

2022年、電子帳簿保存法の改正により、電子取引に関して電子データの保存が義務化されました。実際には、適用まで2年の宥恕期間が設けられましたが、2024年には完全に紙保存が禁止されるため、多くの企業は対応検討を進めているところでしょう。
今回は、電子取引についての基礎知識とともに、改めて電子取引の改正内容を整理し、必要な対策ポイントについて解説します。

目次
電子取引とは
電子取引とは、電子データを用いて行う取引のことを指します。具体的には、取引上発生する請求書や注文書、契約書、領収書、見積書などを電子データでやり取りすることを言います。
電子帳簿保存法(以下、電帳法)では、各法律で保存が義務づけられているこれらの書類について、電子データで保存する場合のルールが定められています。電子取引は、電帳法上では「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」とともに保存区分の1つともなっています。
具体的には、電子取引には次のようなものが該当し、通信手段を問わず、電子的な取引であれば全て「電子取引」とされます。


特に、メールで取引データを受信した場合、請求書などの添付ファイルはもちろん、メール本文に取引情報が記載されている際は、当該メールが保存の対象となります。また、スクリーンショットの画像やスマホアプリ決済も電子取引に該当するため、取引データは電子データ保存の対象となります。
ただし、取引先から紙で受領した領収書等を、自社内の回覧目的などでデータ化した場合は、電子取引に該当しません。
電子取引は、あくまで取引先と電子データで送受信した取引情報のみを指すことになります。
なお、2023年からスタートするインボイス制度で導入予定のデジタルインボイスは、「電子取引」にあたります。現在は、取引金額が3万円未満の場合や「電子取引」のようにデータのみで提供されるなど、やむを得ない理由で書面での請求書等の交付が受けられない場合は、帳簿のみの保存で消費税の仕入税額控除が適用できます。しかし、インボイス制度後は、帳簿のみの保存で仕入税額控除の適用を受けられるのは法令に規定された取引に限られるため、「電子取引」の場合は適格請求書等として必要な事項を満たす電子インボイスの保存が必要となります。
第10条は改正後どう変わった?電子取引に生じた“義務化”とは
これまで、電子取引における電子データ保存については、電帳法第10条で「所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない」と定められていました。ただし、「財務省令で定めるところにより、その電磁的記録を出力することにより作成した書面は、この限りではない」ともされ、書面(紙)による出力・保存が認められていました。

この内容が、改正法では第7条で但し書き部分が削除され、全ての電子取引において電子データによる保存が義務付けられることとなりました。

しかし、この法改正は多くの企業から柔軟な法執行を望む声が集まり、対応が困難な事業者の実情に配意して「宥恕措置」が講じられることになり、2023年12月31日まではこれまで通り、電子取引データも紙での保存が認められることとなりました。2024年以降は改正電帳法の通り「電子データ保存のみ」となるため、企業はそれまでに法令に則った保存環境の整備をしなければなりません。

電子取引の保存要件は改正後どう変わった?
電帳法で定められている電子取引の保存要件は、これまでと同様、次の4項目になります。
- (1)システム概要に関する書類の備え付け
- (2)見読可能装置の備え付け
- (3)検索機能の確保
- (4)データの真実性を担保する措置
(1)はシステムのマニュアル整備、(2)はデータ確認のためのディスプレイ・アプリを準備することであり、これはデータを確認する上でも必須のものです。ディスプレイやプリンタなどは、性能・設置台数等は要件とされておらず、プリンタも、整然とした形式で明瞭な状態で速やかに出力できれば画面印刷(いわゆるハードコピー)であっても認められます。
ただし、(3)と(4)については、今回の改正で保存方法の適性化が図られました。
例えば、検索機能に関しては、改正前後で次のように変更されています。
【改正前】
- ① 取引年月日その他の日付、取引金額その他の国税関係帳簿の種類に応じた主要な記録項目を検索の条件として設定
- ② 日付又は金額に係る記録項目について、その範囲を指定して条件を設定
- ③ 2つ 以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定

