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今、労働者にも企業にも副業・兼業へのニーズ、関心が高まっています。特に、コロナ禍によって雇用環境が激変したことも影響しているようで、最近は企業規模にかかわらず「副業・兼業を認める」または「副業・兼業者を採用する」という企業も増えているようです。
しかし、自社でも前向きに検討してみたいと思う反面、人事労務面における問題に「流行りだけで気軽に取り組むのは危険」と感じている担当者も多いのではないでしょうか。
今回は、副業・兼業による企業メリットやデメリット、解禁する際の注意点など、人事労務担当者が押さえておきたいポイントについてご紹介します。
目次
「副業・兼業」とは
「副業」や「兼業」は、「収入を得るために携わる本業以外の仕事」つまり、2つ以上の仕事を掛け持ちすることを指します。対して「本業」は、主たる収入源となる仕事のことを指します。
実は、法律上、「副業」と「兼業」を区別する定義はありません。国語辞書もほぼ同義の解説がされていますが、一般的には、以下のように区別して使用することがあります。
副業 | 本業以外で空き時間などに行う本業以外の仕事 |
---|---|
兼業 | 本業との関係がある・ないに関わらず、本業と並行して行う仕事(専業の対義語) |
副業・兼業の雇用形態も様々で、正社員やパート、アルバイトなど企業に雇用される形で行う場合や、起業して個人事業主やフリーランスとして請負や委任という形で契約するケースもあります。
副業・兼業は、法律上では禁止されていないものの、これまでは就業規則等により「原則禁止」や「副業の許可制」などを定めている企業が多くありました。厚生労働省が提供しているモデル就業規則にも「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という例文があったほどです。
しかし、副業・兼業を希望する人が年々増加していることや、グローバル企業に比べて副業・兼業を許容する企業の割合が少なかったことを考慮し、政府は2018年1月に働き方改革の一環として「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を発表しました。このガイドラインに、安心して副業・兼業に取り組むことができるよう、副業・兼業時の労働時間管理や健康管理等について明示されたことによって、副業・兼業は「原則容認」とされ、同時にモデル就業規則に記載されていた例文も削除されました。
このようなことから、ガイドラインが発表された2018年は「副業元年」と呼ばれるようになり、副業・兼業が注目を集めるようになりました。
ガイドラインが発表された当初は、まだ一部の大手企業で取り組まれる程度に留まっていました。しかし今では、新型コロナウイルスによる企業の業績悪化や人件費削減が影響して副業・兼業を始める労働者が増え始め、これまで副業・兼業を禁止してきた企業でも「従業員の不安感払拭」「優秀な人材の離職防止」などから解禁する動きが見られます。
なお、公務員については、国家公務員法により、人事院の承認がない限り営利企業における一定の副業・兼業は禁止・制限されています。
副業・兼業がもたらす企業メリット・デメリット
副業・兼業は、従業員には収入増加やキャリアアップなどのメリットがあると言われています。
では、副業・兼業を解禁する企業には、どのようなメリット・デメリットが生じるのでしょうか。
<副業・兼業で企業が得られるメリット>
①コストや手間をかけずに従業員育成ができる
従業員が副業・兼業を行うと、自社では経験できない新たなスキルや知識を得ることができます。実践式でノウハウを身につけることができるので、これらのリソースは従業員にとってスキルアップやキャリアアップ、自信や自主性を促すことにもつながります。
また、従業員を送り出す企業にとっては、社内研修や外部研修などにかかる教育コストを抑えることができ、自然と従業員を成長させることができる仕組みとも言えます。
②優秀な人材の流出防止・雇用促進につなげられる
副業・兼業を解禁するということは、多様な働き方を認めることにもなります。
世界規模で見れば日本の雇用の流動性はまだ低く、政府は労働市場の流動化を高めることで経済成長を実現させようとしています。しかし、流動化が進むことで優秀な人材が流出するのは、企業としても防ぎたいところでしょう。
