【未払い賃金】時効が延長に!企業が取るべき3つの対応とは

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2020年3月に行われた参院本会議で、従業員が未払いの残業代などを企業に請求できる期限(時効)について、労働基準法で「過去2年分」とされている規定を「当面3年に延長」する改正労働基準法が可決・成立しました。施行日となる4月1日に支払われる賃金から適用され、ゆくゆくは「5年」に延長されることが決まっています。

この「当面」がいつまでなのかは現状では断言できませんが、この法改正によって未払の残業代などにかかる企業のリスクは、これまで以上に大きくなると考えなければなりません。

働き方改革も進めなければならない中、未払いとなっている賃金がトラブルにならないよう、企業はどんな対応をするべきなのでしょうか。

今回は、このような改正が行われる背景から、今後企業が取るべき対応について解説します。

なぜ、未払い賃金の消滅時効が延長されたのか?

これまでの労働基準法では、「賃金や災害補償その他の請求権は2年間」(第115条)とされており、残業代を含む賃金等を遡って請求できるのは「2年」と定められていました。
通常、企業が従業員に支払う賃金には、残業代が含まれます。仮に、過去に支払われてない残業代がある場合、従業員は企業に対して未払い分を請求することができます。これは、労働者の賃金請求権の時効を1年と定めている民法の短期消滅時効の規定を、労働者保護の観点から修正するための特則でした。

今回、労働基準法の「未払い賃金の消滅時効」が延長された背景には、実は2020年4月1日を施行日として約120年ぶりに民法が改正されたことが影響しています。
改正民法では、これまで債権の種類によって消滅時効が異なっていたものを、原則的に全ての債権に対して「権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、または、権利を行使することができる時から10年間行使しないときのいずれか早く到達するとき」と改められました。
このことにより、これまでの労働基準法では民法との間にねじれが生じ、労働者の権利を損ねる可能性が出てきたため、労働基準法においても改正されることになったのです。

ただし、参議院の議案要旨には、企業側の負担にも配慮して「当分の間は3年」という文言も盛り込まれています。その上で、改正後5年経過した時点で見直しを検討するとしており、2025年頃までは経過措置の動向に注意しておく必要があるようです。

第201回国会 議案要旨

(厚生労働委員会)
労働基準法の一部を改正する法律案(閣法第一一号)(衆議院送付)要旨
法律案は、民法の一部を改正する法律の施行に伴い、使用人の給料に係る短期消滅時効が廃止されること等を踏まえ、労働者保護の観点から、賃金請求権の消滅時効期間等を延長するとともに、当分の間の経過措置を講じようとするものであり、その主な内容は次のとおりである。

  1. 一 労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類の保存期間について、五年間に延長する。
  2. 二 付加金の請求を行うことができる期間について、違反があった時から五年に延長する。
  3. 三 賃金(退職手当を除く。以下同じ。)の請求権の消滅時効期間を五年間に延長するとともに、消滅時効の起算点について、請求権を行使することができる時であることを明確化する。
  4. 四 一から三までによる改正後の規定の適用について、労働者名簿等の保存期間、付加金の請求を行うことができる期間及び賃金の請求権の消滅時効期間は、当分の間、三年間とする。
  5. 五 この法律は、民法の一部を改正する法律の施行の日(令和二年四月一日)から施行する。
  6. 六 この法律の施行前に労働基準法第百十四条に規定する違反があった場合の付加金の請求期間及び賃金の支払期日が到来した場合の当該賃金の請求権の消滅時効の期間については、なお従前の例による。
  7. 七 政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律による改正後の規定について、その施行の状況を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

出典:参議院 議案情報より

未払い賃金の消滅時効が延長されることで考えられる
企業のリスクとは?