【改正後】
- 検索条件を「日付、金額、取引先」に限定
- 税務職員の質問検査権行使に基づくダウンロードの求めに応じる場合には、②、③の検索要件は不要
また、真実性の担保については、従来通り次の4点のいずれかを満たすことが必須となっていますが、タイムスタンプの付与期間は、「スキャナ保存」と同様、記録事項の入力期間と同じ「最長約2か月と概ね7営業日以内」となりました。
- 一、タイムスタンプが付与されたデータを受領
- 二、速やかに(又はその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに※)タイムスタンプを付与
※取引情報の授受から当該記録事項にタイムスタンプを付すまでの各事項に処理に関する規程を定めている場合に限る。 - 三、データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム又は訂正削除ができないシステムを利用
- 四、訂正削除の防止に関する事務処理規程を策定、運用、備付け
ただし、その4つの措置のいずれかを講じればよいとはいえ、次のように取引の状態によって適切な措置は異なります。

特に電子取引は、「授受するデータ形式は取引先任せ」というケースが多く見られます。そのため、自社でタイムスタンプを用意するか、事務処理規程を備え付ける対応が基本となるでしょう。
事務処理規程は、国税庁がサンプルを公開しているので、これを活用するのも良い方法です。ただし、事務処理規程で運用するには、検索要件を確保するための整備が必要です。
改正の目的はペーパーレス化ではなく「ビジネスプロセスの変革」
今回の法改正が行われた目的は、単に「保存方式を紙からデータに移行する」ことではありません。事実、紙で受領した証憑類は、紙のまま保存することが認められます。
では、政府の狙いはどこにあるのでしょうか。
実は、紙も電子データも含め、受領した証憑類を電子データとして管理できるようにすることで、「ビジネスプロセスの変革」を行うことにあります。
「電子取引の証憑類と紙で受け取った証憑類を別々に保管する」ということは、経理の業務プロセスが複雑化することを意味します。データで収集しても紙に出力して承認する業務フローでは、承認された後に改めてデータを経理まで転送してもらう作業が発生することになり、紙の手続きよりも処理に時間がかかるのは想像に難くないでしょう。承認後の証憑データを保管する際も、転送された証憑データの情報と承認された紙の情報の突合が必要になります。紙で受領した証憑類は紙のまま保管することになるため、承認用の出力紙が混在しないよう注意しなければ、気付かないうちに制度違反を起こしてしまうリスクもあります。
つまり、電子取引のデータ保存義務化は、「適切に保存する」だけではなく、一連のプロセスごと対応できる環境にすることも含めた制度改正と言い換えることができるのです。
今、市場には電帳法対応のサービスが多く提供されています。しかし、対応を考える際には保存要件を満たすだけでなく、次のように関連する業務がどこまで効率化できるかを確認しなければ、ビジネスプロセスの問題は解決できないままになってしまいます。

経理業務を混乱なく法的に対応できる状態にするには、「電帳法対応+ビジネスプロセスの適正化」が実現できるサービス=いわゆる経理DXサービスが必要不可欠なのです。
例えば、奉行クラウド 経理 DX Suiteは、会計管理から債務管理、証憑管理業務を網羅し、証憑収集から経理業務の一連の流れを丸ごとデジタル化できるDXサービスです。

AI-OCR機能も搭載しているので、証憑の収集段階から電子取引データ・仕訳・支払処理に必要な情報を全て自動でデータ化するため、従業員の入力の手間も省きます。収集した情報は、そのまま仕訳入力や支払予定表の作成にも自動で反映することができます。
もちろん、電帳法対応も万全です。上長承認後にタイムスタンプが自動付与されるため、付与が漏れる心配はありません。スキャナ保存制度にも対応しており、紙の証憑類もスキャナして電子データ保存ができる流れが構築できるため、経理処理を全てデータ化することも可能です。
おわりに
バックオフィス業務は、企業のヒト・モノ・カネの情報を管理する部署であり、社内でも多忙を極めるポジションであることは言うまでもありません。
今後予定されているインボイス制度も対応することを考えれば、経理業務の混乱は目に見えています。今回の制度改正を単なる保存方法の変更と安易に考え、紙による業務処理を残しておくことは、さらに社内を圧迫する原因の1つになるといえます。
業務プロセスをデジタルで完結することで、業務効率化、生産性向上に貢献できるだけでなく、リアルタイムで情報を把握できるので、経営判断のスピードアップにもつながります。
今回の改正電子帳簿保存法への対応をきっかけに、経理DXを進め、社内の体制をより強固にしていきましょう。
※ 電帳法対応の準備の進め方については、コラム「2年猶予を賢く使おう!改正電子帳簿保存法に必要な対応と進め方をわかりやすく解説!」も参照ください。
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