副業・兼業を解禁すれば、転職せずにビジネススキルを上げることができるので、社内の優秀な人材を定着させることにも役立ちます。また現在は、労働者にとって「副業・兼業ができる」ことが就職・転職を決める要因の1つになっています。柔軟な取り組みは、新規採用においても労働者には企業の魅力として映るでしょう。
③業務領域の拡大、新規事業参入などビジネスの可能性が広がる
従業員が副業・兼業を行い、身につけたスキルや知識を本業でも発揮してもらうことで、自社の利益へとフィードバックされ、事業の拡大や新技術の開発(イノベーション)も可能になります。副業・兼業を通して得た新たな人脈から、これまでにはない新たなビジネスモデルも期待できるかもしれません。
また、自社でも外部リソースとして副業者を雇用すれば、慢性的な人手不足も解消し、業務効率も図れます。業務に応じて専門家を導入することもできるので、業務領域の拡大や新規事業にも取り組むことができるようになります。
<副業・兼業で企業が被るデメリット>
①機密漏洩のリスクがある
副業・兼業でもっとも心配されるのは、「情報漏洩の可能性」ではないでしょうか。
本来、労働者には在職中「秘密保持義務」や「競業避止義務」があり、多くの企業では情報漏洩対策の一環として入社時の誓約書や就業規則に定めています。たとえ従業員の過失であっても、情報が漏洩し企業の競争力が損なわれないように、企業としてはできる限りの対応をしなければなりません。そのため、副業・兼業を解禁する際には、機密情報や営業上の社外秘情報など情報の取り扱いについて明確化するなど、漏洩対策を考える必要があります。
②人材流出のリスクがある
副業・兼業の解禁は多様な働き方を認める一方、従業員の転職意向をかき立てるトリガーになる可能性も否定はできません。
副業・兼業は認めても、離職の防止・人材定着対策などの努力は必要です。これまで以上に、リテンションマネジメント、つまり、自社に魅力を感じたり成長を実感できたりする職場環境づくりも重要になってくるでしょう。
③労働時間や健康状態の管理が難しくなる
労働基準法第38条には「労働時間は、事業場を異にする場合においても労働時間に関する規定の適用については通算する」とあり、副業・兼業先での労働時間も通算して管理しなければなりません。
副業・兼業先での雇用契約内容によっては、労働基準法が適用されない場合や労働基準法は適用されても労働時間の上限規制が適用されない場合などのケースもありますが、副業・兼業先での労働時間まで自社で管理するのは非常に難しいものです。
また、労働時間が増えると精神的な負担が増える可能性もあり、本業の生産性低下などのリスクも考えられます。労災に発展するような事態になった場合、本業と副業のどちらに原因があるかなど、責任判断が難しくなるかもしれません。
現在は、法的罰則を伴って「労働時間の上限規制」も定められています。自社が本業にあたるか副業先かにかかわらず、責任の所在を明確にできるようなルールづくりが必要です。
副業・兼業の解禁で企業が押さえておきたい5つのポイント
ガイドラインには、副業・兼業の解禁する場合に企業が押さえておくべきポイントも示されています。ここでは、次の5つのポイントについて解禁する企業に必要な対応をご紹介しましょう。
(1)就業規則の改定が必要か検討する
ガイドラインでは、「裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当」としています。「副業を認める」ことは基本的に企業側の自由ですが、「副業禁止への合理的な理由」がない場合、規則で副業を禁止していたとしても、トラブル時に裁判では認められない可能性があります。
もし、現在の就業規則上、副業・兼業を「全面禁止」もしくは「事前許可制」としている場合は、「自社での業務に支障があるかどうかを精査した上で認める」方向で検討しておきましょう。
もし禁止にする場合は、どのような場合に禁止するかを明確に列挙することが必要です。例えば、厚生労働省が提唱する「モデル就業規則」には、次のような例文が紹介しています。
(副業・兼業)
第68条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該事業に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。
- ①労務提供上の支障がある場合
- ②企業秘密が漏洩する場合
- ③会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
- ④競業により、企業の利益を害する場合