消滅時効が延長されると、企業にはどのようなリスクが発生するのでしょうか。

従業員に支払う残業代や労務管理が適切でなかった場合、従業員から未払い賃金の請求を起こされる可能性があります。消滅時効が延長されることでもっとも大きなリスクとなるのが、「従業員からの未払い分の請求額が上がる」ことでしょう。

仮に、月25万円の給与を支払っている従業員が1日1時間・月22日間残業したとすると、以下のような計算になります。

残業代 計算例

<月平均所定労働時間=173時間とした場合>

  • 時給を計算すると・・・
    250,000円 ÷ 173時間 = 1,445円 時給1,445円
  • 残業分の時給を計算すると・・・
    1,445円 × 1.25(残業割増率) = 1,806円 残業分の時給1,806円
  • 1日1時間残業が発生すると・・・
    1,806円 × 1時間 = 1,806円(1日分の残業代)
    1,806円 × 22日 = 39,732円(1ヶ月分の残業代)
    39,732円 × 24月(時効の2年間) = 953,568円(2年分の残業代)

つまり、2年間残業代を未払いしていた場合、請求される残業代金は953,568円となります。さらに、法律に則っていないペナルティとして、遅延損害金や付加金が加算されて請求される可能性もあります。遅延損害金は最高で在職時6%、退職時14.6%で計算され、付加金は最大で未払い金額と同じ金額が課せられますので、退職後1年経過して請求されるとその額は200万円を超える可能性もあります。
もし、今後民法にあわせて消滅時効が5年になれば、単純計算で200万円の2.5倍、つまり500万円の請求額となり、元従業員が過去の賃金の未払い分を請求するケースも多く発生するかも知れません。

現状でも、労働基準法で定められた未払い賃金の時効を上回る、「3年」分の未払残業代の支払いが命じられた判例もあります。(杉本商事事件・広島高裁平成19年9月4日)これは、民事法上の不法行為および債務不履行による損害賠償請求権の時効が適用されたもので、会社が意図的に労働時間を把握しない等の事実があったことが「不法行為」とみなされたケースではありますが、一度未払いの残業代を請求された企業の場合、その後同様の訴訟が複数人から繰り返される可能性も高くなります。

しかも、こうした残業代の未払いは、意図せず発生している場合も多いのです。
例えば、給与計算時に算入すべき項目をうっかり入れ忘れた場合です。いわゆる「悪意なき計算誤り」といわれるものです。
2019年12月には、大手コンビニチェーンにおいて、店舗で働く3万人超のアルバイトなどに対し残業手当の一部が未払いであることが発覚し、金額は約4億9000万円に上ったというニュースが報じられました。これも、手当の賃金算入が適正に行われていないことで起こった事象と言われています。
また、労働時間の管理方法やカウントの仕方においても誤差が生じる可能性があります。法律上では、労働時間を1分単位で把握管理することが求められていますが、労働時間の管理が適切でなければ「思いがけず計算を誤った」という事象は発生しやすくなります。

未払い賃金の消滅時効改正で、企業が取るべき3つの対応とは?

こうした事態に備え、企業が実施すべき対応には以下の3つが想定できます。

①労働時間の管理方法を見直す

残業代の請求が行われたとき、まず問題となるのは「実際に勤務した時間の証拠」の有無です。明確に賃金を内訳しておかないと、「残業代が支払われていない」とされる可能性もゼロではありません。企業が労働時間を適切に把握していなかった場合、労働者側の主張に従って労働時間が認定されてしまう恐れもあり、未払賃金紛争を防止するためにも、労働時間の厳密管理が必要となります。
残業代の計算には、概ね以下のようなものが使われます。

  • タイムカード
  • 就業規則
  • 雇用契約書
  • 給与明細
  • シフト表
  • 業務日報
  • パソコンのログイン記録
  • メールの送受信履歴

現在は、働き方改革に伴い、企業には「労働時間の状況を客観的な記録方法で把握する義務」が課されています。始業・終業時刻についても、PCでのログイン・ログオフや、職場への入退場時刻等のログとの照合など、客観的な記録により労働者の労働時間を記録するよう求められています。また、タイムカードなどの記録と自己申告により把握した労働時間が乖離している場合には、実態調査を実施し所要の労働時間を補正しなければなりません。自己申告等で勤怠を把握しているような企業は、未払い残業代のリスクだけでなく法令違反のリスクもあるので、早急に勤怠管理の方法を見直すようにしましょう。

②労働時間のカウントの仕方を見直す

例えば、休憩時間中に電話対応や来客対応が慣習的に行われていると、休憩時間全体を労働時間にカウントしなければなりません。また、就業時間外に行われている研修教育や掃除、朝礼など、参加が強制されている場合は、本来「業務」として労働時間にカウントするものとされています。
労働時間にあたるか否かは、就業規則や労働契約の定め如何に関わらず、その実態から客観的に判断されます。どこまでを労働時間としてカウントするかについては、明確に就業規則や雇用契約書で決め、しっかりと労働時間の把握をしておく必要があります。

