IPOを基礎から学ぼう!上場のメリットとデメリット

上場には資金調達力・知名度・信用力の向上、人材確保の優位性、管理体制の強化・充実などにより企業成長を加速させることが、最大のメリットと言われますが、一方で責任や負荷などの
2019年6月17日
更新:2021年6月2日

1.はじめに

上場することにより、企業成長を加速させるなどの多くのメリットを享受することができます。その一方で、上場会社となることによる責任や負荷などのデメリットもあります。 そのため、上場を目指すかどうかを検討する際には、上場が経営者の夢や目標、ビジョンを実現させるための重要な経営戦略であることを踏まえたうえで、そのメリットとデメリットを正しく理解し、検討することが大切です。

2.上場(新規株式公開・IPO)とは何か?

はじめに上場とは何か、を確認します。
上場、つまり新規株式公開(IPO:Initial Public Offering)とは、株主が同族あるいは特定の少数者のみに限られている状態から、株式を証券市場に流通させることによって、広く一般の投資者に資本参加を求めることをいいます(所有と経営の分離の明確化)。 上場により会社の株式は多数の投資者に保有・取引され、また金融商品取引法の規制のもとに、株式の投資判断のための情報開示が行われることとなります。

3.上場する市場の種類は?

次に、上場市場を確認しましょう。
上場市場は、東京・名古屋・福岡・札幌の全国4か所にあります。それぞれの証券取引所には「本則市場」「新興市場」と称される市場があります。
東京証券取引所には、日本の上場企業(3,860社、東京プロマーケット含まず、2021年1月時点)のうち約96%が上場しています。 次に規模の大きい名古屋証券取引所には約7%(他市場との重複上場含む)が上場しています。2つの取引所にある各市場を確認しましょう。
(1)

東京証券取引所

証券市場から様々な形での資金調達(時価発行増資・新株予約権付社債の発行等)が可能となり、直接金融の恩恵を受けることができます。その結果、自己資本が充実し財務体質の強化が図られ、成長を加速させるためのベースとなります。

・市場第一部、市場第二部(本則市場)
国内外を代表する大企業・中堅企業が上場する日本の中心市場。市場規模や流動性においても世界トップクラスの市場です。

・マザーズ(新興市場)
近い将来の東京証券取引所市場第一部・第二部へのステップアップを視野に入れた、「高い成長可能性」を有する企業向けの市場です。 昨今では非常に人気が高く2020年も上場を果たした企業93社中63社(約68%)がマザーズに上場しています。

・JASDAQ(新興市場)
信頼性、革新性、地域・国際性という3つのコンセプトを掲げる市場です。JASDAQはさらに「スタンダード」「グロース」という市場に分かれています。

・TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)
より自由度の高い上場基準・開示制度で上場を実現できるプロ投資家向け市場です。2021年6月時点での上場企業数は45社で、ここ数年の間に上場社数を伸ばしています。 一般の投資家が売買できないため、資金調達よりも知名度や信用力の向上を目的とした上場がほとんどです。

東証の市場とは(東京証券取引所ホームページ)
※なお、2022年4月より東京証券取引所の市場区分は、「プライム」「スタンダード」「グロース」に変更されます。
(2)

名古屋証券取引所

市場第一部・市場第二部(本則市場)とセントレックス(新興市場)があります。本社所在地は名古屋ですが、中部地方以外の企業も数多く上場しています。セントレックスは成長が期待される企業に対して、資金調達や企業知名度の向上の機会を提供することにより、近い将来の本則市場(市場第一部・第二部)へのステップアップを視野に入れた企業向けの市場です。企業規模を問わないことが大きな特徴です。

名証の売買・上場制度(名古屋証券取引所ホームページ)
※なお、2022年4月より名古屋証券取引所の市場区分は、「プレミア」「メイン」「ネクスト」に変更されます。

その他、福岡証券取引所には「本則市場」と「Q-Board」(新興市場)が、札幌証券取引所には「本則市場」と「アンビシャス」(新興市場)があります。

4.上場のメリット

上場のメリットを会社と株主の観点で確認しましょう。
◇ 会社にとってのメリット
(1)

資金調達方法の多様化と資金調達力の向上

証券市場から様々な形での資金調達(時価発行増資・新株予約権付社債の発行等)が可能となり、直接金融の恩恵を受けることができます。その結果、自己資本が充実し財務体質の強化が図られ、成長を加速させるためのベースとなります。
(2)

知名度・信用力の向上

実質的に約400万社と言われている日本企業の中の上場企業約3800社の1社に選ばれることで会社の知名度は高まります。金融機関の信頼性も向上し、資金調達と同等な潜在的なメリットも享受できます。
(3)

