労災とは|認定基準と労災保険の基礎知識

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厚生労働省が公表した2019年の労災発生状況によると、全体的には労災による死傷者数は減少傾向にあるものの、60歳以上の占める割合が年々増加しているようです。
(厚生労働省報道発表資料「平成31年1月から令和元年12月までの労働災害発生状況を公表」より)
労災の発生頻度はそう高くないとはいえ、定年後の再雇用などで働くシニア世代が増えている時勢を考えると、万が一を想定しておくことも必要でしょう。人事労務担当者としては、労災に関する基本をしっかり把握しておくことも大切です。
今回は、労災の認定基準や労災保険の給付内容、保険料の計算など、担当者として押さえておきたい基礎知識を整理しましょう。

目次

「労災」と「労災保険」

労災の認定基準

労災保険で補償される範囲

労災保険給付の手続き

労災保険料の計算方法

おわりに

「労災」と「労災保険」

労災(労働災害)とは、従業員が通勤途中や業務中に負傷したり病気になったりすることで、万が一、業務中に事故が起こった場合、企業は労働基準法が定める通り被災した従業員に対して補償責任を負うことになります。そのため、従業員が働けない間の治療費や生活費などを補償する制度が「労災保険」です。あらかじめ労災保険に加入していれば、保険から被災した従業員に給付が行われます。

労災保険は、企業が加入する保険です。そのため、個人に対して健康保険被保険者証や年金手帳のように、「加入者証」が配付されることはありません。
原則として「労働者を1人でも雇用している」あるいは「法人」であれば適用事業所になり、正社員、パート、アルバイトや日雇いなど、全ての従業員を対象として保険料を納めることになります。ただし、事業主や法人役員などは労災保険に加入することはできません。

労災の認定基準

労災には、「業務災害」と「通勤災害」の2分類があり、それぞれに認定基準が設けられています。

※出典:厚生労働省PDF「労災保険給付の概要」より

<業務災害>

従業員が指定の業務に従事している際に、業務要因で負傷または病気を発症した場合は、業務災害に該当します。原則として、事業所の敷地内にいる限り「事業主の支配・管理下」にあると認められ、トイレなどの生理的現象も含まれます。ただし、休憩時間や終業時間前後に発生した事故で、事業所の施設、設備等に要因があると考えられれば業務災害と見なされますが、私的な行為が要因の場合は認められません。
また、出張や社用での外出先で勤務している際に発生した場合は、積極的な私的行為が行われるなど特段の事情がない限りは業務災害となります。
その他、以下のような事情の場合には、労災と認定されないことがあります。

  • 就業中に行った私用または業務を逸脱する気ままな振る舞いが原因で発生した場合
  • 従業員が故意に負傷などした場合
  • 個人的な恨みで従業員が第三者から暴行を受けた場合
  • 地震や台風などの天災で被災した場合
    ※事業所の立地条件、作業条件、作業環境の災害対策が甘く、被害を受けやすい業務と認定された場合は、業務災害となります。

疾病については、一般的に、次の3つの要素を満たしている場合に業務災害と認定されます。

  1. ①事業所に有害因子が存在している
  2. ②健康障害を引き起こすほどの強い有害因子にさらされたことが認められる
  3. ③発症の経緯や症状が医学的見地からしても業務災害として妥当である

<通勤災害>

通勤災害は、職場への通勤途中や帰宅途中に傷病を負う場合に認定されます。そのため、居酒屋や映画館に立ち寄るなど普段の経路を外れた場合は、基本的に通勤災害とは認められません。ただし、日用品の買い物や通院、介護、選挙、職業訓練へ参加するなどの場合は例外とされます。

※出典:厚生労働省PDF「労災保険給付の概要」より

労災保険で補償される範囲

労災保険が対象とする主な補償には、次のようなものがあります。
※業務災害と通勤災害のいずれも給付の要件や内容は同じですが、給付名にある「補償」の言葉の有無で区別されます。
(例)業務災害の場合=「療養補償給付」、通勤災害の場合=「療養給付」

療養(補償)給付

業務災害・通勤災害による傷病で療養する際(入院、治療、通院費など)に給付されます。指定の医療機関で療養する場合は無料となり、指定医療機関以外で治療を受ける場合は後日その費用を受給することができます。また、通院にかかった交通費も、一定の要件を満たせば給付対象となります。
参考:厚生労働省「療養(補償)給付の請求手続」

休業(補償)給付

業務災害・通勤災害による療養のため、働くことができず賃金が支払われない場合に給付されます。労働できなくなった日の4日目から休業1日につき給付基礎日額の60%が給付されます。また、休業特別支援金として、労働できなくなった日の4日目から休業1日につき給付基礎日額の20%相当額が給付されます。
参考:厚生労働省「休業(補償)給付 傷病(補償)年金の請求手続」

