IPO前に会計システムのリプレイスは必要か?

IPO準備段階でシステムを見直すことは多々あります。しかし本当にリプレイスは必要なのでしょうか?必要なのであれば、いつどのようなシステムにリプレイスすべきなのでしょうか。
更新:2023年5月22日

1.IPO前に会計システムのリプレイスは必要か?

IPOにおいて、会計システムをはじめ、必須のシステムはありません。しかし、実際にはIPO準備段階で多くの企業がIPOに向けて会計システムをリプレイスしています。  

以下のグラフをご覧ください。

▲2020~2022年の過去3年間で勘定奉行を利用してIPOを実現した企業111社における勘定奉行の導入時期(OBC自社調べ)
2020~2022年の過去3年間で勘定奉行を利用してIPOを実現した企業111社における勘定奉行の導入時期(OBC自社調べ)

2020~2022年の過去3年間で勘定奉行を利用してIPOを実現した企業111社 のうち、IPO準備段階(N-3以降)で勘定奉行にリプレイスした企業(上図、赤枠部分)は43.2%、IPO準備前(N-4以前)から継続して勘定奉行をご利用いただいていた企業(上図、水色部分)は56.8%でした。

この結果から勘定奉行を利用してIPOを実現した企業のうち、約4割がIPO準備段階(N-3以降)でリプレイスしていることがわかります。

これはあくまでも勘定奉行をご利用いただいている企業を対象に、当社が把握できているリプレイスの割合です。しかし、当社が把握できていない企業においても一定程度のリプレイスが発生していると推察すると、IPO準備段階で会計システムをリプレイスした企業は決して少なくはないと考えられます 。

2.IPO準備段階で会計システムをリプレイスする理由

では、なぜIPO準備段階で会計システムをリプレイスするのでしょうか。その理由として以下3つがあげられます。

①監査対象となる財務諸表を作成する最重要基幹システム

事業活動の最終的な結果として、不正・誤謬のない財務諸表の作成・開示が求められます。その財務諸表を作成するのが会計システムであるからです。

②IT統制への対応

IPOを意識しない段階では、内部統制・内部管理体制構築を想定していない安価かつ簡易なパッケージシステムを利用している企業が少なくありません。しかし上場企業においては内部統制の基本的要素の1つとして「ITへの対応」が求められています。利用システムにおけるIT統制への対応は必須です。

③監査難民問題への対応

昨今の監査難民問題(監査法人の人手不足等により企業選別が進み、監査法人との監査契約ができない企業が増えている)も影響していると考えられます。
監査法人に選ばれる企業の条件は、内部管理体制が整備されている手間のかからない企業であることです。システムは内部管理体制整備を実現するための重要なツールです。監査法人に信頼されるシステムを利用していることは、監査難民問題を解決するための第一歩になります。

3.システムリプレイスのタイミング

システムを検討するタイミング、実際にリプレイスするタイミングはいつが望ましいでしょうか?

教科書的には、検討は直前々期期首以前(N-3),リプレイスは直前々期(N-2)が推奨されています。実際、直前々期期首以前(N-3)で受ける監査法人のショート・レビューをきっかけにリプレイスを検討し、内部管理体制を構築する直前々期(N-2)でリプレイスするケースが多いようです。

▲IT統制の構築スケジュール(※OBC自社調べ)
IT統制の構築スケジュール(引用元:IPO Compassコラム「IT統制とは?」

しかし、近年は、推奨時期よりもさらに早まる傾向にあります。

▲2020~2022年の過去3年間で奉行シリーズを利用してIPOを実現した企業111社における勘定奉行の導入時期(OBC自社調べ)
2020~2022年の過去3年間で奉行シリーズを利用してIPOを実現した企業111社における勘定奉行の導入時期(OBC自社調べ)

先ほどのグラフから、 推奨とされる直前々期(N-2)にリプレイスした企業が約2割(18.0%)を占めています。一方、推奨よりも早い直前々期期首以前(N-3)にリプレイスした企業も、同じく約2割(18.0%)を占めています。

直前々期(N-2)と同じ割合まで、直前々期期首以前(N-3)のリプレイスが増えている理由としては、上述した監査難民問題への対応があります。内部管理体制の整備を今までよりも早く開始する企業が増えたため、システムリプレイスの時期も併せて早くなったと考えられます。

そのほかの理由として考えられることは、期越え上場の増加や経済の先行き不透明感からIPO時期が後ろ倒しになったことです。システムリプレイスを実施したタイミングでは直前々期(N-2)でしたが、IPOが翌期に延期されたことで、直前々期期首以前(N-3)でリプレイスしたことになったケースもあるようです。

4.申請期にリプレイスした企業、その理由は?

