

経理業務は、「取り扱う重要書類のほとんどが紙」という業務スタイルがこれまでは一般的でした。そのため、コロナ禍の今でも「他の部署はテレワークができても経理は出社」という企業も多くあるようです。「どうしてもテレワークが難しい」と感じる理由は様々あるようですが、その1つに挙げられるのが「請求書業務」です。
しかし、今は請求書も電子データで発行・送付できるようになっており、在宅勤務やテレワークの障がいではなくなっています。
今回は、コロナ渦中の今こそ導入しておきたい請求書の電子化について、メリットや法的解釈、導入の際に注意すべきポイントについて解説します。
目次
- 「請求書を電子化する」方法とは
- 請求書の電子化は法的に可能なのか?
- 請求書を電子化するメリット
- 請求書の電子化に向けて安全な運用に欠かせない5つの要素
- 請求書を電子化して、コスト削減と効率化を目指そう!
「請求書を電子化する」方法とは
「請求書を電子化する」とは、請求書をPDFなどの電子データで作成し、webやメール等を使ってやり取りすることを指します。
請求書を電子データでやり取りするには、web-EDIなどを利用する方法もあります。しかし、web-EDIでは自社と取引先双方に対応するシステムが必要になるなど、簡単に導入することができないのが難点でした。
そこで、もっとも負担なく簡単にやり取りできる方法として、PDFなど電子化された請求書をメールや閲覧・ダウンロード用のwebを介して送付する方法が注目を集めているのです。
最近は、市場にも請求書をデータで発行・送付するクラウドサービスが増えており、多くの企業が経理業務のテレワーク化を図るため導入し始めています。コロナ禍での経理業務をこれまで通りこなしていくためにも、請求書を電子化することは避けて通れない対応となりつつあるようです。
請求書の電子化は法的に可能なのか?
請求書をPDFなどデータで送付するという動きに対し、「法的に問題はないのだろうか」と不安を感じる声も多く聞かれますが、請求書等をデータでやり取りしても法的には全く問題はありません。
ただし、データで受け取った請求書をそのままデータで保存する場合には、電子帳簿保存法第10条に定められる「電子取引」に該当するため、以下の要件を満たすことが必要になります。(税務署長への事前申請は不要です)
<電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存要件>
- 電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付け
※自社開発のプログラムを使用する場合に限る - 見読可能装置の備付け等(ディスプレイやプリンタ等の備付け)
- 検索機能の確保
- 次のいずれかの措置を行うこと
1.タイムスタンプが付された後の授受(発行側のタイムスタンプの付与)
2.授受後遅滞なくタイムスタンプを付す(受取側のタイムスタンプの付与)
3.データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステムまたは訂正削除ができないシステムを利用
4.訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け
押印についても、2020年6月に政府が「なくても良い」と明言しており、法的な強制も全くありません。とはいえ、トラブル発生時の証憑書類としての価値も認められるため、電子印鑑や印鑑画像の貼り付けなども推奨されています。また、もし押印を廃止する場合は、相手先との合意の元で実施することが望ましいでしょう。
なお、請求書を印刷して社印を押印してからスキャンしてメール送信する場合は、電子帳簿保存法で「解像度は200dpi以上」で読み取ることと規定されているので注意が必要です。
請求書を電子化するメリット
請求書をデータで送付する方法をとると、次のようなメリットがあります。
1.発行にかかる経費や手間を削減できる
紙の請求書では、紙代・印刷代・郵送費・収入印紙代などのコストがかかりますが、データをメール等で送信する方法ならこれらの経費が不要になります。
紙の請求書では発生しやすかった印刷ミスや、封入ミスなどといった事故も起こりません。
また、金銭的コストだけでなく、印刷・封入・宛名書き・切手貼り・投函・ファイリングといった、紙でやり取りする上で発生する手間もなくなり、作業効率の向上が期待できます。
月末や月初に大量の請求書を発行する企業では、残業時間の大幅削減にもつながるでしょう。
2.請求書発行の対応力が向上する
請求書をデータ化して送付する方法なら、作成後すぐに送信できるので取引先に届くまでタイムラグがありません。取引先が求めるタイミングでスピーディーに請求書を発行できるので、「郵送では間に合わない」場合にも最適です。
また、万が一再発行や修正を求められた際にも、すぐに対応することができます。
3.在宅勤務やテレワークでも請求書の発行作業ができる
自社の販売管理システムと請求書を発行するシステムがクラウドサービスに対応していれば、インターネットを介していつでも・どこでもアクセスできるので、自宅やオフィス外に居ても請求書の発行作業を行うことができます。
緊急事態宣言などで出社がしづらい時期の業務対応にも最適です。
4.請求書の保存や管理がしやすくなる
