行への株式事務代行手数料等、上場後も継続して払う必要があります。また、適時開示体制を確立するためのコストや株主総会運営やIRに関するコストなどもあります。

6.変わる、上場のメリット・デメリット

一般的な上場のメリット・デメリットを見てきましたが、昨今ではその定説が変わりつつあります。
(1)

“資金調達”手段は上場だけではない、VC・CVCによる投資やM&Aの時代に

上場のメリットとして必ず挙げられる“資金調達”ですが、近年では、VCやCVC(大手企業がオープンイノベーションを見据えて成長性の高いベンチャー企業等へ資金提供するコーポレートベンチャーキャピタル)によるスタートアップ企業への投資が加速しています。2021年の投資額は世界全体で件数・金額ともに過去最高を記録しました。また、将来的な上場を目指して上場前に投資ファンドに買収(M&A)される企業も増えています。創業者のファーストイグジットを実現するとともに、経営管理面のサポートなどを得て、上場に向けて成長を加速させる目的です。

2022年に入ってからはウクライナ侵攻や世界的インフレ、米国利上げ懸念などによる先行き不透明感から投資額は昨年より減少し投資先の選別も厳しくなっています。しかし、コロナ禍でいっそう未公開市場のグローバル化が進み、日本のスタートアップ企業が世界の投資家の目に留まる機会も増えています。

資金調達手段が多様化する中、上場だけが選択肢ではありません。自社の技術やサービスを必要としている大手企業との協業や世界の投資家を視野に入れることで新しい可能性が生まれるかもしれません。
(2)

事業会社による事業戦略に基づく“敵対的買収”増加

数年前までは日本における“敵対的買収”は、1~2件/年と数が少なく、また規模も大きくなかったため、目立った例はありませんでした。

しかし、2021年は事業会社による敵対的買収が世間を騒がせました。

・オーケーによる関西スーパーマーケットへの敵対的買収
  • オーケーではなくエイチ・ツー・オーリテイリング傘下に入ることが株主総会決議で決定。しかしオーケーによる買収を期待した投資家も多く、オーケーの買収断念により関西スーパーマーケットの株価は大幅下落。(関西スーパーマーケットは2022年2月1日に関西フードマーケットに社名変更)

・SBIホールディングスによる新生銀行への敵対的買収
  • 新生銀行が特定標的型の買収防衛策の導入を検討するも、大株主の反対が予想され自ら取り下げ。一転してSBIホールディングス傘下に。

上場により常に買収の危機にさらされることなりますが、買収防衛策の導入は株主価値の観点から認められないこともあります。最も効果的な対策としては、平時から経営陣が企業価値向上施策を実施することや、IRで自社の強み・将来性を市場にPRしていくことで、適正な企業価値を株価に反映させることです。その結果、不適正な価格で敵対的買収をされるという不測の事態は免れると考えられます。
(3)

求められる投資家コミュニケーション

新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ2020年・2021年からの業績回復により、2022年は手元資金を自社株買いや配当などの株主還元に回す企業が増えています。従来の株主還元では、急速な成長が見込めない成熟企業の株価の下支えになることや、自社の株価が割安な状態であることのアピールにつながり株価が上昇するなど、株価を調整する効果が見込めました。
しかし昨今では、効果が継続しないなど、思うような結果が得られないケースもあります。
企業そのものの成長性・将来的が見込めないと歓迎されない風潮が出てきていると言えます。

またSDGs銘柄と認定された企業の株価が急騰するといったように、社会的課題への取り組みが評価されることも増えています。従来通りの財務情報の開示だけでなく、IRの重要性を再認識し、ニューノーマルな投資家コミュニケーションを実践することが求められています。
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執筆
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