グラフを改めて見てみると、 直前期(N-1)にリプレイスした企業が4.5%、申請期(N)にリプレイスした企業が2.7%ありました。監査対象期間でのリプレイスは難しいと言われているにも関わらず、なぜこの時期にリプレイスしたのでしょうか。

▲2020~2022年の過去3年間で奉行シリーズを利用してIPOを実現した企業111社における勘定奉行の導入時期(OBC自社調べ)
2020~2022年の過去3年間で奉行シリーズを利用してIPOを実現した企業111社における勘定奉行の導入時期(OBC自社調べ)

◎申請期(N)にリプレイスした企業のIPO準備担当者(CFO)のコメント

現行の会計システムのままでも、IPO審査に臨める状態でした。しかし、IPO後の規模拡大を見据えた時に、以下の点が課題になるとわかっていました。
他のシステム(販売管理システムや給与計算システム等)との連携が弱い(自動連携できないため、Excel連携必須)
IT統制機能の不足(不足分はワークフローでカバーしていた)

もともと給与システムは奉行シリーズを利用していたこともあり、自社には勘定奉行がベストな選択肢であると判断し、申請期にリプレイスしました。

申請期でのリプレイスは、監査法人、証券会社に難色を示されました。しかし、リプレイスまでのロードマップ、リプレイス後の業務フロー変更への対応や内部統制上の影響を説明することで、納得していただくことができました。

このように、申請期であってもリプレイスすることはできます。
ただし、IPO準備担当者の方が会計にもシステムにも精通されていること、監査法人や証券会社に納得してもらうことができれば、というレアケースです。

IPO準備段階では、会計以外のシステムも同時に新規導入やリプレイスをすることがあり、すべての運用環境が整うまでには数か月以上かかることも少なくありません。
教科書的なスケジュールをベースにしつつ、例えば、直前々期期首以前(N-3)までにリプレイスを実施し、直前々期(N-2)には運用できる状態にするといったように、なるべく前倒しで進めていきましょう。

5.リプレイスする会計システムの選定方法

会計システムの選定方法として以下3つがあげられます。

5-1.IT統制対応状況
IPOを見据えたシステムリプレイスの場合、「IT統制に貢献するシステム」であることが大前提です。IT統制に貢献しているかどうか、検討の際に参考としてあげられる指標が以下2つです。

  • システム管理基準 追補版(財務報告にかかるIT統制ガイダンス)追加付録.7 財務会計パッケージソフトウェアにおける機能等一覧表(経済産業省 平成19年12月26日(水)公表)※1
  • ②ISO/IEC 15408(経済産業省)※2
    ※1 
    機能等一覧表とはIT統制で会計システムに求められる機能を一覧にまとめたもの
    ※2 
    ISO/IEC 15408とは、ITセキュリティ評価及び認証制度などでセキュリティ評価を行うための共通的な評価基準を定めたもの。ITセキュリティ評価のための国際的な共通基準として用いられている。

具体的には、各ソフトウェアベンダーが開示している①や②と、検討中(あるいは利用中)会計システムの機能を比較することで、検討中会計システムがIT統制に対応しているかどうか判断することができます。

【経済産業省】会計システムに求められる機能一覧表(奉行クラウド版)バナー

5-2.システム間データ連携
会計システムはその前工程にあたる購買管理システムや販売管理システム、経費精算システム、給与計算システムや減価償却システムなど、部署の垣根を超えた多くのシステムと連携します。
内部統制上は、なるべく人の手を介さない自動連携が推奨されます。同じベンダーのシステム同士であれば自動連携できることが多いのですが、複数ベンダーのシステムの併用の場合はその限りではありません。自動連携ができずExcelにいったん出力し、Excelで修正後会計システムに読み込むケースもあります。複数ベンダーのシステムを併用する場合でも、API連携機能のインターフェースを持ったシステムを選ぶなど、出来るだけ人の手を介さない方法を採用しましょう。

▲奉行クラウドシリーズにおける、業務間システム連携の図(他社システムともAPI連携により、取引から申告まで一連のデータを自動連係)
奉行クラウドシリーズにおける、業務間システム連携の図(他社システムともAPI連携により、取引から申告まで一連のデータを自動連携)

5-3.クラウドサービスにおける“SOC報告書”の有無
クラウドサービスにおいては、自社のシステムやデータは自社で管理せず、クラウドサービス提供会社で管理されます。そのため自社の内部統制監査で、クラウドサービス提供会社(外部委託先)自体の信頼性や、内部統制の評価が求められます。

そこで活用できるのが、クラウドサービス提供会社(外部委託先)の内部統制を評価した「SOC報告書」です。監査法人に「SOC報告書」の提出を求められた際に、クラウドサービス提供会社からSOC報告書を提供してもらえるか、必ず導入前に確認しましょう。


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