

2026年上半期のIPO社数は17社と前年同期の28社を大きく下回り、4年連続で減少しました。上場維持基準見直しの影響などから厳しい状況が続くIPO市場について、2026年上半期の総括と下期以降の展望を日本クレアス税理士法人の森本氏が解説します。

- ■執筆:日本クレアス税理士法人
IPO支援事業部 統括責任者 森本 良二 - 1987年いちよし証券に入社、1989年から引受業務に就いて以降2022年10月まで主幹事66社(うちIPOは46社)の実務を行う。同社のIPO引受証券(いわゆるシ団)1,199社のうち約34年間で1,183社の引受業務に関与。同社の引受業務撤退に伴い、2022年11月より日本クレアス税理士法人 IPO支援事業部 統括責任者。同法人グループのハブとして、税理士・公認会計士・社労士・弁護士・司法書士と連携し、IPO支援事業を展開。
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この記事でわかること
- 2026年上半期のIPO市場の動向と、下期以降の展望
- 「主幹事証券会社難民」や「上場維持基準見直し」など、IPO市場の最新トレンド
- TOKYO PRO Market(TPM)をはじめとするプロマーケット市場の現状と今後の見通し
目次
1.はじめに
2026年上半期の日本の株式市場は、1月5日(大発会)の日経平均株価終値が51,832円80銭となり、前年末比で1,493円32銭高と大幅上昇してスタートしました。その後は、2月末に発生したイラン情勢の緊迫化を受けて株価が大きく変動する局面もありましたが、上半期を通じては上昇基調が続き、6月30日の終値は70,062円32銭となりました。
一方、IPO市場は厳しい状況が続きました。一般市場における上半期のIPO社数は17社と前年同期の28社を大きく下回り、4年連続で前年上半期を下回る結果となっています。
本コラムでは、2026年上半期のIPO市場を振り返るとともに、下期以降の展望について考察します。
2.一般市場のIPO社数は17社、2012年上半期以来20社を下回る
2026年上半期のIPO社数は17社で、昨年上半期の28社と比べて大幅に減少しました。上半期で20社を下回ったのは、2012年上半期の17社以来です[過去10年間(2017~2026年)の上半期平均IPO社数は38.7社、TOKYO PRO Market、Fukuoka PRO Market、Sapporo PRO Frontier Marketへの上場を含まず、TOKYO PRO Market経由の上場を含む]。
上半期のIPO社数が通期に占める比率は、2016~2025年までの10年間で平均約42%です。この傾向を当てはめると2026年通期のIPO社数は40社程度となりますが、下期の市況やIPO環境には不透明な要素も多く、現時点で見通すことは容易ではありません。ただし、上半期の状況を見る限り、ここ数年の通期のIPO社数を下回る可能性は高いと考えられます。

3.グロース市場へのIPO社数の減少とその他市場の動向
市場別の内訳は、17社すべてが東証上場(重複上場は主要市場をカウント)で内訳は東証スタンダード市場6社、東証グロース市場11社でした。国内4つの証券取引所に存在する10の市場(プロ市場は除外)の内、東京証券取引所の2市場だけがIPOを実現したという状況です。
市場別で特筆すべき事項は3つあります。
1つ目は、東証グロース市場のIPO社数の減少です。2026年上半期は11社であり、2025年上半期18社、2024年上半期34社と比べて、大きく減少しています。2026年上半期全体のIPO社数が約40%の減少でしたので、グロース市場の減少が全体に反映したと言えます。
グロース市場へのIPO社数減少の原因は、主幹事証券会社の受託ハードルが引き続き上がっており「主幹事証券会社難民が増えている」ことや、IPO準備会社が「グロース市場への上場を敬遠する」などが考えられます。このような現象は上場維持基準見直しの影響が顕著に現れていると考えられます。
2つ目は、東証市場へのIPO占有率です。2025年上半期は、地方証券取引所へのIPOが3社(重複上場1社を含む)あり、2026年上半期も地方証券取引所の活用が期待されましたが、17社すべてが東証へのIPOとなりました。ただ、地方証券取引所を活用する動き自体がなくなったわけではありませんので、下期の地方証券取引所へのIPO動向に注目です。
