地方企業が最初に取り組むべきIPO準備とは ~10年先の会社のための選択肢、“IPO”~

人口減少、後継者不足、そしてコロナ禍。経営環境が一段と厳しくなる中で、ピンチをチャンスにと“IPO”を検討する企業が増えています。本コラムでは、地方企業がIPO実現のために最初にすべきこと、事業承継など地方企業あるあるの問題を解説します。地方企業だから不利ということはありません。すべての企業にIPOの可能性があるのです。
2020年10月29日

1.はじめに~10年先の会社のための選択肢、 “IPO”~

人口減少、少子高齢化、コロナ禍によるインバウンド需要の大幅減、そして深刻な後継者不足・・・将来の見通しが立てにくく、長年続けてきた会社を一つ上の段階に成長させることに二の足を踏んでしまうという地方企業の経営者の方は多いのではないでしょうか。
しかし、コロナ禍により期せずして変化の時を迎えた今、新たな成長のステージに踏み出す企業も増えています。

そのステージとは、“IPO”です。

首都圏以外の地域では、IPOに関する情報や経験豊富なIPO支援の専門家が少ないなど、IPOへの心理的ハードルが高くなることは事実です。しかしIPOを目指すと決めるタイミングでは売上・利益が順調に伸びている企業ばかりではありません。また、事業承継を機にIPOを検討する企業も少なくありません。地方企業にとってIPOは決して非現実的な選択肢ではないのです。

本コラムでは、当社・船井総合研究所の地方企業へのIPOコンサルティング事例をもとに、地方企業におけるIPO準備を解説します。

2.IPO実現までのスケジュール

まずはIPOまでのスケジュールを把握しましょう。

IPO準備のスケジュール
▲IPO準備のスケジュール

IPOを実現するためには最低2年と言われています。これは2期分の監査証明が必要なため、最低2年ということであって、実際には短期でのIPOは難しいです。
特に地方企業の場合は、同族経営で株を親族で分散保有していることが多いため、IPOに向けての資本政策が必要ですし、事業承継を視野に入れたIPOの場合はなおさら時間が必要です。準備期間として3~5年は見ておきましょう。

3. IPO準備の第一関門、監査法人との契約

IPO準備を進める上での昨今の第一関門が、監査法人を探すことです。監査難民という言葉も生まれているように、監査法人の人手不足などにより、監査契約を結ぶことが非常に難しくなっています。

先日ご相談のあった企業の場合、まだ上場会社監査事務所として登録されていない監査法人(つまり、現時点では上場会社の監査ができない)と契約されていました。この企業が実際にIPOを実現する2~3年後には、この監査法人も登録が完了し監査ができるようになるであろうという算段です。

インターネットを検索し、上から1つずつ電話をしていくくらいの気持ちでないと契約できないのが現実と言っても過言ではないでしょう。

また、監査法人に選ばれる企業になる努力も必要です。
監査法人に相談する前に、社内の内部管理体制が整備されていることが暗に求められています。ショートレビューを受けた際にも、監査法人の指摘に真摯に対応し、改善していく姿勢が重要です。

4.地方企業のIPOを阻む理由① 先入観

IPOに関する情報が少ない首都圏以外の地域では、そもそもIPOを目指そうという企業が多くありません。老舗で規模の大きい企業や地域密着型の地元で愛される企業など、魅力的な企業が数多く存在するにも関わらずです。

IPOを目指す企業が少ない理由の1つに、IPOはハードルが高い、一部の急成長企業しか実現できないという先入観があります。
本当にIPOはハードルが高いのか、実際の上場企業の売上高等のデータで確認しましょう。

2017年~2020年にマザーズに上場した企業の売上高の中間値は、20億円ほど、そして経常利益の中間値は1.5億円ほどです。思っていたよりも大きくないと感じた方が多いのではないでしょうか。

また、上場時の社長の平均年齢は48.2歳(マザーズ44歳)(※2019年1月から12月、テクニカル上場を除いた新規上場企業 86社(船井総合研究所調べ))であり、約75%は40代以上です。こちらも思っていたほど若くないとお感じではないでしょうか。