請求書の保存期間は、法人の場合原則7年とされていますが、紙で7年分の書類を保管するとなるとかなりのスペースを要します。
しかし、請求書をデータで発行または受領できると、オフィス内に専用スペースを確保する必要がなく、オフィスの省スペース化につながります。
また、ファイル名などで簡単に検索できるので、確認したい請求書をすぐに見つけ出すことが可能です。
※ただし、発行した請求書の控えや受領した請求書をデータで保存する場合は、電子帳簿保存法により所轄税務署長の事前承認が必要です。
5.請求書送受信の確認が容易になる
発行・送信した請求書は、メール等で送っても送信履歴として残ります。また、請求書発行システムの中には、「取引先がメールを開封したか」「web上の請求書をダウンロードしたか」がわかる機能が備わっているものもあるので、請求書が確実に届いているか確認することも簡単です。
請求書の電子化に向けて安全な運用に欠かせない5つの要素
では、請求書の発行を紙からデータに切り替えるには、どのように進めるとよいでしょうか。
請求書を電子化するには、自社都合だけでなく、取引先と事前に調整しておくことも大切です。以下のポイントを踏まえ、万全の体制で導入することが望ましいでしょう。
ポイント1 請求書の電子化に対応できる取引先数の目安をつける
自社は請求書をデータで発行したいと思っても、取引先に「紙で請求書を保管している」などの事情がある場合、「負担が増える」と許諾されない可能性があります。また、独自の指定書式を用いるケースや、一方的に難色を示す企業もあるかもしれません。
まずは、電子化を受け入れてくれる取引先がどの程度あるか、導入前に目安をつけておくことが大切です。
例えば、指定用紙がなく一般的な請求書のレイアウトで送付している取引先や、請求書の送付方法に指定がない取引先、スポット取引が多い小口取引先などは、請求書の電子化に好意的に対応してもらえる可能性が高いと想定できます。こうした取引先が60件以上もあれば、発送作業にかかる人件費や発送経費の削減効果は大いに期待できるものと予測できます。
ポイント2 事前に各取引先に対して電子化の承諾を得る
目安がついても、すぐ請求書をデータ送付するのではなく、取引先には事前に通知しておくことが重要です。これにより、取引先が本当に対応可能かどうかを確認することができます。
事前連絡には、請求書を電子化したい旨の案内と、請求書電子化に関する問い合わせ先、承諾の意思確認のための回答書などを準備しておきましょう。
その際、取引先にとってのメリットも提示しておきましょう。一方的な切り替えではないことを理解してもらえれば、承諾の確率を上げることができます。
取引先への通知や問い合わせ状況を踏まえて、対応する取引先数を確定させましょう。
ポイント3 複製・改ざんできない方法で電子化する
請求書を電子化するとは言っても、ExcelやWordなどで送付すると、相手先で簡単に額面や名目を変更できてしまいます。
送付するデータは、PDFなど改ざんできないフォーマットで作成しましょう。電子帳簿保存法にも対応しているクラウドサービスの請求書発行システムを利用すれば、データ改ざんができない方法として法的にも認められています。
ポイント4 誤送信やエラーに注意する
メールで送信する際、万が一誤送信が起きてしまうと大変です。請求書は機密性の高い書類になるため、そうしたトラブルを避けるためのセキュリティ対策は必須です。
メールに添付して送信する場合は、請求書データにパスワードを設定し、データとパスワードを分けて送信するなどの対策が必要でしょう。送信する際に、別の従業員や責任者と宛先をダブルチェックする方法もあります。
請求書をweb上で閲覧・ダウンロードできる方法なら、誤送信に気づいた後でもアップロードした請求書を削除するなどの対応がとれます。
ポイント5 セキュリティを強化する
請求書は機密性の高い情報にあたるため、データで発行するにあたっては外部からのアクセスを防ぐなどセキュリティ強化が必要になります。
クラウドサービスの請求書発行システムを利用すれば、ベンダーによって万全なセキュリティ体制で管理されており、さらにアクセス可能な人数を制限することもできます。
インターネットに接続したパソコン上にデータを保存することなく、請求書を電子データで送信することができるので、管理の手間や漏えいリスクの低下につなげることができます。
請求書を電子化して、コスト削減と効率化を目指そう!
毎月発生する請求書業務は、取引相手が多いほど手間やコストがかかるため、経理業務の中でも負荷の大きい業務となっています。
OBCでは、2020年初めて緊急事態宣言が出された際、在宅勤務/テレワークの実態調査を行ったところ、実に47%の経理担当者が「テレワークの障害は請求書業務」と回答しました。これまでは紙の請求書で対応することが業務として当たり前だったため、緊急事態宣言中でも「請求書のために出社する」という事態が発生していたことが分かります。

また一方で、経理の新しい働き方を共創するプロジェクト「日本の経理を もっと自由に」による試算では、「請求書の電子化」で業務改善が実現すれば、その経済効果は1兆円以上にのぼることが分かったそうです。
経理業務の効率化・軽減化を図るためにも、請求書の電子化を進めてみてはいかがでしょうか。