3つ目はグロース市場の想定時価総額が増大していることです。2026年上半期の想定時価総額上位5社の内4社はグロース市場の銘柄であり、1位はGO(約1,825億円)でした。一方、想定時価総額が小規模な銘柄では下位5社のうち3社がスタンダード市場上場という結果となりました。想定時価総額が最も少額の銘柄はスタンダード市場に上場したソフトテックス(約17億円)です。2026年上半期では想定時価総額が大きい銘柄はグロース市場に上場し、少額な銘柄はスタンダード市場に上場したという構図になっています。
4.主幹事証券会社の状況
2025年上半期は証券会社10社が主幹事を務めましたが、2026年上半期は6社に留まりました。
内訳としては、野村5社、SBI5社、岡三3社、SMBC日興が2社、大和1社、みずほ1社でした。全体的にIPO社数が減少する中で、野村が2025年上半期と同数で、SBIが1社から5社へと社数を伸ばしました。一方、毎年上位に位置するSMBC日興は昨年の5社から今年は2社へ、大和とみずほが昨年の5社から今年は1社へと大幅に減少しています。
また、2024年・2025年は年間2社ずつの実績であった岡三が、2026年上半期のみで3社の主幹事実績を残したことは特徴的でした。
ここ数年、「主幹事証券会社難民」と呼ばれる状況が続いていますが、2026年上半期はその傾向がより顕著になりました。
その原因として、2025年のグロース市場の上場維持基準見直しが注目されますが、問題の発端はそれ以前にさかのぼると考えられます。近年上場を実現した会社の多くは、上場の3~5年程度前に主幹事証券会社と契約を締結しており、実際には2022年4月の東京証券取引所の市場区分再編前後から、一部の主幹事証券会社がより大きな時価総額や成長性を重視する傾向を強めていました。
グロース市場の上場維持基準見直しは、こうした動きをさらに鮮明にしたといえます。主幹事証券会社によっては、上場維持基準を見据え、IPO時点から高い時価総額や成長可能性を求める姿勢が強まっており、IPO準備会社に求められるハードルは従来よりも高くなっています。
こうした状況から、今後もしばらくはIPO社数の回復は容易ではないでしょう。IPO準備会社にとっては、これまで以上に成長戦略や事業規模の拡大に取り組みながら、早い段階から主幹事証券会社との対話を進めていくことが重要です。
5.監査法人は太陽がトップ、ビッグ4は40%未満まで減少
2026年上半期のIPOにおける監査法人については、太陽が4社でトップ(前年上半期3社)、国際的なビッグ4に属するEY新日本が1社(前年上半期6社)、PwC Japanが1社(前年上半期3社)、トーマツが2社(前年上半期2社)、あずさが0社(前年上半期0社)となりました。ビッグ4の合計は4社、シェアは約23.5%と、前年上半期の39.3%に比べて大きく低下しています。
一方、準大手監査法人および中小監査法人が昨年同様実績を残し、合計で13社、シェア約76.5%(前年上半期60.7%)となりました。
主幹事を務める証券会社は例年10社程度でその顔触れにも大きな変化はありませんが、IPO監査を担う監査法人の数はここ数年で増加しています。2024年上半期は15の監査法人が、2025年上半期は16の監査法人が実績を残しました。2026年上半期は、IPO社数が大幅に減少したにも関わらず、12の監査法人が実績を残しています。中堅以下の監査法人の台頭により、監査難民問題は数年前に比べて落ち着いている状況です。
一方で、2025年8月に上場廃止した株式会社オルツによる不正会計事案(後述)の影響により、監査法人のIPO監査に対する慎重な姿勢が強まることが懸念されます。今後、IPO案件の受嘱に慎重な監査法人が増えれば、IPO準備会社による監査法人の確保が難しくなり、IPO社数にも影響を与える可能性があります。
6.グロース市場の上場維持基準の見直し、その他改訂によるIPO準備への影響
「グロース市場の上場維持基準の見直し等に係る有価証券上場規程等の一部改正」が2025年12月8日に施行されました。
項目 見直し後 見直し前 時価総額 上場から5年経過後事業年度の末日において100億円以上(改善期間1年) 上場から10年経過後事業年度の末日において40億円以上(改善期間1年) 2025年12月8日施行
ただし、2030年3月1日以後最初に到来する事業年度の末日において時価総額に関する基準に適合しない状態となった場合であって、上場維持基準の適合に向けた計画書において、計画期間の末日を2031年3月1日以後最初に到来する事業年度の末日の翌日以後と定め、開示した上場会社については、当該計画期間の末日まで、上場廃止を猶予することとします。
▲東京証券取引所ホームページ「グロース市場の上場維持基準の見直し等に係る有価証券上場規程等の一部改正について」より抜粋