人材確保の優位性、従業員の士気向上

知名度の向上は営業上のメリットや優秀な人材の確保、従業員の士気向上などにもつながり、企業成長を大きく加速させます。
(4)

ガバナンスや管理体制の強化・充実

上場準備の過程では、上場会社としてふさわしい内部管理体制を構築することが求められます。その結果、組織が属人的経営から組織的運営に転換され、企業規模拡大にも耐えうる組織基盤が構築されます。

◇ 株主(創業者)にとってのメリット
(5)

創業者利潤の実現

経営者は、上場時の株式の売り出しによって投下資本の一部を回収し、創業者利潤を実現することができます。また、株式が証券市場で流通し、公正な株価が形成されることによって、株式の換金性が増大し、株主の財産形成が図られます。

5.上場のデメリット

(1)

会社情報の開示義務とその体制の確立

有価証券報告書や四半期報告書の発行義務を負うとともに、決算短信を発表するなど、投資家に対して情報を適時かつ適切に公表する、いわゆる適時開示が必要となります。また、適時開示を行うためには、その体制を確立する必要があります。
(2)

敵対的買収等、株式買占めへの対応

株式市場では、市場で不特定多数の株主が自由に売買することができることから、常に買収のリスクにさらされます。経営のっとりを目的とした敵対的買収への対策をどのようにしていくか、という点に関しても、上場準備の段階から念頭に入れておく必要があります。
(3)

株主対策(コミュニケーション)

上場することによって、不特定多数の株主が存在するようになります。一般株主の多くが興味を持っている配当、株式売却などの経済的利益をどのように維持していくか、必ずしも友好的な株主ばかりとは限らない中で、円滑な株主総会運営などの対策が必要となります。昨今ではアクティビスト(もの言う株主)により、コーポレートガバナンスへの対応が厳しく追及されるケースも増えています。取締役会の機能発揮、ダイバーシティの確保、サステナビリティへの対応等、数年前より格段に検討事項が増えています。
(4)

上場維持コストの発生

取引所に支払う年間上場料、監査法人への監査報酬、株主名簿管理人である信託銀行への株式事務代行手数料等、上場後も継続して払う必要があります。また、適時開示体制を確立するためのコストや株主総会運営やIRに関するコストなどもあります。

6.変わる、上場のメリット・デメリット

一般的な上場のメリット・デメリットを見てきましたが、昨今ではその定説が変わりつつあります。
(1)

“資金調達”手段は上場だけではない、CVCによる投資やM&Aの時代に

上場のメリットとして必ず挙げられる“資金調達”ですが、最近では、大手企業がオープンイノベーションを見据えて成長性の高いベンチャー企業等へ資金提供するCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)からの投資が急増しています。2018年度のCVCによる投資額は約3500億円と5年前の8倍となり、上場における資金調達額を上回っています。また、将来的な上場を目指して上場前に投資ファンドに買収(M&A)される企業も増えています。創業者のファーストイグジットを実現するとともに、経営管理面のサポートなどを得て、上場に向けて成長を加速させる目的です。

資金調達方法が多様化している今、上場だけが選択肢ではありません。自社の技術やサービスを必要としている大手企業との協業なども視野に入れることで新しい可能性が生まれるかもしれません。
(2)

日本では稀な“敵対的買収”が成功、伊藤忠商事VSデサント

ここ数年の日本における“敵対的買収”は、1~2件/年と数が少なく、また規模も大きくなったため、目立った例はありませんでした。

しかし、2019年3月、伊藤忠商事によるデサント株の敵対的買収が成立しました。元々デサントの筆頭株主であった伊藤忠商事は、かねてよりデサントの経営に不満を持ち、2019年1月にTOBを発表、3月には敵対的買収が成立しました。

今回は日本企業同士でしたが、グローバル化が進む中で、今後も敵対的買収が増える可能性は否定できません。特に成長著しい上場企業は買収防衛対策を早めに行っておくことが肝要です。
(3)

求められる投資家コミュニケーション

上場企業の配当と自社株買いを合わせた株主還元が2018年度に過去最高の15兆円となりました。株主還元策を講じるということは、例えば、急速な成長が見込めない成熟企業の株価の下支えになることや、自社の株価が割安な状態であることのアピールにつながって株価が上昇するなど、株価を調整する効果が見込めましたが、最近では、効果が継続しないなど、思うような結果が得られないケースもあります。

従来であれば、株主に喜ばれていた株主還元策も、企業そのものの成長性・将来的が見込めないと歓迎されない風潮が出てきていると言えます。

またSDGs銘柄と認定された企業の株価が急騰するといったように、社会的課題への取り組みが評価されることも増えています。従来通りの財務情報の開示だけでなく、IRの重要性を再認識し、ニューノーマルな投資家コミュニケーションを実践することが求められています。
執筆
IPO Compass編集部
IPO Compass編集部
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