2019年新規上場時の社長の年代(船井総研調べ)
▲2019年新規上場時の社長の年代(船井総合研究所調べ)

このようにして、データで見てみると事前に思っていた印象とは違うと思います。先入観は捨てて、自社が目指せるかどうかを客観的に考えてみてください。

5.地方企業のIPOを阻む理由② 適切な市場選択

ここ数年はマザーズ一強とも呼べるほど、マザーズ人気が過熱していました。実際に2019年も上場を実現した企業の74%がマザーズを選択しています。また、上場企業全体としては半数以上が東京証券取引所(以降、東証)1部に属しており、東証1部の比重が高くなっています。

各取引所の上場企業数状況
▲各取引所の上場企業数状況

出典:(東京証券取引所「東証の市場とは」
※上場社数は2020年7月31日時点。他市場への重複上場企業の数も含む。公表データをもとに船井総合研究所まとめ

東証は2022年に、現在の市場区分を明確なコンセプトに基づいて再編することを予定しています。市場再編後はこれまでよりも形式基準が厳しくなる可能性があることなどから、市場選択の視野を東証以外の市場に広げる企業が増えています。

そこで注目されているのがTOKYO Pro Market(以降、東京プロマーケットと記載)です。
2019年には過去最多の9社が上場し、さらに東京プロマーケットから一般市場へのステップアップ上場も誕生しています。

当社のクライアント企業でも東京プロマーケットを目指す企業が出てきています。監査証明が1期分で良いこと、足切りとなる形式基準がないことなどからスピード感を持ってIPOを実現できるというメリットが認知されています。

また、東京プロマーケット上場企業の売上高の中間値は19億円前後です。マザーズの売上高の中間値と変わりません。事業承継を見据えている企業や認知度を高めたいという企業には向いているのではないでしょうか。

そして、名古屋証券取引所をはじめとする地方証券取引所(以降、地方証取)も視野に入れておくことをお勧めします。地方証取は地元の企業を応援してくれるため、上場後も継続して企業を盛り立ててくれます。またステップアップ市場としての魅力もあり、地方証取の新興市場に上場した多くの企業が地方証取の本則市場及び東証に上場を果たしています。

市場はマザーズだけではありません。
自社に適した市場選択をすることも、IPOを実現するための重要なポイントと言えます。

6.地方企業の上場準備の課題、あるある3選

ここからは地方企業特有の上場準備段階で起こるあるあるの課題に言及します。

①CFO人材がいない
CFO人材を外部から招聘したほうがよいか、という相談を受けることがよくありますが、必ずしもCFOが必要なのかというとそうではありません。
実際に上場時にCFOを登用していた企業はどのくらいあるのか、確認してみましょう。

2018年上場企業のCFO登用企業数(船井総研調べ)
▲2018年上場企業のCFO登用企業数(船井総合研究所調べ)

実は、上場企業の7割以上が「CFO」として役員を登用していません。
CFOがいなくても、社内のIPO未経験の人材をIPO準備担当者として割り当てることで十分に対応可能です。ただし、IPO準備担当者は早めに設置しておいたほうがよいでしょう。IPO準備担当者は、IPOプロジェクトの推進、管理部門責任者としての役割、そして上場準備を実施する必要があります。本格的に準備を始める最初の段階から兼任の場合でも、0.5人分はIPO準備担当として専任化してください。そして誰が、いつまでに、何をするかを決め、スケジュール通りに着実に進めることが重要です。

②IPOに関する情報アクセスが困難
地方企業においては、上場を達成したベンチャー企業のようなロールモデルが周囲にいない、IPOを気軽に相談できるIPO支援の専門家がいないなど、首都圏の企業に比べると不利に感じることも確かにあります。
しかし、地方証取が開催する勉強会(例「札証成長塾」)や、オンラインセミナーもありますので、積極的に活用することで補えます。

当社のクライアント企業もほとんどが地方企業です。現地に赴き対応することもあれば、Web会議などで遠隔で対応することもあります。場所による有利不利はもはやないと言えるでしょう。