また、副業・兼業では「安全配慮義務」「秘密保持義務」「競業避止義務」「誠実義務」についても注意が必要です。例えば安全配慮義務では、副業・兼業を行う労働者を使用する全ての企業が責任を負うことになります。副業・兼業の際の禁止事項や対応など就業規則で取り決めておくことはもちろん、長時間労働や健康被害が起こらないような措置も取り決めておきましょう。
就業規則の内容を変更する場合は、労働基準監督署へ変更届の提出が必要です。その際、従業員の過半数を代表する者の意見書の提出や社内周知の徹底など、必要な手続きがあるので注意しておきましょう。
※ 就業規則の変更届については、コラム「給与規定を変更したら変更届出は忘れずに!手続きの流れや注意点を分かりやすく解説」も参照ください。
(2)副業・兼業の確認、手続き方法をルール化する
企業は、労働契約法において、賃金の支払い義務や安全配慮義務など、信義誠実の原則に基づき様々な義務を負うことになります。そのため、副業・兼業先での就業状況も把握しておく必要があります。特に副業先での雇用契約次第で、労働時間の通算対象となる・ならないが決まります。副業・兼業を希望する従業員には、次のような内容を確認できるよう、手続きをルール化しておきましょう。
<副業・兼業を希望する従業員に確認しておくこと>
- 副業・兼業先の情報(企業名、連絡先、事業内容)
- 副業・兼業先で従事する業務内容 、勤務場所
- 労働時間通算の対象となるか否かの確認
- 副業・兼業先との労働契約の締結日、期間
- 副業・兼業先での所定労働日、所定労働時間、始業・終業時刻
- 副業・兼業先での所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数、副業・兼業先での実労働時間等の報告の手続き
- これらの事項について確認する頻度
厚生労働省のホームページには届様式例もWord形式で用意されているので、活用すると便利です。
(3)自社の労働時間管理が適正か見直す
労働基準法に則り、副業・兼業先での労働時間を通算しなければなりません。特に、自社が後から労働契約を交わした副業・兼業先であれば、自社での時間外労働がなくても「割増賃金」が発生する場合があります。本業であっても、時間外労働の上限規制が定められているため、法令に則った時間外労働の管理は行わなければなりません。
ただし、副業・兼業先での雇用契約が以下のケースであれば、労働時間規制の適用外となりますので、労働時間を通算する必要はなくなります。
<労働時間規制の適用外となる雇用契約>
- フリーランス、アドバイザー、コンサルタントなど、個人事業主や委託契約・請負契約
- 顧問、理事、監事など労基法上の管理監督者として雇用
- 機密事務取扱者、監視・断続的労働者、高度プロフェッショナル制度などの雇用契約
ガイドラインでは、副業・兼業先での実労働時間は「労働者からの申告等により把握する」とされています。解釈通達でも「労働者からの申告等がなかった場合には労働時間の通算は要せず、また、労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間が事実と異なっていた場合でも労働者からの申告等により把握した労働時間によって通算していれば足りる」とあり、実質、従業員からの申告で把握できる範囲でよいとされています。(令2.9.1基発0901第3号)
また、副業・兼業先の労働時間は必ずしも日々把握する必要はありません。労働基準法を遵守するために必要な頻度で把握すればよく、自社が本業の場合、通常の「時間外労働の上限規制」ルールに従っていればほぼ問題はないでしょう。
※ 時間外労働の上限規制に関する法改正については、コラム「知らないとまずい!残業時間の上限規制で今すぐ企業が見直すべきポイントとは」を参照ください。
労働時間の通算方法や時間外労働にかかる割増賃金については、厚生労働省のガイドラインから労働時間の通算方法や割増賃金の考え方を読み解いたホワイトペーパー「人事労務担当者が押さえておきたい副業・兼業における労働時間管理のポイント」も是非ご参考ください。
(4)労災保険、労働保険関係の手続きの有無を確認する
副業・兼業では、労災保険や雇用保険・社会保険などの労働保険も気になるポイントでしょう。
労災保険は、自社で1人でも従業員がいれば労災保険の加入手続きを行う必要があります。そして、例えば自社から副業・兼業先に移動中に災害が発生した場合は、通勤災害として労災保険の給付対象となります。
その際の給付基礎日額(保険給付の算定基礎となる賃金)は、それぞれの企業で支払っている賃金額の合計を基に算定します。