改正前の上場維持基準は、上場10年経過後から、時価総額40億円以上が求められましたが、改正後は、上場5年経過後から、時価総額100億円以上が求められます。なお、2030年以降に上場後5年を経過している上場企業に適用されます。
上場維持基準見直しによる今後の懸念として、主幹事証券会社がIPO時の想定時価総額が100億円未満の会社に対して、主幹事業務の引受けに難色を示し、「主幹事証券会社難民」問題が加速する可能性があることでしょう。
2025年上半期にグロース市場へ上場した18社中11社(約61%)が想定時価総額100億円未満でしたが、2026年上半期ではグロース市場上場の11社中6社(約54.5%)が想定時価総額100億円未満となり、いわゆる小粒上場は減少しています。
これは、一部の主幹事証券会社において、想定時価総額100億円未満の銘柄が敬遠されていることが原因のひとつと言えます。
また、この状況にさらに影響を及ぼす可能性のある動きもあります。
2025年12月9日に東京証券取引所が公表した「グロース市場の上場維持基準見直しに伴う対応について」において、「【時価総額が100億円未満の場合】(中略)上場維持基準(上場5年経過後、時価総額100億円以上)への適合を意識し、検討をお願いいたします。」という文言が、グロース市場ガイドブックに追加されたことです。本来、上場維持基準は上場後に適用される基準ですが、新規上場時点からその達成を意識するよう求める内容とも受け取れます。そのため、主幹事証券会社によっては、上場準備段階から時価総額100億円以上を前提とした成長性や事業規模を求める動きが、今後さらに強まる可能性があります。
さらに、IPO準備会社に影響を与える動きとして、2026年3月27日に日本公認会計士協会、日本取引所グループ、日本証券業協会の3団体から、それぞれ新規上場時の会計不正事例を踏まえた対応策が公表されました。以下は、そのうち東京証券取引所が公表した対応策の概要です。
2025年8月に上場廃止となった株式会社オルツの不正会計事案を受け、IPO関係者に対する対応強化が求められています。これに伴い、主幹事証券会社にもこれまで以上に厳格な対応が求められるようになりました。その結果、主幹事証券会社による審査直前のIPO準備会社では、従来よりも詳細な審査に時間を要するケースが見られ、日程の遅れやIPO計画の見直しにつながっています。
7.TOKYO PRO Market上場の増加傾向は継続、その他プロマーケット市場の状況
TOKYO PRO Market(TPM)の新規上場社数は年々増加しており、2026年上半期は24社と、2025年上半期の21社を上回りました。総上場社数は2026年6月末時点で183社となりました。また、福証のプロ向け市場Fukuoka PRO Market(FPM)が2024年12月16日に開設され、2025年上半期は1社が単独上場しましたが2026年上半期の単独上場はありませんでした。2026年6月30日には、新たに札幌証券取引所にSapporo PRO Frontier Marketが開設され、6月30日にアットマークテクノが第1号として単独上場しました。これにより、プロ市場へのIPOは東証と札証の2つの市場で実現しました。
グロース市場の上場維持基準見直しの影響で、一般市場からプロ市場に目標市場を変更するIPO準備会社が増えています。そのため、2026年通期では、TOKYO PRO Marketの年間最高上場会社数50社(2024年)を上回ると予想されます。
8.下期以降の展望
2026年下期も、主幹事証券会社による選別の厳格化や、グロース市場への上場に求められる時価総額・成長性のハードル上昇といった状況に大きな変化は見られないと考えられます。
過去のIPO低迷局面では、「ITバブルの崩壊」「リーマンショック」「ウクライナ侵攻」「コロナ禍」といった外部環境の急激な変化が要因でしたが、今回は市場制度や上場環境の変化が大きく影響しています。そのため、IPO社数の回復には一定の時間を要する可能性があるでしょう。
IPO準備会社にとっては、主幹事証券会社の供給制約を前提に準備を進めることが重要です。可能な限り早期にIPO準備へ着手し、ガバナンス体制の整備や成長戦略の具体化を進めながら、主幹事証券会社や監査法人などとの対話を早い段階から行うことが重要です。また、自社に適した市場の選択肢を柔軟に検討する姿勢が、これまで以上に求められるでしょう。
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