③事業承継を見据えたIPO
同族経営の地方企業で、ご子息への事業承継とIPOを検討されていた企業がありました。株が親族に分散していたこと、そしてIPOを実現すると株価が未上場時より高くなるため、事業承継をするタイミングをいつにするか、慎重に検討されていました。

そこでIPO前に時間をかけて徐々に親族から株を集約し、業績が下がったタイミングを見計らってご子息に事業承継で株を譲渡、その後業績が回復したタイミングでIPOを実現されました。
事業承継は経営の承継であると同時に株の承継でもあります。承継のタイミングは慎重に判断しないと、莫大な税金を後継者が背負うことになります。事業承継に詳しい税理士に相談することが肝要です。

7.IPO準備で最も重要なこと

IPO準備と言えば、業績向上、事業計画の策定、資本政策、内部統制構築、労務管理、法務管理等対応すべき事項が山ほどあります。しかしそのようなテクニカルなことよりも、重要なことがあります。

それは、IPO経験の豊富なコンサルタント等、信頼できるIPO支援の専門家に出会い、早い段階で相談することです。

私自身、過去に経営企画室長としてIPO準備を担当した会社でマザーズ及び東証1部上場を果たした経験があります。しかし当時はIPO支援の専門家が少なく相談相手がいなかったため、上場経験のないメンバーで勉強会を重ねながら少しずつ進めていきました。結果、紆余曲折ありながらも上場を果たしましたが、やはりIPOに長けたIPO支援の専門家に伴走してもらうことが効率的かつ間違いありません。

監査法人などからも、「社内にIPO経験者はいますか?」と聞かれることがあります。IPO経験者がいない場合でも、IPO支援の専門家のコンサルティングを受けていると、コミュニケーションがとりやすくなります。

IPOは受験によく似ています。受験の時には、受験の経験者である親・兄弟、塾の講師等に相談をするように、IPOにおいても早い段階で信頼できるIPO支援の専門家に相談することが、IPOを実現する近道です。

IPOは受験に似ている。サポートしてくれるIPO支援家を積極活用
▲IPOは受験に似ている。サポートしてくれるIPO支援の専門家を積極活用

地方企業と首都圏企業での情報格差も埋まり、どこにいてもIPOに関する情報を得ることができるようになりました。また、市場選択の視野を広げることでIPOの可能性が高まります。
IPOに精通した専門家の力を借りることもできます。
つまり、IPOは特別な企業だけが実現することではなく、すべての企業に可能性があると言えるのです。

10年先の未来を見据え、IPOを目指してみませんか。

※本コラムは2020年10月20日開催「地方企業が最初に取り組むべきIPO準備とは」の講演内容を元に作成しています。最新情報は株式会社船井総合研究所までお問い合わせください。

■ IPOを目指したい、検討したい方に耳より情報をお届け 「船井総研IPOコンサルティングコラム」
船井総研IPOコンサルティングコラム

■ IPOを目指す企業が参加する研究会(IPO・M&A分科会)
IPO分科会

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執筆
株式会社船井総合研究所 チーフ経営コンサルタント 宮井 秀卓氏
株式会社船井総合研究所 チーフ経営コンサルタント 宮井 秀卓氏
株式会社モバイルファクトリーにて経営企画室長としてIPO準備を担当した後、取締役として、2015年3月に東証マザーズ上場2017年6月に東証一部上場を経験。2018年4月より株式会社船井総合研究所にてチーフ経営コンサルタントとして従事。M&A、事業承継、IPOなら船井総合研究所
株式会社船井総合研究所 金融M&A支援部 シニアコンサルタント 前田 宣彦氏
株式会社船井総合研究所 金融M&A支援部 シニアコンサルタント 前田 宣彦氏
総合商社、銀行、ECプラットフォーム企業等の管理部門を経て、2016年にCFO(管理部門取締役)として入社した会社にて2017年4月に東証マザーズ上場を実現。 その後、ベンチャー企業CFOを経て2020年7月より株式会社船井総合研究所に参画し、IPO支援部署においてシニアコンサルタントとして従事。 大手上場企業とベンチャー企業両方の管理部門で実務経験を活かし、大企業視点の正確性とベンチャー企業視点の現場に寄り添った現実性の高いコンサルティングを強みとしている。
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