また、複数の事業の業務を要因とする傷病などについては、これまでは企業ごとに負荷を評価して判断していましたが、今は総合的に評価して判断し、労災認定されることがあります。
雇用保険は、原則として「生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係」にある企業で加入することになるため、2つの企業で同時に加入することはできません。そのため、本業と副業先それぞれにおいて加入要件を満たすか判断することになり、通算はしません。
ただし、2022年1月より65歳以上の労働者本人の申出を起点として、本業で被保険者要件を満たさない場合でも、副業の労働時間を合算して雇用保険を適用する制度が試行的に開始されることになっています。
※ 雇用保険の加入要件については、コラム「これで安心!雇用保険被保険者資格取得届の書き方と申請時の注意点」を参照ください。
厚生年金保険や健康保険などの社会保険でも、原則として2つの企業で同時に加入することはできませんが、適用要件は各企業で適用かどうかを判断します。例えば短時間労働者は、従業員501人以上の事業所で「週の所定労働時間20時間以上」「所定内賃金月額8.8万円以上」など一定の要件を満たす場合に適用されます。(2022年10月からは100人超規模、2024年10月からは50人超規模に改正されます)
副業先が「適用外」であれば特段の問題ありませんが、どちらの企業も適用要件を満たす場合は次のような対応が必要になります。
- ①どちらの企業の社会保険に加入するか従業員が選択する
- ②選択された企業は、それぞれの企業で発生する報酬月額を合算して標準報酬月額を算定し、保険料を算出する
- ③各企業は、被保険者に支払う報酬の額により保険料を按分し、選択したほうの社会保険の管轄先へ納付する
(5)副業・兼業を行う従業員の健康状況を把握できる仕組みの導入
労働安全衛生法では、「企業は従業員が副業しているかにかかわらず健康診断等を実施しなければならない」(第66条)とあります。一般健康診断の実施対象者は、「常時使用する労働者(短時間労働者を含む)」となっていますが、常時使用する短時間労働者については、次のいずれをも満たすことが必要です。
- ①期間の定めのない労働契約により使用される者
※ 期間の定めのある労働契約により使用される者であって、契約期間が1年以上である者、契約更新により1年以上使用されることが予定されている者、1年以上引き続き使用されている者を含む。 - ②1週間の労働時間数が、当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間の3/4以上であること
条件②は、副業・兼業先での労働時間は通算されませんが、従業員が副業・兼業を始めたことで本業にも影響がでるような心身の問題が起こる可能性はゼロとは言えません。そのため、普段から従業員の心身の健康管理にも充分配慮しておくことが大切です。
最近は、奉行Edgeメンタルヘルスケアクラウドのようなインターネットを使って従業員が気軽にメンタルヘルスケアを行えるクラウドサービスが提供されています。奉行Edgeメンタルヘルスケアクラウドでは、いつでも利用できる「心の診断アンケート」があり、5問のアンケートに回答するだけで自身の仕事や職場の人間関係の悩みなどを正確に把握できます。奉行Edge勤怠管理クラウドと連携して遅刻など勤怠の乱れから不調のサインをシステムが自動で分析し、不調の兆候が認められる従業員を自動抽出します。また、専門家による監修のもと、高リスク判定で休職・退職リスクの高い従業員を判定することもできるので、従業員のメンタル不調をいち早くキャッチし対応することができます。
おわりに
副業・兼業は、ウィズコロナの時代において企業としては避けられない課題の1つになりつつあります。
副業・兼業を解禁すれば、自社でも副業・兼業者を受け入れることが容易になると考えれば、優秀な人材の採用・確保に役立つことは間違いないでしょう。反面、労働時間管理や健康管理など法的な注意点は押さえておかないと、後々トラブルにもなりかねません。
従業員が安全に本業と副業・兼業を両立ができるように、解禁する際には就業規則の整備はもちろん、適正に労働時間管理、健康管理ができるシステムを活用して、コンプライアンスに即した運用を行っていきましょう。
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