


- ■執筆:株式会社船井総合研究所
財務・IPO支援部 マネージング・ディレクター
宮井 秀卓氏 - 株式会社モバイルファクトリーにて経営企画室長としてIPO準備を担当した後、 取締役として、2015年3月に東証マザーズ上場、2017年6月に東証一部上場を経験。 2018年4月より株式会社船井総合研究所にてマネージング・ディレクターとして従事。
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1.IPO(新規上場)のハードルは高い?
IPO(新規上場)とはInitial Public Offeringの略で、未上場企業が証券取引所で株式を公開し、第三者がその株式を売買できるようにすることです。
一般的には、IPOをすることには以下のメリットがあります。
- 調達可能な資金の量と質の増大(銀行借入以外の選択肢が生まれる)
- 「上場企業」というステータスの獲得、知名度の向上により、取引先の拡大や、人材採用で有利になる
- IPOの準備を通じて、会社の資本回りの整理や、経営管理体制の強化が進む
しかし、いざIPOを検討しようとしても、
- IPOの挑戦のハードルは高そう
- IPOできる企業規模が分からない
- 結局、自社にはIPOは関係ない
と、敬遠してしまう経営者が多いのが実情です。
そこで、本稿では実際にIPOを実現した企業のデータをもとに、「どの程度の規模ならどの市場に上場可能か?」を解説します。
2.2018年にIPOを実現した企業の業績水準は?
上場する市場によって、業績水準をはじめとする要件が異なります。
自社の成長性や、マーケットの動向、資金調達の必要性、上場後の知名度といった、自社の現状と上場目的によって市場を決定する必要があります。また、IPOは最低3~5年間の準備期間を経て上場審査を受けることが望ましいため、3~5年後に自社がどの程度の規模まで成長するのかを見据えながら、目指す市場を決めることも市場選択のポイントです。
では、実際にどのくらいの業績があれば上場を実現することができるのでしょうか。東京証券取引所における本則市場(東証一部・東証二部)ならびに新興市場(ジャスダック・マザーズ)へ、2018年に上場した企業の業績を見ていきます。
2-1.東証一部(7社が上場)
社名 | 金額(百万円) | |
---|---|---|
MAX | ソフトバンク | 3,547,035 |
国際紙パルプ商事 | 366,777 | |
ワールド | 245,829 | |
日総工産 | 53,533 | |
アルテリア・ネットワークス | 47,587 | |
キュービーネットホールディングス | 17,971 | |
min | スプリックス | 8,504 |
社名 | 金額(百万円) | |
---|---|---|
MAX | ソフトバンク | 641,935 |
ワールド | 13,225 | |
アルテリア・ネットワークス | 7,549 | |
スプリックス | 1,164 | |
キュービーネットホールディングス | 1,502 | |
国際紙パルプ商事 | 1,031 | |
min | 日総工産 | 860 |
※各社「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」を基に株式会社船井総合研究所にて集計、いずれも上場直前期(N-1期)の業績
東証一部に直接上場した企業は7社と、全上場企業90社のうち7.7%と割合としては多くありません。その理由は東証一部への上場は、他市場ですでに上場し、次のステップとして目指されることが多いからです。
現行の上場基準では、マザーズから東証一部へ上場する場合に求められる時価総額は40億円で、直接東証一部を目指すよりもハードルが低くなります。このため、マザーズへ新規上場し、次に東証一部を目指す企業が多くみられます。
2-2.東証二部(5社が上場)
社名 | 金額(百万円) | |
---|---|---|
MAX | オーウエル | 63,750 |
ナルミヤ・インターナショナル | 26,954 | |
信和 | 15,194 | |
コーア商事ホールディングス | 15,133 | |
min | 共和コーポレーション | 11,978 |
社名 | 金額(百万円) | |
---|---|---|
MAX | 信和 | 2,631 |
コーア商事ホールディングス | 1,614 | |
ナルミヤ・インターナショナル | 1,404 | |
オーウエル | 1,200 | |
min | 共和コーポレーション | 318 |
※各社「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」を基に株式会社船井総合研究所にて集計、いずれも上場直前期(N-1期)の業績
東証一部と比較して企業規模は小さいものの、マザーズやジャスダックといった新興市場よりは大きくなります。
2-3.ジャスダック(14社が上場)


※各社「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」を基に株式会社船井総合研究所にて集計、いずれも上場直前期(N-1期)の業績
売上高が40億円未満の企業が全体の半数近くを占めており、60億円未満の企業を加えた場合、全体の70%を超えます。
営業利益についても、過半数の企業が4億円未満で上場をしています。
2-4.マザーズ(63社が上場)


※各社「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」を基に株式会社船井総合研究所にて集計、いずれも上場直前期(N-1期)の業績
マザーズへの上場の場合、売上高20億円未満の上場が過半数を占めます。営業利益についても、2億円未満(赤字で上場含む)で上場した企業が全体の6割を占めます。
マザーズでは、上場時の企業価値より、その後の成長性が特に問われます。上場時には、投資拡大期にあり営業利益を計上していない状況でも上場することが多々あります。典型的な例としては、メルカリです(同社は赤字で上場)。
3.IPO実現に向けて
新規上場というと、ハードルが高いと感じることもあるかもしれませんが、市場によっては上場に必要な業績に到達することが可能です。会社の今後の成長性を踏まえ、適切な市場選択をすることが上場実現に近づく第一歩なのです。
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