さらに、労働基準法では「残業時間の端数処理を行うことは違法」とされています。「○分未満切り捨て」といった運用は認められず、端数は1分単位で管理し、残業時間を算出しなければなりません。もし労働時間で端数処理を行っていると数年分累積すれば相当な金額となるので、自社の労働時間は正しくカウントされているか見直しておくことが重要です。

③賃金の計算式を見直す

計算誤りの原因には、残業時間の間違いの他に「計算式の間違い」というのも大きく影響します。
計算でよくミスが起こるのは、「手当の賃金算入」が適正に行われていないケースです。先述した大手コンビニチェーンで発生した未払い賃金問題も、この“算入すべき手当を計算にしきに含んでいなかった”ことが原因と言われています。
家族手当、通勤手当のように、通常の労働時間の賃金の中には労働と直接的な関係が薄く、個人的事情に基づいて支払われる賃金があります。労働基準法では、これらをすべて割増賃金の基礎にすると「個人的事情によって差が生じる」ため、割増賃金の時間単価を計算するときに「計算に含む手当」「除外する手当」を規定しています。
実は、この「計算に含む手当」を算入し忘れるというケースが比較的多く発生しています。給与計算は今や「システム化が当たり前」の時代ですが、たとえシステムを導入していたとしても、適切に設定がされていなければこうした問題も避けられません。給与計算が適切に行われているかどうかチェックし、これまでの未払い賃金が発見された場合は、速やかに、可能な限り清算しておくことが望ましいでしょう。

給与システムと勤怠管理システムを見直して、早急に対策を!

今回の未払い賃金の時効延長を受け、企業側としては「適切に労働時間を集計し、給与計算に反映する体制を早急に整える」ことが求められます。「うちは大丈夫」と思わず、この機会にもう一度自社の対応が適切かどうか見直してみましょう。それが労務リスク対策にもつながります。

見直すポイントは、給与システムと勤怠管理システムです。
給与システムについては、OBCではホワイトペーパー「給与計算の適性チェックポイント」でチェックリストをご用意していますので、まずはチェックリストを使って自社の給与計算が適正に行われているかどうか確認してみましょう。問題がありそうなところが見つかれば、そこから見直しを図ると良いでしょう。

給与計算間違いを回避するには、給与システムをクラウド化することがオススメです。
給与システムをクラウド化すると、社労士などの専門家ともリアルタイムに情報を共有できるので、給与計算の設定を確認してもらうなど、いつでも相談することができます。人手不足が深刻化すると、社内だけで給与計算が法的に適正かどうかをチェックするのは困難な部分もありますが、クラウドにすることで、専門家に計算結果をチェックしてもらったり、コンプライアンス上の課題に対する改善提案を受けたりと、給与リスクを最小限に留める対策も取りやすくなるでしょう。
給与奉行クラウドなら、顧問の社会保険労務士・税理士などの専門家に提供できる「専門家ライセンス」が1ライセンス無償で付属されていますので、社会保険労務士や税理士とつながって、給与奉行クラウドの給与データを参照してもらったり、直接処理を代行してもらったりすることも可能になります。

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労働時間の管理方法を見直す場合は、クラウド型の勤怠管理システムがオススメです。
クラウド型は多様な打刻方法に対応しているので、どのような働き方にも合わせやすく、直行や直帰など外出先からも打刻ができます。不正打刻が発生しにくく、すべてデータで吸い上げられるので、集計時に手入力をして転記ミスが起こることもありません。法改正などにもタイムリーに対応できるので、法律に則った労働時間の管理が適正に行えます。
ただし、勤怠管理システムは、自社の勤務形態や就業ルールに適したものを選ばないとうまく活用できない場合もあります。勤怠管理システムを見直す場合は、ホワイトペーパー「自社にあった勤怠管理システム選びのコツ」を参考にされるのもよいでしょう。

今回のような法改正は流動的に変化し、継続するものです。今後も発生しうる法改正にも対応できるよう、これを機に、給与システムや勤怠管理システムなどの労務系システムをクラウド化してみてはいかがでしょうか。

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