傷病(補償)年⾦

業務災害・通勤災害による療養を始めて1年6カ月が経過しても「傷病が治っていない」かつ「傷病が傷病等級第1~3級に当てはまる」場合に、障害の程度に応じて年金給付基礎日額の相当分が支払われます。
参考:厚生労働省「休業(補償)給付 傷病(補償)年金の請求手続」

※出典:厚生労働省PDF「傷病(補償)年金について」より

障害(補償)給付

業務災害・通勤災害により、身体に障がいが残る場合に給付されます。給付額は、障がいの程度によって「障害補償年金」または「障害補償一時金」が給付されます。
参考:厚生労働省「障害(補償)給付の請求手続」

介護(補償)給付

傷病補償年⾦または障害補償年⾦の受給者で、傷病等級・障害等級が第1級もしくは「精神神経、胸腹部臓器の障害」がある第2級として現在介護を受けている場合に給付されます。介護の状態(常時介護、臨時介護、親族等による介護)によって給付額が変わります。
参考:厚生労働省「介護(補償)給付の請求手続」

遺族(補償)給付

業務災害・通勤災害により従業員が死亡した場合に、遺族に対して給付されます。死亡時に遺族補償年金を受け取る遺族がいないなどの場合は一時金が給付されます。
他にも、葬祭を行う場合の葬祭料(葬祭給付)もあります。
参考:厚生労働省「遺族(補償)給付 葬祭料(葬祭給付)の請求手続」

⼆次健康診断等給付

企業が指示する定期健康診断等(一次健康診断)で、次のいずれかに該当する場合に、二次健康診断の受診費と特定保健指導料が給付されます。

  1. ①⾎圧検査、⾎中脂質検査、⾎糖検査、腹囲またはBMI測定の全て検査において異常の初見がある
  2. ②脳⾎管疾患、または⼼臓疾患の症状はないと認められる
参考:厚生労働省「二次健康診断等給付の請求手続」

 

労災保険給付の手続き

労災保険の給付を受けるには、所定の請求書に必要事項を記入して、所轄の労働基準監督署長あてに直接または病院・薬局等を経由して提出する必要があります。
それぞれに必要な請求書の様式は、以下のようになっています。

※出典:厚生労働省「労災保険給付の概要」より

手続きは、原則として被災した従業員本人(死亡時はその遺族)が行うことになっていますが、各請求書は労災保険の給付請求内容に間違いがないか証明が必要になるため、人事労務担当者が対応することになります。

(例)療養補償給付に必要な「療養補償給付たる療養の給付請求書(5号)」の場合

※出典:厚⽣労働省「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」より
  1. 労働保険番号
  2. 被災した労働者の氏名、住所、生年月日、年齢、性別、職種、被災した年月日
  3. 被災した時刻、事実確認を行った人の氏名、職名
  4. 被災状況の詳細
  5. 事業所の証明欄(事業所の名称、所在地、事業主氏名、本社勤務でない場合は所属先の名称・所在地)
  6. 所轄の労働基準監督署名、病院などの経由先、請求人(被災した労働者)の連絡先、押印
    ※自筆の場合は押印不要

それぞれ詳しい手続きについては、厚生労働省のホームページ「労働災害が発生したとき」をご覧ください。

労災保険料の計算方法

労災保険料は、労災保険に加入できない人を除く全従業員に支払った賃金の総額に、労災保険率をかけて計算し、全額を企業が負担します。ただし、手当などの中には、賃金に含むもの・含まないものがありますので注意が必要です。
また、計算の基となる保険率は事業の種類によって細かく定められており、令和3年度までの労災保険率は以下の保険率が適用されることになっています。例えば、小売業の場合であれば、「98 卸売業・小売業、飲食店又は宿泊業」にあたるため、保険率は3%となります。

※出典:厚生労働省「令和3年度の労災保険率について」より

さらに、当年分はあくまで概算として申告・納付し、年度更新で前年度の確定保険料と当年度の概算保険料の差額を申告・納付することになります。
具体的な計算については、コラム「【労災保険料の計算】担当者が押さえておきたい労災保険料の基礎知識」も参照ください。

おわりに

企業は、労災が発生した場合、その内容を労働基準監督署に報告しなければなりません。(労働者死傷病報告)もし報告を怠ったり虚偽の報告を行ったりした場合は、刑事責任を問われる可能性もあります。
また、企業には労災の防止義務もあります。労災を防止するには、労働安全衛生法に基づく安全衛生管理責任を果たさなければなりません。平常時から事故が起こらないように配慮するとともに、万が一労災が起こった場合はその原因分析を行い、再発防止に努めることも必要です。
従業員が安心して働ける環境であり続けるよう、防止の備えはもちろん、労災保険給付の対応についてもしっかりと理解しておきましょう。

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